機器を用いる分析法

旋光度測定法・旋光分散(ORD)・円二色性(CD)【薬剤師国家試験】

旋光度測定法・旋光分散・円二色性のマインドマップ
旋光度測定法・旋光分散・円二色性のマインドマップ

赤外吸収スペクトル測定法で振動数の測定を終えたので、分光分析法の最後はキラル分子の存在や立体構造を調べる測定法です。基本になるのは旋光度測定法で、旋光分散(ORD)と円二色性(CD)はその応用と考えてください。

この単元は、用語の整理さえできれば難しくありません。ただ「なぜ旋光が起きるのか」の部分は、国試には直接出ないものの、知っておくとORDやCDの理解が段違いに楽になります。そこも含めて順番に見ていきましょう。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。分光分析法の範囲はYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。

旋光性とは:不斉炭素がなくても示す

旋光性とは、偏光を回転させる性質のことです。光学活性ともいいます。

この性質は立体構造が非対称なものに見られます。ここで注意してほしいのが、不斉炭素がなくても、立体構造が非対称であれば旋光性を示すという点です。ひっかけで問われるところなので、「不斉炭素があるかどうか」ではなく「立体構造が非対称かどうか」で判断してください。

そもそも偏光とは

偏光のイメージ
偏光のイメージ

自然光は、進行方向に対していろいろな向きに振動している波の集まりです。これを偏光子(スリットのようなもの)に通すと、ある一方向に振動する光だけが取り出されます。これが偏光(直線偏光・平面偏光)です。

旋光のイメージ
旋光のイメージ

この偏光子と検光子(もう一枚のスリット)の間に、光学活性物質を入れた試験管を置きます。すると、まっすぐ縦に振動していた偏光が、試験管を通るうちに少しずつ傾いて出てきます。もとの向きの検光子ではもう光が通らないので、検光子を回転させてやると、傾いた偏光が通る角度が見つかります。

旋光度のイメージ
旋光度のイメージ

この傾いた角度が旋光度です。

旋光度と比旋光度

符号

右旋性が+、左旋性が−
右旋性が+、左旋性が−

右に回転させるもの(右旋性)が+、左に回転させるもの(左旋性)が−です。

比旋光度

旋光度は、試験管が長いほど、また中の光学活性物質が濃いほど大きくなります。つまり測定条件によって値が変わってしまうので、条件をそろえた指標として比旋光度を使います。

[α]ᵗₓ = α / (l・c) × 100

記号 意味
t 温度
x 用いた単色光の波長
α 測定された旋光度
c 濃度(g/mL)
l 層長(通常100 mm単位)

実例を見ると分かりやすいと思います。

イソソルビドの比旋光度
イソソルビドの比旋光度

イソソルビドの比旋光度は、温度20℃、ナトリウムD線の波長で測定したときに+45.5°、という意味です。左肩が温度、右肩が波長、符号が旋光の向き、と読めるようになれば十分です。

なぜ旋光が起きるのか:車と砂漠のたとえ

ここからは国試に直接は出ませんが、ORDとCDを理解するための土台になる部分です。

屈折は「速度の差」で起きる

アスファルトの道を走っている車が、斜めに砂漠へ突っ込んでいく場面を想像してください。先に砂漠に入った側のタイヤは進みにくくなるので、車体はそちら側に向きを変えます。これが屈折の原理です。進みやすさ(速度)が違うから、進む向きが曲がるわけですね。

直線偏光は、右円偏光と左円偏光の足し合わせ

右円偏光と左円偏光
右円偏光と左円偏光

直交する2つの直線偏光を足し合わせると、らせんを描きながら進む光になります。これを円偏光といい、らせんの向きによって右円偏光・左円偏光があります。

逆に言うと、直線偏光は右円偏光と左円偏光がちょうど釣り合って重なったものと見ることができます。

光学活性物質の中では速度が変わる

光学活性物質にとって、右円偏光と左円偏光は「別物」です。分子の構造が非対称なので、右回りのらせんと左回りのらせんでは受ける影響が違い、通過する速度(屈折率)に差が出ます。

片方が遅れると、2つの円偏光の重ね合わせのバランスが崩れ、直線だった偏光面が少しずつ傾いていきます。これが旋光の正体です。試験管が長いほど旋光度が大きくなるのも、ずれが距離とともに積み重なるからだと考えれば納得できます。

旋光度測定法

  • 光源:日本薬局方ではナトリウムD線
  • 用途:糖類・アミノ酸などの光学活性物質の同定、純度試験、定量

比旋光度を使うのは、旋光度の値が層長・濃度・温度・波長に影響されるためです。

旋光分散(ORD)

旋光度は波長によって変化します。そこで当てる光の波長を変えながら旋光度を測るのが旋光分散(ORD)です。挙動は、その物質が光を吸収するかどうかで2つに分かれます。

単純曲線(光を吸収しないとき)

単純曲線
単純曲線

光学活性物質が光を吸収しない場合、旋光度は波長に対してなだらかに変化します。

異常分散曲線とコットン効果(光を吸収するとき)

正のコットン効果と負のコットン効果
正のコットン効果と負のコットン効果

光学活性物質が光を吸収する場合、吸収帯の付近で旋光度が急激に変化します。この現象をコットン効果といいます。

長波長側 短波長側
正のコットン効果 極大 極小
負のコットン効果 極小 極大

ここは結構出ます。覚え方はこうです。

正のコットン効果の覚え方
正のコットン効果の覚え方

正のコットン効果のグラフは、短波長側の極小から長波長側の極大へ向かって立ち上がる、S字のような形をしています。正(sei)の頭文字がSの形になっている——この図の「Sai」はそういう意味です。正の形さえ覚えておけば、負はその上下逆だと分かります。

円二色性(CD)

最後に円二色性です。まず言葉をほどいておきましょう。

  • 円:円偏光の「円」
  • 二色:右円偏光と左円偏光という2本の光を指している(実際に色を見ているわけではありません)

円二色性とは、右円偏光と左円偏光とで、溶質に吸収される度合いが異なる性質のことです。

さきほど見たとおり、直線偏光は右円偏光と左円偏光がちょうど釣り合って重なったものでした。ここで片方だけがよく吸収されて弱くなると、釣り合いが崩れ、重ね合わせた光は正面から見たときに楕円を描くようになります。つまり平面偏光が楕円偏光になるわけですね。

この右円偏光と左円偏光のモル吸光係数の差を、波長ごとにグラフ化したものがCDスペクトルです。国試の範囲としては、「両者の吸収の差で楕円偏光になる」という筋道が追えていれば十分です。

まとめ

  • 旋光性は偏光を回転させる性質。不斉炭素がなくても、立体構造が非対称なら示す
  • 旋光度は右旋性が+、左旋性が−。条件をそろえた指標が比旋光度
  • 旋光の原因は、右円偏光と左円偏光で速度(屈折率)に差が出て、重ね合わせのバランスが崩れること
  • 旋光度測定法の光源は局方ではナトリウムD線。同定・純度試験・定量に使う
  • ORDは波長を変えて旋光度を測る。吸収がなければ単純曲線、あれば異常分散曲線(コットン効果)
  • 正のコットン効果は長波長側で極大・短波長側で極小。S字の形で覚える
  • CDは右円偏光と左円偏光の吸収の差。平面偏光が楕円偏光になる

これで分光分析法の全体が一周しました。最後に分光分析法まとめ:7記事で全体像をつかむで、地図全体を確認しておきましょう。

物理を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。

物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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