
ここからは「化学物質の定性分析・定量分析」に入ります。定性は「あるかないか」、定量は「どれくらいあるか」。今回は定性のほうを扱います。
先に言っておくと、この単元は範囲が広くて覚えることが多いわりに、国家試験での正答率が低い問題が多いところです。裏を返せば、全員が落としている問題も多い。だからここでの戦い方は「全部を完璧にする」ではなく、マインドマップに載っている代表的なものだけを確実に取れる状態にすることです。そのうえで領域別の過去問を回して、「ここで使うんだな」を体で覚えていくのが最短ルートになります。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
無機イオンの定性反応
まずは無機イオンです。押さえるのはフッ化物・過マンガン酸塩・炎色反応の3つ。
フッ化物 ─ ガラス腐食試験
フッ化物を含む検液に硫酸を加えて加熱します。すると試験管の内壁が一様に濡れなくなる、というのが陽性の所見です。
何が起きているかというと、フッ化物と硫酸からフッ化水素(HF)が生じ、これがガラスを腐食するからです。表面が荒れるので水がきれいに広がらなくなる、というわけですね。「フッ化水素はガラスを溶かす」という、化学で一度は聞いた話がそのまま使われています。
過マンガン酸塩 ─ 過酸化水素試験
過マンガン酸塩の溶液は、それ自体が赤紫色をしています。
これに硫酸酸性下で過量の過酸化水素水を加えると、泡立ちながら赤紫色が脱色し、酸素ガスが発生します。
代表的な酸化還元反応ですね。過マンガン酸イオン MnO₄⁻ が還元されて Mn²⁺(ほぼ無色)になるため色が消え、過酸化水素 H₂O₂ が酸化されて酸素になるため泡立つ、という組み合わせです。「色が消える」「泡が出る」の2つがセットで問われます。
炎色反応
中学の理科で覚えさせられたあれです。白金線などに試料を付けて炎に入れると、金属ごとに決まった色が出ます。

覚え方は「リアカー無き K村 動力 馬力、借りんとするもくれない」。
| 語呂 | 元素 | 炎色 |
|---|---|---|
| リアカー | リチウム | 赤 |
| 無き | ナトリウム | 黄 |
| K村 | カリウム | 紫 |
| 動力 | 銅 | 緑 |
| 馬力 | バリウム | 緑 |
| 借りんと | カルシウム | 橙 |
| するもくれない | ストロンチウム | 紅 |
銅とバリウムはどちらも緑、という点だけ注意してください。この語呂は後で出てくるバイエルシュタイン反応でも使うので、ここでしっかり入れておくと二度おいしいです。
医薬品の確認試験
ここからは「その医薬品が、この構造を持っているか」を確認する試験です。官能基ごとに整理していきます。
効能や薬効を覚える必要はありません。構造式を見て「この官能基が付いているな、ならこの反応だな」と反射で結びつける——それがこの単元の解き方です。
フェノール性ヒドロキシ基

ベンゼン環に直接 OH が付いた構造です。確認方法は2つ。
| 試薬 | 結果 |
|---|---|
| 塩化鉄(III)(FeCl₃、Fe³⁺) | 錯体を形成して青紫色に呈色 |
| 4-アミノアンチピリン | 反応して赤色に呈色 |
代表例はレボドパです。構造を見るとベンゼン環にヒドロキシ基が付いているので、どちらの試験でも陽性になります。
芳香族第一級アミン
今度はベンゼン環にアミノ基が付いているものです。
亜硝酸ナトリウムでジアゾ化 → カップリング試薬でアゾ色素を生じて呈色、という2段階の流れになります。有機化学でやったジアゾカップリングそのものですね。
代表例はアミノ安息香酸エチルです。
アミノ酸とイミノ酸 ─ ニンヒドリン反応
アミノ基つながりで、アミノ酸関連化合物にいきます。ここはアミンが第一級か第二級かで色が変わるのがポイントです。
| 分類 | 構造 | ニンヒドリン反応 | 例 |
|---|---|---|---|
| アミノ酸 | 第一級アミンを持つカルボン酸 | 紫色 | レボドパ |
| イミノ酸 | 第二級アミンを持つカルボン酸 | 黄色 | カイニン酸水和物 |
窒素に炭素が1本ならアミノ酸(紫)、2本ならイミノ酸(黄)。レボドパはここでも登場しますね。フェノール性ヒドロキシ基も第一級アミンを持つカルボン酸構造も両方持っているので、複数の試験で顔を出します。
ヒドロキサム酸
いきなり「ヒドロキサム酸」と言われても戸惑うと思いますが、カルボン酸の親戚だと思ってください。
カルボン酸 R–COOH の OH の部分が、–NH–OH に置き換わったものがヒドロキサム酸(R–CO–NH–OH)です。名前から構造を思い出すなら、ヒドロキシ(OH)+ アミン(NH)+ 酸(C=O) と分解すると覚えやすいです。
これは塩化鉄(III)と錯体を形成して呈色します。フェノール性ヒドロキシ基と同じ試薬なので、関連づけて覚えてください。

