
紫外可視吸光度測定法では、基底状態の物質に光を当てて励起状態にするときの「吸収」を見ていました。今回の蛍光光度法は、その逆側です。励起状態になったものが基底状態に戻るとき、余ったエネルギーの一部を光として放出します。その光(蛍光)を見るのが蛍光光度法です。
この単元でつまずきやすいのは、終盤に出てくる励起スペクトルと蛍光スペクトルの区別です。ここは「グラフの横軸が何の波長を指しているのか」さえ整理できれば一気に見通しが良くなるので、そこまで丁寧に進めていきます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。分光分析法の範囲はYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
電子遷移:蛍光と燐光の違い

励起光が入ってきて励起状態になったあと、基底状態に戻る経路は1つではありません。
- 蛍光:励起状態からそのまま基底状態に戻るときに出る光
- 燐光(リン光):途中で別の励起状態に寄り道してから基底状態に戻るときに出る光
寄り道したぶんエネルギー差が小さくなるので、燐光は蛍光より弱い光になります。そのため測定に使われるのは主に蛍光のほうです。「燐光というものもあって、そっちは弱い」という対比だけ頭に入れておけば十分です。
装置:検出部が90度に置かれている理由

測りたいのは蛍光ですが、そのためにはまず試料を励起させる光が必要です。そこで装置は「光源 → 励起光モノクロメーター → 試料 → 蛍光モノクロメーター → 検出部・記録部」という構成になります。モノクロメーターが2つある(励起側と蛍光側)のが、紫外可視との大きな違いです。
光源
アルカリハライドランプ、キセノンランプ、レーザーの3つです。これは「警官あきれ(けいかんあきれ)」で覚えましょう。けい(蛍光光度法)かん、あ(アルカリハライドランプ)き(キセノンランプ)れ(レーザー)です。
検出部の位置
蛍光は試料からあらゆる方向に散乱するように出ていきます。もし光源の延長線上に検出部を置いてしまうと、蛍光だけでなく光源の光そのものも一緒に飛び込んできてしまいます。そこで検出部は光路に対して90度の位置に置かれるのが一般的です。
セル
四面透明の石英製セルを使います。四面透明なのは、90度方向に出てくる蛍光を通す必要があるからです。石英なのは、ガラスだと紫外部の光を吸収してしまううえ、ガラス自体が蛍光を発してしまうためです。この2点はそのまま出題されるので、セットで覚えておきましょう。
蛍光強度:いろいろなものに比例する

蛍光強度Fは、次のように表されます。
F = k・I₀・φ・ε・c・l = k・I₀・φ・A
式の形を丸暗記する必要はありません。大事なのは「いろいろなものに比例する」ということと、それぞれの記号が何を指しているかです。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| k | 比例定数 |
| I₀ | 励起光の強さ |
| φ | 蛍光量子収率(またはリン光量子収率) |
| ε | 励起光の波長におけるモル吸光係数 |
| c・l | 濃度・層長 |
| A | 励起光の波長における吸光度 |
ここでもε・c・lの部分、つまりランベルト・ベールの法則がそのまま顔を出しています。だからこそ後半はAとまとめて書けるわけですね。
φ(蛍光量子収率)だけ言葉が難しく見えますが、中身は単純で、試料が吸収した光子の数のうち、どれだけが蛍光として出てきたかの割合です。励起光が強くなれば蛍光も強くなる、吸収が大きければ蛍光も強くなる——直感どおりの関係だと思ってください。
励起スペクトルと蛍光スペクトル:ベストカップルを探している
蛍光光度法には「励起に使う光」と「出てくる蛍光」という2種類の光が登場します。そのためスペクトルのグラフを見たとき、横軸がどちらの波長なのかが分からなくなりがちです。
まず実験の状況をイメージしてみましょう。細胞の中のあるタンパク質を、蛍光を出す標識をつけて調べたいとします。このとき知りたいのは、どの波長の光を当てれば一番よく励起されて、どの波長の蛍光が一番強く出てくるのか、というベストな組み合わせです。この「ベストカップル探し」をしているのが、次の2つのスペクトルです。
励起スペクトル

- 当てる励起光の波長を変化させていく
- 検出部はただ1つの波長の蛍光だけを測り続ける(キャッチャーミットを1か所に固定しておくイメージ)
グラフの横軸は「当てる励起光の波長」です。図の例では、励起光を400 nm付近から少しずつ長い波長に変えていったとき、励起極大波長は490 nm付近だと分かります。
蛍光スペクトル

- 励起光は最適な波長(この例では490 nm)に固定する
- 検出部側でいろいろな波長の蛍光を測っていく
こちらは横軸が「出てくる蛍光の波長」です。図の例では、蛍光極大波長は520 nm付近になっています。
つまりこの物質は「励起490 nm・蛍光520 nm」がベストカップル、ということです。人間が操作できるのは光源側の波長か検出側の波長かのどちらかで、固定するほうと変化させるほうが入れ替わっているだけ——そう捉えると、2つのスペクトルを混同しなくなります。
なお、励起光よりも蛍光のほうがエネルギーが小さくなるため、蛍光の波長は励起光より長くなります。この関係も一緒に押さえておきましょう。
環境条件:蛍光強度を変えてしまう4つ
蛍光はかなり弱い光なので、測定環境の影響を受けやすいという弱点があります。国試で問われるのは次の4つです。
| 条件 | 蛍光への影響 | 理由 |
|---|---|---|
| 温度 | 温度↑で蛍光↓ | 分子の衝突が増え、励起分子が光ではなく衝突でエネルギーを失うため |
| クエンチャー | 蛍光↓ | 蛍光を消してしまう物質(ハロゲンイオン、酸素など)が共存するため |
| 光 | 蛍光↓ | 蛍光物質は光で分解するものが多く、励起光を当てすぎると壊れるため |
| 濃度 | 濃すぎると比例関係が崩れて減少 | 手前の試料で光が吸収され、奥まで励起光が届かなくなるため |
クエンチャーは「蛍光を食べてしまうやつ」と覚えると忘れません。濃度の話は、ランベルト・ベールの法則も濃すぎると成立しなくなる、というのと同じ感覚です。
まとめ
- 蛍光光度法は、励起状態から基底状態に戻るときに放出される光を見る測定法。燐光は寄り道して戻るぶん弱い
- 光源は「警官あきれ」(アルカリハライドランプ・キセノンランプ・レーザー)
- 検出部は90度の位置、セルは四面透明の石英製
- 蛍光強度はI₀・φ・ε・c・l(=A)に比例する。ここでもランベルト・ベールが効いている
- 励起スペクトルは励起光の波長を変化させ、蛍光スペクトルは蛍光の波長を測っていく。横軸が何の波長かを確認するのがコツ
- 環境条件は温度・クエンチャー・光・濃度の4つ
次は原子スペクトル分析法(原子吸光光度法・発光分析法)を読んでみてください。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。