分析の基本と溶液中の化学平衡

溶解度積(Ksp)と分配平衡・共通イオン効果【薬剤師国家試験】

溶液中の化学平衡のマインドマップ
溶液中の化学平衡のマインドマップ

溶液中の化学平衡の続きです。酸・塩基平衡では水の中だけの話をしてきましたが、ここからは2つの相のあいだのつり合いを扱います。

  • 分配平衡:液体と液体(油と水)のあいだの分かれ方
  • 沈殿平衡:固体と溶液のあいだのつり合い

この2つはまったく別の現象に見えますが、どちらも「平衡定数を書いて整理するだけ」で片づきます。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。

分配平衡とは

定義は「互いに混ざり合わない2つの溶媒に、溶質が分配される平衡」です。

上に油の層、下に水の層があるところへ薬物を入れると、その薬物が油に溶けやすいのか水に溶けやすいのかによって、2つの層への分かれ方が決まります。この「どっちが好きか」のつり合いが分配平衡です。

理屈としては、油相に溶けた溶質の化学ポテンシャルと水相に溶けた溶質の化学ポテンシャルが等しくなったところで平衡になる、ということなのですが、ここは国家試験ではまず問われません。

本当に大事なのは、その溶質が電解質か非電解質かです。ここで話が2つに分かれます。

真の分配係数(非電解質のとき)

電離せず、分子形のままでしか存在しない溶質はシンプルです。油相と水相それぞれの分子形の濃度の比を取るだけ。

真の分配係数の式
真の分配係数の式

P真 = [分子形]油 / [分子形]水

分子が油、分母が水です。だから P真 > 1 なら油相に溶けているほうが多い、つまり有機溶媒層への親和性が高い物質だと読み取れます。分配係数がそのまま物質の性質を表す値になっているわけですね。

見かけの分配係数(電解質のとき)

電解質の場合、水相の中で分子形とイオン形が平衡状態にあります(ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式でやったとおりです)。一方、油相に溶けているのは分子形だけ。

そうなると、さきほどのように「分子形どうしの比」では実測値を説明できません。そこで出てくるのが見かけの分配係数です。

見かけの分配係数の式
見かけの分配係数の式

P見 = [分子形]油 / ([分子形]水 + [イオン形]水)

分母が「水相にある全部」になっているのがポイントです。弱酸性薬物 HA なら、こう書けます。

弱酸性薬物の場合の見かけの分配係数
弱酸性薬物の場合の見かけの分配係数

P見 = [HA]油 / ([HA]水 + [A⁻]水)

この式を変形すると、

P見 = P真 × (水相の分子形分率)

という関係になります。分子形分率は前回出てきたあの式ですね。つまり見かけの分配係数は、真の分配係数に分子形分率を掛けたもの。式の上下を揃えて約分するだけなので、一度自分で手を動かしてみると納得できます。

pHを変えると見かけの分配係数はどう動くか

弱酸性薬物と弱塩基性薬物の、pHに対する見かけの分配係数
弱酸性薬物と弱塩基性薬物の、pHに対する見かけの分配係数

P見 = P真 × 分子形分率 なので、見かけの分配係数のグラフは分子形分率曲線とまったく同じ形になります。縦軸の目盛りが「1」ではなく「P真」に変わっただけです。だから読み方も同じで、次の2つが言えます。

① pHが小さいほど、弱酸性薬物の P見 は P真 に近づく

pH が小さい=[H⁺] が多い。すると HA ⇄ A⁻ + H⁺ の平衡は左に寄り、水相はほぼ分子形 HA だけになります。分母の [A⁻] が消えれば、P見 の式は P真 の式そのものです。

② P見 が P真 のちょうど半分になる pH が pKa

分子形分率が 50%、つまり [分子形] = [イオン形] になる点が pKa でした。分子形分率が 1/2 なら P見 も P真 の 1/2 になる——当たり前の話ですが、グラフ上で読み取らせる問題としてよく出ます。

弱塩基性薬物ならグラフは左右反転し、共役酸の pKa のところで P真 の半分になります。

ここまでが分配平衡です。次は固体と溶液のつり合いに移ります。

溶解度と溶解度積

溶解度は「ある溶媒に溶けることのできる最大量」です。定義は素直ですね。

ただし、溶ける量によって表し方が変わります。

状況 よく使われる表し方
よく溶けるもの(食塩など) 溶媒100 gに対して何g
難溶性の塩 mol/L

沈殿平衡で扱うのは後者、難溶性の塩のほうです。

溶解度積 Ksp は平衡定数の“上半分”

