
前回の分光分析法の基礎では、吸光度とランベルト・ベールの法則という「共通の物差し」を押さえました。今回からは、その物差しを実際に使う個別の測定法に入っていきます。最初に扱うのが紫外可視吸光度測定法です。
この測定法は、次回扱う蛍光光度法とセットで「分子の電子遷移を観察する測定法」というグループにまとめられています。なぜこの2つが同じグループなのか、そこから話を始めましょう。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。分光分析法の範囲はYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
紫外可視と蛍光はなぜ同じグループなのか

物質に光を当てると、その物質は光のエネルギーを吸収して励起状態になります。そして励起状態は不安定なので、やがて基底状態に戻ってきます。ここまでが1つの流れです。
この一連のサイクルのうち、
- 入っていく側(光を吸収するところ)を見ているのが紫外可視吸光度測定法
- 出ていく側(基底状態に戻るときに放出される光)を見ているのが蛍光光度法
という関係になっています。同じ現象の表と裏を見ているから同じグループ、というわけです。この対比を頭に置いたまま読み進めてください。
何がわかるのか:定性と定量
紫外可視吸光度測定法でわかることは2つあります。
- 物質の存在(定性):どの波長の光を吸収して励起状態になるかは物質ごとに決まっているため、吸収スペクトルの形やλmax(吸収極大波長)の位置から「この物質だ」と言える
- 濃度や量(定量):その波長で実際にどれだけ光が吸収されたかを測れば、ランベルト・ベールの法則から濃度が求められる

原理:どの電子がどこへ遷移するのか

有機化学で扱った軌道の話が、ここで効いてきます。
- エタンのような単結合はσ結合
- 二重結合のうち、σ結合ではないほうがπ結合
- アンモニアの窒素が持つ非共有電子対(ローンペア)が入っている軌道は非結合性軌道(n軌道)
紫外可視領域の光、つまり波長200〜800 nmの光が持つエネルギーでは、σ結合の電子を励起させることはできません。励起できるのはπ電子とn電子で、これらがπ*(パイスター)という反結合性軌道に上がります。この光の吸収を見ているのが紫外可視吸光度測定法です。
装置:ここが一番よく出る

装置の構成は「光源 → 分光部 → 試料部 → 検出部・記録部」の順です。光源から出たいろいろな波長を含む光を分光部で分け、試料の入ったセルに通し、出てきた光を検出する、という流れですね。
国試で問われるのは、次の2点です。
光源
| 領域 | 光源 |
|---|---|
| 紫外部 | 重水素放電管 |
| 可視部 | タングステンランプ |
これは「四十肩(しじゅうかた)」で覚えましょう。し(紫外)じゅう(重水素放電管)、か(可視)た(タングステンランプ)です。
セル
| 領域 | 使えるセル |
|---|---|
| 紫外部 | 石英セルのみ |
| 可視部 | ガラス・石英どちらもOK |
紫外部で石英セルしか使えない理由はシンプルで、ガラスが紫外線を吸収してしまうからです。せっかく紫外部の光を取り出しても、セルがガラスだと試料に届く前に吸収されて光が減ってしまいます。理由とセットで覚えておけば忘れません。
定量:結局ランベルト・ベールに戻ってくる
定量の場面で使うのは、前回やったランベルト・ベールの法則です。
A = k・c・l
吸光度は濃度cと層長lに比例し、比例定数kは濃度の単位の取り方によって比吸光度(1 w/v%基準)とモル吸光係数(1 mol/L基準)に呼び分けられるのでした。薄いオレンジジュースと濃いオレンジジュースに同じ光を当てたら、濃いほうが出てくる光は少なくなる——その当たり前の話を式にしたものだと考えれば十分です。
吸収波長の変化:深色効果・浅色効果・濃色効果・淡色効果

試料の構造が変われば、吸収する波長も変わります。代表的なのが共役系の延長で、共役系が伸びるとλmaxは長波長側に移ります。この移動には用語がついていて、ここが頻出です。
| 用語 | 何が起こるか |
|---|---|
| 深色効果 | λmaxが長波長側に移動する |
| 浅色効果 | λmaxが短波長側に移動する |
| 濃色効果 | 吸光度が大きくなる |
| 淡色効果 | 吸光度が小さくなる |
深色・浅色のほうが取り違えやすいので、片方だけを色でイメージして覚えるのがおすすめです。波長は、長いほうが赤、短くなるほど紫に向かっていきます。たとえば黄色だった吸収が赤のほうへ移れば「色が深くなった」感じがしますよね。これが深色効果です。逆に紫のほうへ移るのが「浅い色」で浅色効果、と押さえておけば、どちらがどちらか迷わなくなります。
濃色効果・淡色効果のほうは、同じ青でも濃い青と薄い青、というだけの話なので素直です。
まとめ
- 紫外可視吸光度測定法は「光の吸収」を、蛍光光度法は「放出される光」を見ている。同じ現象の表と裏
- 定性(λmaxや吸収スペクトルの形)と定量(ランベルト・ベールの法則)の両方ができる
- 200〜800 nmの光ではσ電子は励起されない。π電子とn電子がπ*へ遷移する
- 光源は「四十肩」、セルは紫外部が石英のみ(ガラスは紫外線を吸収するため)
- 深色効果=長波長側、浅色効果=短波長側、濃色効果=吸光度↑、淡色効果=吸光度↓
次は蛍光光度法:励起スペクトルと蛍光スペクトルの違いを読んでみてください。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
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