今回は、薬が口に入ってから、全身循環に至るまでの流れを見ていきます。
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全身循環へ入るまでの流れ
小腸が消化管吸収のメインパートです。約9割の食べ物や薬は小腸から吸収されます。
大腸の役割は水分や電解質の吸収です。
経口薬吸収の流れ
口から入った薬は、
- 胃や小腸で崩壊→溶解し、溶液になる
- 小腸に行った薬は、小腸上皮細胞の細胞膜を透過し、門脈に入って肝臓へ
- 肝臓で肝初回通過効果を受け、全身循環へ
吸収の要因
吸収の要因を、薬側と体側の要因に分けて整理してみましょう。
薬側の要因:膜透過性、溶解性、安定性
吸収する際の薬側の要因は3つ。
- 膜透過性
- 溶解性
- 安定性
でも、錠剤の溶解性(崩壊→溶解)は、水溶性が高い方が溶解しやすく吸収されやすい。
また、インスリン(タンパク質製剤)のように、消化酵素で分解されるとアウトなので、エステル化するなど、薬の安定性も求められます。
律速過程はどこ?
- 脂溶性薬は膜透過は速いけど、溶解が遅い。
- 水溶性薬は溶解は速いけど、膜透過は遅い。
溶解性
溶解性について中身を見ていきましょう。
溶解速度の式は、Noyes-Whitney式を用います。
Noyes-Whitney式
薬の表面積が大きく(粒子が細かい)、溶解度(飽和水溶液の濃度)が大きいものが溶ける速さが速い。
この式と単純拡散のFickの法則の式はそっくりなので、合わせて覚えると楽です。
あとは、分子の状態が、結晶形(→遅い)などでも変わってきますが余裕があったらでOKです。
膜透過性
膜透過は基本的にFickの法則に従います。
単純拡散のFickの法則の式とNoyes-Whitney式は
どちらも速度は面積と濃度勾配に比例、厚さに反比例です。
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【薬剤師国家試験】単純拡散をわかりやすく解説。単純拡散で通せない物は促進拡散などで通す。
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生体側の要因
生体側の要因としては、胃内容排泄速度GER、血流速度、消化管分泌液があります。
薬剤の吸収過程における相互作用など、国家試験で問われやすいのが胃内容排泄速度GERです。
胃内容排泄速度GER
GERとは、経口投与された薬物が胃を通過して腸へ移行する速度のことです。
GERの影響因子
- 遅めるもの
- 食事
胃から小腸に一気にものを送っても消化不良になるので、胃は少しずつ小腸に送ります。 - 抗コリン作用のある薬
プロパンテリン、イミプラミン、アトロピンなど
- 食事
- 早めるもの
- 空腹
- 不安
- 抗ドパミン薬
メトクロプラミド:D₂受容体遮断→ACh↑
食事と薬の吸収の関係
一般的な薬の例:アセトアミノフェン
アセトアミノフェンは単純拡散で吸収されるので、
空腹時、食べ物や飲み物が腸内にない→溶液としてのアセトアミノフェンの濃度が大きい→吸収速度大
食事などでGERが遅くなると吸収が遅れます。
つまり、一般的な薬は、食前の方が吸収が良くなります。食後投与が多いのは飲み忘れ防止です。
一方、食事をとると胆汁酸が分泌され、難溶性の薬は溶解しやすくなり、吸収しやすくなります。
特殊な薬の例:リボフラビン
リボフラビンは十二指腸にあるトランスポーターでしか吸収されません。
ここでGERが早い(食事なし)と、薬が胃から一気に送られてきてしまいます。
トランスポーターには数に限りがあるので、GERが早いと飽和し、吸収が間に合わず、吸収量が落ちます。
そのため、リボフラビンは、GERが遅くなる食後に服用します。
初回通過効果
経口された薬が全身循環に入るまでに受ける代謝のことを初回通過効果といいます。
吸収時に、小腸や肝臓でされる代謝のことを、それぞれ小腸初回通過効果、肝初回通過効果と呼びます。
薬物動態も見据えつつ解説します。
バイオアベイラビリティと初回通過効果
小腸や肝臓のCYPなどの代謝酵素で代謝されるので、
経口された薬物は、割合でどんどん削られていきます。
Fは生き残った割合です。
バイオアベイラビリティ
バイオアベイラビリティ
F=Fa(消化管)×Fg(小腸)×Fh(肝臓)
例えば、Faが5割、Fgが8割、Fhが7割とすると
全体のFは
F=0.5×0.8×0.7=0.28
となり、薬100mgを服用しても、28mgしか体の中に入ってないことになります。
初回通過効果の回避策
初回通過効果が高い(代謝されやすい)薬では、回避策を考えます。
血流律速の薬は食後に服用する
プロプラノロールやメトプロロールは、初回通過効果を受けやすく、小腸で50%が代謝されてしまいます。
この二つの薬は、脂溶性が高く、血流律速です。
(膜透過が速い→管腔側と血管側の濃度差小さくなる→血流が律速)
なので、
食事で肝血流量が多い時に服用することで、代謝酵素が飽和し、初回通過効果を受ける割合を少なくすることができます。
代謝酵素を阻害する
HIV薬のロピナビルとリトナビルは配合剤として製剤化されています。
これは、ロピナビルがCYP3A4で代謝されやすいため、CYP3A4の阻害作用も持つリトナビルと併用し、吸収を改善させています。
まとめ
今回は、消化管吸収をする上での影響因子を薬側の要因と体側の要因に分けて説明しました。
薬側の要因として、溶解性、安定性、膜透過性がありました。
体側の原因として、GERや血流速度、消化管分泌液があり、吸収に影響していました。
消化の流れを理解することで、溶解速度や膜透過性を勉強する意味も理解できたのではないでしょうか。
また、消化管吸収を考える上で、関門になっているのが肝初回通過効果です。
消化管からの投与だと肝初回通過効果は免れないで、代謝を受けやすい薬は、非経口の投与ルートも考えます。
次回は、非経口の吸収を解説していきます。