AgCl が水にわずかに溶ける場合を考えます。

AgCl(固) ⇄ Ag⁺ + Cl⁻

ふつうに平衡定数を書くと、

K = [Ag⁺][Cl⁻] / [AgCl]

ここで [AgCl] は沈殿している固体の濃度です。「固体の濃度」というものを考えても意味がないので、これは定数として扱います。そこで左辺に移してしまうと、

K × [AgCl] = [Ag⁺][Cl⁻]

左辺は定数×定数なので、まとめて1つの定数と置いてしまいましょう。これが溶解度積 Ksp です。

AgClの溶解度積
AgClの溶解度積

Ksp = [Ag⁺][Cl⁻]

つまり Ksp は、平衡定数の分子だけを取り出したもの。だから Ksp が小さいほど溶けているイオンが少ない=難溶性、という指標にもなります。

溶解度 s と Ksp の関係(ここが計算で問われる)

溶解度を s (mol/L) として、塩の形ごとに Ksp を s で表してみます。考え方は「電離式を書いて、各イオンの濃度を s で表し、平衡定数の係数を肩に乗せる」だけです。

MX 型(例:AgCl) MX ⇄ M⁺ + X⁻ で、[M⁺] = s、[X⁻] = s。 Ksp = s × s = s²

MX₂ 型 MX₂ ⇄ M²⁺ + 2X⁻ で、[M²⁺] = s、[X⁻] = 2s。X⁻ は係数2なので2乗が付きます。 Ksp = s × (2s)² = 4s³

M₂X 型 M₂X ⇄ 2M⁺ + X²⁻ で、[M⁺] = 2s、[X²⁻] = s。 Ksp = (2s)² × s = 4s³

MX₃ 型 MX₃ ⇄ M³⁺ + 3X⁻ で、[M³⁺] = s、[X⁻] = 3s。 Ksp = s × (3s)³ = 27s⁴

型 Ksp
MX s²
MX₂ 4s³
M₂X 4s³
MX₃ 27s⁴

表として丸暗記してもよいのですが、電離式を書けば30秒で作り直せます。試験本番でどの型が出るかわからない以上、作り方のほうを覚えておくのが安全です。

共通イオン効果と異種イオン効果

最後に、溶解度が変わる2つの効果です。

ここまで MX 型では [M⁺] も [X⁻] も同じ s として扱ってきました。でも、そのイオンが別のところから供給されてもかまわないわけです。

共通イオン効果

AgCl の飽和溶液に、NaCl のような Cl⁻ を含む塩を加えたとします。すると [Cl⁻] が一気に増え、AgCl ⇄ Ag⁺ + Cl⁻ の平衡は大きく左に寄ります。もともとほとんど右にいなかったものが、さらに左に押し戻される。

結果として AgCl の溶解度は大きく下がります。これが共通イオン効果です。

異種イオン効果

逆に、Cl⁻ とは無関係なイオンが多量に存在すると、溶解度はむしろ上がります。これが異種イオン効果(塩効果)です。

名前が似ているので、「共通イオンなら溶けにくくなる、異種イオンなら溶けやすくなる」とセットで覚えてしまってください。

まとめ

  • 分配平衡は液体と液体、沈殿平衡は固体と溶液のつり合い
  • 非電解質は P真 = [分子形]油/[分子形]水。1より大きければ有機溶媒層に行きやすい
  • 電解質は P見 = [分子形]油/(水相の全濃度) = P真 × 分子形分率
  • P見 のグラフは分子形分率曲線と同じ形。P真 の半分になる pH が pKa
  • Ksp は平衡定数の分子だけを取り出したもの。小さいほど難溶性
  • Ksp を溶解度 s で表すときは、電離式を書いて係数を肩に乗せる(MX:s²、MX₂:4s³、MX₃:27s⁴)
  • 共通イオン効果=溶解度が下がる、異種イオン効果=溶解度が上がる

次は化学物質の定性分析:無機イオンの反応と医薬品の確認試験を読んでみてください。

物理を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。

物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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