代表例はデフェロキサミンメシル酸塩。鉄をキレートして排出させる薬で、名前に「フェロ(Fe)」が入っているのがヒントになります。構造中に3か所、ヒドロキサム酸の部分構造が含まれています。
カルボキシ基 ─ ヒドロキサム酸に変えてから見る
カルボキシ基そのものは、そのままでは塩化鉄(III)と呈色しません。そこで、いったんヒドロキサム酸に変えてから確認します。
カルボン酸 + ヒドロキシルアミン(脱水剤 DCC 存在下) → ヒドロキサム酸 → Fe³⁺ と錯体形成 → 呈色

代表例はナプロキセンです。
ここで過去問の引っかけを1つ。ナプロキセンの構造を見せて「塩化鉄(III)と反応して呈色するか」と問う問題が出たことがあります。答えは×。呈色するのは、ヒドロキシルアミンと反応させてヒドロキサム酸を生成させた後の話であって、カルボキシ基が塩化鉄(III)と直接反応するわけではないからです。ヒドロキサム酸の定性反応とごっちゃにしていると、そのまま引っかかります。
アルデヒドとケトン ①還元性の違いを見る

アルデヒドは炭素鎖の末端に C=O があり、ケトンは炭素と炭素の間に C=O があります。この違いから、アルデヒドのほうが酸化されやすい=還元性が高いという性質の差が生まれます。
それを見るのが銀鏡反応とフェーリング反応です。
| 反応 | 起こること |
|---|---|
| 銀鏡反応 | アルデヒドが酸化されてカルボン酸に。Ag⁺ が還元されて銀が析出し、器壁が鏡のように光る |
| フェーリング反応 | アルデヒドが酸化される一方、Cu²⁺ が還元されて酸化銅(I)(Cu₂O)の赤色沈殿を生じる |
大学受験でやったところなので、思い出せば十分です。
ここでもう1つ追加があります。α-ヒドロキシケトン——ケトンの α 位に OH が付いた構造——も酸化されやすく、アルデヒドと同様に銀鏡反応・フェーリング反応が陽性になります。これは必ずセットで覚えてください。

- グルコース:末端にアルデヒドを持つ → 陽性
- ヒドロコルチゾン:α-ヒドロキシケトンを持つ → 陽性
アルデヒドとケトン ②共通で起こる反応
こちらは還元性ではなく、C=O そのものを見る反応なので、アルデヒドとケトンの両方が陽性になります。
試薬は 2,4-ジニトロフェニルヒドラジン。長い名前ですが、大事なのはヒドラジンの部分です。ヒドラジンは窒素が2つつながった構造(–NH–NH₂)の総称で、これが C=O と縮合すると C=N–NH– という構造、すなわちヒドラゾンができます。
このヒドラゾンが黄色〜橙色の沈殿を生じるので、それを見るわけです。
代表例は d-カンフル。過去問では、カンフルの C=O が反応してヒドラゾンの沈殿を生じる、という形で出題されています。
ハロゲンの検出 ─ バイエルシュタイン反応
ここからは元素そのものを見る試験です。
塩素・臭素・ヨウ素(フッ素を除くハロゲン)が含まれているかを見るのがバイエルシュタイン反応。銅線に試料を付けて炎で焼き、青色〜緑色の炎が出れば陽性です。
これは炎色反応の応用だと思うとすっきりします。銅はもともと炎色反応で緑色でしたね(語呂の「動力」)。そこにハロゲンが結びついて銅ハロゲン化物ができると、炎の色が青〜緑に変化する、という仕組みです。
ヨウ素だけを見分ける方法もあります。ヨウ素を含む化合物を直火で加熱すると、紫色のヨウ素ガスが発生します。見た目が分かりやすいので、構造式を見せて「加熱すると紫色のガスが発生する」という形で出題されます。
硫黄の検出
酢酸鉛(II)試液(Pb²⁺)を使います。試験紙に染み込ませておき、硫黄を含む試料と反応させると、硫化鉛(II)(PbS)の黒色の沈殿を生じます。
代表例はカルボシステイン。過去問では、褐色〜黒色の沈殿ができる、という形で出ていました。
まとめ
- 定性=あるかないか、定量=どれくらいあるか
- フッ化物:硫酸+加熱でHFが生じ、ガラスを腐食 → 内壁が一様に濡れない
- 過マンガン酸塩:硫酸酸性+過酸化水素で、泡立ちながら赤紫色が脱色
- 炎色反応は「リアカー無きK村動力馬力、借りんとするもくれない」
- フェノール性ヒドロキシ基:塩化鉄(III)で青紫、4-アミノアンチピリンで赤
- 芳香族第一級アミン:ジアゾ化 → カップリングでアゾ色素
- ニンヒドリン反応:アミノ酸(第一級)は紫、イミノ酸(第二級)は黄
- ヒドロキサム酸は塩化鉄(III)で呈色。カルボキシ基はヒドロキサム酸に変えてから見る
- 銀鏡・フェーリングはアルデヒドとα-ヒドロキシケトンが陽性。2,4-ジニトロフェニルヒドラジンはケトンも陽性
- バイエルシュタイン反応はハロゲン(F以外)で青〜緑の炎。ヨウ素は加熱で紫色のガス
- 硫黄は酢酸鉛(II)試液でPbSの黒色沈殿
覚えることは多いですが、ここに挙げたものはどれも代表選手だけに絞ってあります。まずはこの範囲を確実にしてから、領域別の過去問で使い方を確かめてみてください。
次は化学物質の定量分析:滴定の種類を整理するを読んでみてください。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。