
物理の「化学物質の分析」の中でも、機器を使う分析法(機器分析)の代表格が分光分析法です。紫外可視吸光度測定法、蛍光光度法、原子スペクトル分析法、赤外吸収スペクトル測定法、旋光度測定法など、名前だけ聞くとバラバラに感じる測定法が並んでいますが、実はそのほとんどが同じ1つの法則を土台にしています。それが今回扱う「光の吸収の法則(ランベルト・ベールの法則)」です。
ここを最初にしっかり理解しておくと、この後に出てくる測定法がすべて「あ、あの法則の応用だな」という感覚でつながっていくので、面倒でも一番最初に押さえておきましょう。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。分光分析法の範囲はYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
分光分析法とは:これから学ぶ測定法の地図
分光分析法は、大きく分けると「物質に光を当てて、どんな反応が起こるかを観察する」という発想の測定法の集まりです。国試で問われる範囲は、次の5つのグループに整理できます。
- 紫外可視吸光度測定法・蛍光光度法:分子の電子遷移を観察する
- 原子スペクトル分析法:原子の電子遷移を観察する(考え方は上の2つとほぼ同じ)
- 赤外吸収スペクトル測定法・ラマンスペクトル測定法:分子の振動数を測定する
- 旋光度測定法・旋光分散(ORD)・円二色法(CD):キラル分子の存在や立体構造を調べる
この4つのグループは、扱う光や見ているものこそ違いますが、「定量(どれくらいの量があるか)を調べる」という場面では、共通してこれから説明するランベルト・ベールの法則を使います。まずはこの共通言語を身につけていきましょう。
透過度と吸光度:なぜわざわざ「log」を使うのか

試料溶液に光を当てる場面を考えます。入射光の強さをI0、溶液を通り抜けてきた透過光の強さをIとすると、まず「透過度」という指標が次のように定義されます。
透過度 t = I / I₀
これは「入れた光のうち、どれくらいが通り抜けてきたか」の割合です。これを百分率にしたものが透過率T(%)です。
ただ、この透過度、実は分析の現場では少し使いにくいという弱点があります。物質がたくさん光を吸収するほど、直感的には数値が「大きく」なってほしいのに、透過度は吸収するほど「小さく」なってしまうからです。そこで登場するのが「吸光度A」です。
吸光度 A = log(I₀ / I)
透過度の逆数(I₀/I)を取ったうえで、さらにlog(常用対数)を取っています。この2段階の変換には、それぞれちゃんと理由があります。
- 逆数を取る理由:光をよく吸収する(=透過光Iが小さくなる)ほど、I₀/Iの値が大きくなるようにするため。これで「吸収が強い=数値が大きい」という直感に合う指標になる
- logを取る理由:透過光の強さは溶液の濃度に対して指数関数的に変化する性質があるため、logを取ることで濃度と直線的な関係にする
この「吸収が強いほど値が大きくなる」「濃度と比例する」という2つの性質が、この後の定量分析すべての土台になります。
ランベルト・ベールの法則:吸光度は濃度と層長に比例する
吸光度Aについて、実験的にわかっている非常に重要な関係が「ランベルト・ベールの法則」です。
A = k・c・l
吸光度Aは、溶液の濃度(c)と、光が通る距離である層長(l)に比例する、というだけのシンプルな法則です。濃度が濃いほど、また光の通り道が長いほど、それだけ光がよく吸収される、という直感通りの内容を式にしたものだと考えれば難しくありません。
このときの比例定数kは、濃度と層長の単位の取り方によって呼び名が変わります。
| 名称 | 記号 | 濃度の単位 | 層長 |
|---|---|---|---|
| 比吸光度 | E1cm1% | 1 w/v%(質量パーセント濃度) | 1cm |
| モル吸光係数 | ε(イプシロン) | 1 mol/L | 1cm |
どちらも「濃度と層長をある決まった値にそろえたときの吸光度」を表す係数、という点は共通しています。濃度の単位が質量パーセントかモル濃度かの違いだけなので、セットで覚えてしまいましょう。
この法則がどこで使われるのか
ここまでの内容は、分光分析法の中の1つの単元というより、この後に出てくる紫外可視吸光度測定法・蛍光光度法・原子スペクトル分析法・赤外吸収スペクトル測定法で共通して使う「共通の物差し」です。それぞれの測定法は、「何を光源にするか」「何を検出するか」「セルの材質は何か」といった各論(装置の違い)がメインの暗記ポイントになりますが、定量の場面では必ずと言っていいほどランベルト・ベールの法則に立ち返ります。
次回は、この法則を実際に使う最初の測定法として、紫外可視吸光度測定法を扱います。
まとめ
吸光度Aは「log(I₀/I)」で定義され、吸収が強いほど大きな値になる指標であること、そしてその吸光度が濃度と層長に比例する(A=kcl)というのがランベルト・ベールの法則でした。比吸光度とモル吸光係数は、この比例定数kを濃度の単位ごとに呼び分けたものです。ここさえ押さえておけば、この後に登場する測定法の理解がぐっと楽になります。
次は紫外可視吸光度測定法:装置と深色効果・浅色効果を読んでみてください。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。