
前回の定性分析に続いて、今回は定量分析です。
定量分析には純度試験や重量分析法などいろいろありますが、国家試験で出るのはほぼ容量分析(滴定)です。ですからこの記事も、大部分を滴定に充てます。最後に、出題実績のある純度試験の重金属試験だけ触れます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
容量分析の全体の手順 ─ 標定してから測る
まずここを押さえてください。容量分析は「標定 → 容量分析」という2段構えです。

流れはこうです。
- 実際に使う標準液を調製する
- でも、狙った濃度ぴったりに作れたとは限らない。そこで、濃度がわかっている標準試薬を使って標準液を滴定し、本当の濃度を確かめる。これが標定
- 標定で得られたファクターを使って、試料の容量分析を行う
ものさしを使う前に、そのものさしが正しいかどうかを確かめる作業——それが標定だと思ってください。
ファクターというのは「表示濃度に対する実際の濃度の比」です。たとえば 3 mol/L の標準液を作りたくて調製したものの、実際には少しずれていた。標定でそのずれを測り、ファクターとして持っておくわけです。ファクターは通常 ±3%程度の範囲(3 mol/L なら 2.91〜3.09 mol/L)に収まっていればよい、とされています。
用語の対応関係
用語が紛らわしいので、対応を先に固めておきます。以降の滴定はすべてこの構造で説明されます。
| 用語 | 何を指すか |
|---|---|
| 標準液 | ビュレットに入れて滴下する液 |
| 標準試薬 | 標準液のファクターを求める(標定する)ために使う、濃度が確かな試薬 |
| 標定時の指示薬 | 標定の終点を知るための指示薬 |
| 測るもの | 試料。目的の医薬品やイオン |
本試験と空試験
直接滴定
一番素直な形です。ビュレットから標準液を落として、終点までに何 mL 使ったかを見る。

ただし、使った標準液のすべてが医薬品によって消費された分とは限りません。溶媒や試薬、操作の都合でどうしても誤差が出ます。
そこで行うのが空試験です。試料を入れずに、それ以外は本番とまったく同じ条件で滴定します。本来なら0 mLのはずですが、実際には何 mLか消費されてしまう。この分が誤差です。
本試験で使った量 − 空試験で使った量 = 医薬品が消費した量
逆滴定
反応が遅い、ちょうどよい試薬がないなど、直接滴定がやりにくい場合に使うのが逆滴定です。

手順はこうです。
- 第一標準液を、明らかに過剰な一定量ドバっと加える
- 医薬品と反応しきって余った分を、第二標準液で滴定する
- 全体量がわかっていて、余りもわかったので、引き算で「実際に使われた量」が出る
空試験も同じ考え方で行います。試料なしで過剰量を加え、その余りを第二標準液で滴定すれば、誤差分がわかります。
よく出る比較
直接滴定と逆滴定では、空試験で消費する標準液はどちらが多いか
答えは逆滴定です。逆滴定の空試験では、医薬品が消費するはずだった分まで含めて丸ごと余っているので、それを全部第二標準液で滴定することになるからですね。ここは理屈で押さえておけば忘れません。
滴定の種類は5つ
滴定は中和・非水・キレート・沈殿・酸化還元の5種類です。それぞれ、よく出るものだけを拾っていきます。
① 中和滴定
酸と塩基の反応を使う、言わずと知れた滴定です。

| 標準液 | 標準試薬 | 標定時の指示薬 | 測るもの |
|---|---|---|---|
| 塩酸 1 mol/L | 炭酸ナトリウム | メチルレッド | 塩基性の医薬品 |
| NaOH や KOH 1 mol/L | アミド硫酸 | ブロモチモールブルー | 酸性の医薬品 |
塩基性の医薬品を測るのだから標準液は酸(塩酸)、酸性の医薬品を測るのだから標準液は塩基(NaOH・KOH)——ここは考えればわかります。覚えるべきは標準試薬のほう、つまり「塩酸なら炭酸ナトリウム」「NaOH・KOHならアミド硫酸」です。指示薬は「言われればわかる」程度で構いません。
アスピリンは中和滴定で定量される代表例です。ここで問われるのが反応比で、アスピリン : 標準液 = 1 : 2(mol比)になります。余力があれば、アスピリンは逆滴定で行う代表例でもある、という点まで押さえておくとよいですね。
② 非水滴定
水の中ではうまく滴定できない弱酸・弱塩基を、水以外の溶媒で滴定する方法です。

| 標準液 | 標準試薬 | 標定時の指示薬 | 測るもの |
|---|---|---|---|
| 過塩素酸 0.1 mol/L | フタル酸水素カリウム | クリスタルバイオレット(又は電位差滴定法) | 弱塩基性の医薬品 |
| テトラメチルアンモニウムヒドロキシド液 | 安息香酸 | チモールブルー・N,N-ジメチルホルムアミド | 弱酸性の医薬品 |
ここでの最重要は「過塩素酸」と「クリスタルバイオレット」の組み合わせです。
③ キレート滴定
金属イオンを測る方法。キレートといえば EDTA で確定です。

