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細胞壁合成阻害する抗菌薬の全体像
細胞壁をターゲットにする薬には3系統あります。
- βラクタム系
ペニシリンなど - グリコペプチド系
バンコマイシンなど - ホスホマイシン
の3つです。
細胞壁の基本構造はNーアセチルムラミン酸とN-アセチルグルコサミンが連なってできています。そして、Nーアセチルムラミン酸からペプチド鎖が生えており、隣の基本構造のN-アセチルムラミン酸と架橋して細胞壁を強固にしています。
系統別の薬の作用点をみてみましょう。
ホスホマイシンが細胞壁の前駆物質を阻害し、グリコペプチド系がペプチド鎖にキャップをし架橋できなくします。一方、βラクタム系は架橋を促進する酵素のトランスペプチダーゼを阻害して架橋できなくします。このトランスペプチダーゼがPBP(ペニシリン結合タンパク質)です。
βラクタム系
ペニシリン系、セフェム系、モノバクタム系、カルバペネム系の4種類があります。全てβラクタム環を持っているので、機序は一緒です。阻害する酵素の名前が違いますが、全てPBPです。
ペニシリン系
国試で問われるペニシリン系のポイントは、
- 抗菌スペクトラム
- 耐性
- 投与経路(経口できるか)
の3点です。
開発の歴史を追えば、ポイントをおさえられます。
青カビからペニシリンが発見されたのは有名ですね。これが天然品のベンジルペニシリンです。画期的な薬だったのですが、欠点がありました。それは
- ①抗菌スペクトラムが狭い
- ②耐性:菌が産生するペニシリナーゼに簡単に分解される
- ③胃酸で分解される:注射
これら3つの欠点がありました。この中で抗菌スペクトラムを広げるのが1番難しかったみたいです。
③胃酸で分解されない薬の開発
フェネチシリンは胃酸に分解されず、経口投与OKです。しかし、②耐性、①狭スペクトラムはまだ改善されていません。
②ペニシリナーゼ抵抗性の薬の開発
クロキサシリン、メチシリンは、菌が産生するペニシリナーゼにも分解されにくいです。βラクタム系の薬はβラクタム環がペニシリンに耐性を持った菌でもにも抗菌作用があります。
しかし、抗菌薬の乱用により耐性がつきにくいはずのメチシリンの耐性菌が出てきています。それがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)です。耐性菌の話は、バンコマイシンの耐性菌の話と一緒にやります。
①スペクトラム広い薬の開発
スペクトラムが広く(①)、胃酸にも安定(③)な薬
- アンピシリン
吸収が悪いので - バカンピシリン
アンピシリンをエステル化して吸収UP - アモキシシリン
これらの薬はスペクトラムが広く、経口で使えますが、ペニシリナーゼで分解されやすい欠点があります。そのため、ペニシリナーゼなどのβラクタマーゼの阻害薬と併用することで対処しています。
スペクトラムがさらに広い薬(①)
ピペラシリンはアンピシリンなどよりもさらにスペクトラムが広く、緑膿菌にも抗菌効果を発揮します。しかし、ペニシリナーゼによって分解されてしまうのでβラクタマーゼ阻害薬のタゾバクタムとの配合剤が市販されています。
セフェム系
βラクタム系なのでトランスペプチダーゼを阻害して細胞壁合成を阻害します。国試では世代ごとの特徴が聞かれます。薬の名前はそこまで聞かれません。
特徴として聞かれることは、抗菌力の強さとセファロスポリナーゼへの抵抗性です。セファロスポリナーゼとはβラクタマーゼです。ペニシリン系の耐性菌はペニシリナーゼを出しましたが、セフェム系に対抗するために耐性菌はセファロスポリナーゼを産生します。
抗菌力は陰性菌に対して世代が上がるごとに強くなり、陽性菌に対しては世代が上がるごとに弱くなります。イメージとして、陽性菌は雑魚キャラ、陰性菌はボス級の敵だと思ってみてください。陽性菌を倒すのは簡単なので、セフェム系は世代を上げるごとにボス(陰性)に特化していった感じです。第四世代は例外で、陽性菌にも陰性菌にも最強の抗菌力を誇ります。
セファロスポリナーゼに対しては、第一世代だけ簡単に分解されますが、それ以降は抵抗性を持ちます。
薬の覚え方は、「ァ」がつくのが第一世代、セフォチアムが第二世代、それ以外が第三世代だと覚えておきましょう。
特徴的な副作用にジスルフィラム作用があります。ジスルフィラム作用とは、アルコールの分解に関わるアルデヒドデヒドロゲナーゼが阻害されて、アルコールを飲むとアルデヒドが蓄積して、ひどい二日酔いの症状が出てしまう作用です。全てのセフェム系に出るのではなく、こんな↓構造を持っているセフメタゾール、セフォペラゾンなどに出る副作用です。国試ではこの2つの薬を覚えといてください。
覚え方は「オペラで酔っ払う」です。セフォペラゾン
モノバクタム系
この分類の薬はアズトレオナムだけです。緑膿菌にも効きます!
カルバペネム系
カルバペネム系は抗菌薬の切り札的存在です。超広域スペクトラムを持ち、ほぼ全ての細菌に効きます。緑膿菌にも効果を発揮します。逆に効かない菌はMRSAやマイコプラズマなど数えるほどです。
バルプロ酸とは併用禁忌です。カルバペネム系薬がグルクロン酸抱合を促進させるため、バルプロ酸が排出されバルプロ酸の血中濃度が下がってしまいてんかん発作が起きる可能性があります。
薬を見てみましょう。カルバペネム系は、腎臓にある酵素のDHP-Ⅰによって分解され、分解物は腎毒性があります。分解させたくないためDHP-Ⅰ阻害薬と一緒に使います。
例外はメロペネムです。この薬はDHP-Ⅰに分解されないため単剤で使えます。
DHP-Ⅰ阻害薬も組み合わせで覚えないといけないのでゴロを使って覚えましょう。
ゴロ「意味なくシラスをパンにベタッ。メロンはそのままいただきます。」
グリコペプチド系
グリコペプチド系には2種類しか薬はありませんが、かなり出ます!薬理だけでなく、薬剤でも病態でも実務でも出てきます。まずは薬理でなんの薬かを理解するのが先決です。
作用機序は、N-アセチルムラミン酸のペプチド鎖のD-アラニンにくっついて、架橋できなくして細胞壁を弱くします。
副作用は
- 腎障害
- レッドネック症候群←ヒスタミン遊離作用により
- 第八脳神経障害で耳鳴り
があります。(よく聞かれます)
グリコペプチド系は吸収が悪いので注射で使うのですが、バンコマイシンが経口で処方されるときがあります。これは、吸収が悪いことを利用して腸炎に対して局所作用を目的に使っています。
耐性菌のお話
グリコペプチド系はMRSAの特効薬です。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、ペニシリン系のβラクタマーゼ耐性を持っているメチシリンでも効かない黄色ブドウ球菌です。
最近、そんなグリコペプチド系に対して耐性を持った菌が生まれてきてしまいました。それがVRE(バンコマイシン耐性陽性菌)です。通常、N-アセチルムラミン酸には最後がD-アラニンのペプチド鎖が付いていて、グリコペプチド系の作用点は、D-アラニンをキャップして架橋できなくすることでした。VREは最後のアミノ酸を乳酸にすることでバンコマイシン耐性を持ってしましました。