| 標準液 | 標準試薬 | 標定時の指示薬 | 測るもの |
|---|---|---|---|
| EDTA 0.05 mol/L | 亜鉛 | エリオクロムブラックT・塩化ナトリウム | 金属イオン |
指示薬のエリオクロムブラックTは、遊離型が青、金属と結合した型が赤です。滴定中は金属と結合していて赤く、終点で EDTA が金属を奪うと指示薬が遊離して青に変わる——色の変化がはっきりしているので終点がとても見やすい、というわけですね。
④ 沈殿滴定
沈殿ができる反応を使う方法です。Ag⁺ とハロゲン化物イオンの沈殿を思い出してください。基本的にハロゲン化銀は沈殿しますが、AgF だけはよく溶ける、という例外も大学受験でやりましたね。

| 方法 | 標準液 | 標準試薬 | 標定時の指示薬 | 測るもの |
|---|---|---|---|---|
| Fajans法 | 硝酸銀液 0.1 mol/L | 塩化ナトリウム | フルオレセインナトリウム(蛍光黄緑→赤) | ハロゲン(特にCl含有化合物) |
| Volhard法 | チオシアン酸アンモニウム液 | 硝酸銀液 | 硫酸アンモニウム鉄(III) | Ag含有化合物、余剰のAg⁺ |
Fajans法が基本形です。硝酸銀を滴下してハロゲン化物イオンを沈殿させ、指示薬フルオレセインナトリウムが蛍光黄緑から赤に変わったところが終点になります。

Volhard法は少し回り道をします。こんがらがりやすいので、2つの使い方を分けて理解してください。
(a) Ag含有化合物を直接測るとき 試料にチオシアン酸アンモニウムを滴下すると、チオシアン酸銀が沈殿していきます。試料中の Ag⁺ がすべて沈殿しきると、次の1滴からは指示薬の Fe³⁺ と反応して赤色を呈するので、そこが終点だとわかります。
(b) 逆滴定として使うとき 先に過剰量の硝酸銀を加えておき、余った硝酸銀をチオシアン酸アンモニウムで滴定します。「測るもの」に「余剰の Ag⁺」と書いてあるのはこちらの使い方です。
⑤ 酸化還元滴定
電子のやりとりを利用する方法です。

| 標準液 | 標準試薬 | 標定時の指示薬 | 測るもの |
|---|---|---|---|
| チオ硫酸ナトリウム液 0.1 mol/L(還元剤) | ヨウ素酸カリウム(KIO₃)(酸化剤) | デンプン試液(又は電位差滴定法) | I₂ |
ここで一番大事なのは、ヨウ素酸カリウムは「標準試薬」であって「指示薬」ではないという点です。国家試験では「ヨウ素酸カリウムを指示薬として用いる」という形の引っかけが出るので、位置づけをはっきり覚えておいてください。指示薬はデンプン試液です。
もう1つ。定性分析で出てきた芳香族第一級アミンのジアゾ化(亜硝酸ナトリウムでジアゾ化し、カップリング試薬でアゾ色素を生じる)を利用したジアゾ滴定も、酸化還元滴定の一種です。定性と定量がつながるところなので、意識しておくとよいですね。
純度試験 ─ 重金属試験
最後に純度試験から1つ。重金属試験です。
なぜやるのか、から考えると覚えやすくなります。医薬品の中にカドミウム・鉛・銅などの重金属が混ざっていると、体内に蓄積して悪さをします。ですから「混入量が限度以下かどうか」を確かめたい——これがこの試験の出発点です。
やり方はこうです。
- 医薬品を溶液にして、硫化ナトリウム試液を加える
- 重金属は硫化物になり、黒や黄など色のついた沈殿を生じる
- その色の濃さは重金属の量に比例するので、あらかじめ段階的な濃度で用意しておいた鉛(Pb)の標準液と比色する
- 色が一致した段階から、鉛換算の ppm として表す
「重金属の量を鉛に換算して表す限度試験」——この一文で押さえておけば十分です。
まとめ
- 容量分析は「標定 → 容量分析」の2段構え。標定で求めるのがファクター
- 標準液=ビュレットに入れる液、標準試薬=標定に使う濃度の確かな試薬
- 空試験は試料を入れずに行う。本試験 − 空試験 = 医薬品が消費した量
- 空試験で消費する標準液は、直接滴定より逆滴定のほうが多い
- 中和滴定:塩酸 ⇄ 炭酸ナトリウム、NaOH・KOH ⇄ アミド硫酸。アスピリンは1:2
- 非水滴定:過塩素酸 × クリスタルバイオレット(弱塩基性の医薬品)
- キレート滴定:EDTA × エリオクロムブラックT(遊離型=青、結合型=赤)
- 沈殿滴定:Fajans法(硝酸銀・フルオレセインナトリウム)とVolhard法(チオシアン酸アンモニウム・鉄(III))
- 酸化還元滴定:ヨウ素酸カリウムは標準試薬。指示薬はデンプン試液
- 重金属試験は硫化ナトリウム試液で呈色させ、鉛換算のppmで表す限度試験
覚えることが多くて、正直しんどい分野です。ただ、正答率が低い問題が多いということは、ここに挙げた代表例だけ確実にすれば選択肢を1つは削れるということでもあります。その水準を目標にして、領域別の過去問で確かめてみてください。
ここまでで、溶液の中だけで完結する分析はひととおり終わりです。ここから先は機器を使う分析法に入っていきます。
マインドマップの順番どおりに進めるなら、次は分光分析法の基礎:吸光度とランベルト・ベールの法則から始まる分光分析法シリーズです。分離分析のほうから読みたい人は、クロマトグラフィーの基本原理:保持時間・理論段数へ進んでください。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。