分析の基本と溶液中の化学平衡

酸・塩基平衡の頻出問題を解いてみよう【薬剤師国家試験】

酸・塩基の強さのマインドマップ
酸・塩基の強さのマインドマップ

前回の記事で、Ka・Kb、[H⁺] = √(Ka·C)、ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式という基本事項を揃えました。ここからは、それを実際の国家試験問題にどう当てはめるかを見ていきます。

大事なのは計算のスピードではありません。問題を読んだ瞬間に「使う式はこれだ」と決めて、その式に必要な数値を集めに行く——この順番で手が動くかどうかです。逆に言えば、与えられた数値を眺めて「何ができるかな」と探し始めると、たいてい時間切れになります。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。

問題1:共役酸のpHを求める(第103回 問96)

0.01 mol/L 塩化アンモニウム水溶液の pH に最も近い値はどれか。 ただし、アンモニアの pKb = 4.70、水のイオン積 Kw = 1.00 × 10⁻¹⁴ (mol/L)² とする。

ステップ1:何が溶けている状態かを式で書く

塩化アンモニウム NH₄Cl は塩なので、水中で完全に電離します。

NH₄Cl → NH₄⁺ + Cl⁻

このうち Cl⁻ は何もしません。働くのは NH₄⁺ のほうで、これはアンモニアの共役酸ですから、次の平衡が成り立ちます。

NH₄⁺ ⇄ NH₃ + H⁺

つまりこの溶液は、弱酸(NH₄⁺)を 0.01 mol/L で水に入れただけの状態です。塩がもう1つ混ざっているわけではないので、緩衝液ではありません。

ステップ2:使う式を決める

弱酸単独なので、使うのは

[H⁺] = √(Ka·C)

これで「必要なものは Ka と C」と決まりました。C は問題文から 0.01 mol/L。あとは Ka を用意するだけです。

ステップ3:足りない値を作りに行く

ここがこの問題のひねりで、与えられているのは Ka ではなく pKb です。

pKb = 4.70 なので Kb = 10⁻⁴·⁷⁰。ここで Ka × Kb = Kw を使います。

Ka = Kw / Kb = 10⁻¹⁴ / 10⁻⁴·⁷⁰ = 10⁻⁹·³⁰

ステップ4:代入する

[H⁺] = √(10⁻⁹·³⁰ × 10⁻²) = √(10⁻¹¹·³⁰) = 10⁻⁵·⁶⁵

指数を2で割るだけですね。したがって

pH = 5.65

この問題のポイント

塩の水溶液が出てきたら、まず完全に電離させて、残った弱酸(または弱塩基)は何かを特定する。そこさえ決まれば、あとは単独の弱酸の式に落ちます。そして「Ka が無いなら Kb から作る」——この一手が用意できているかどうかが分かれ目です。

問題2:緩衝液に強酸を加える(第104回 問91)

0.2 mol/L 酢酸水溶液 50 mL に 0.1 mol/L 水酸化ナトリウム水溶液 50 mL を加えた。 さらにこの混合溶液に 1 mol/L 塩酸 1 mL を加えたときの pH に最も近い値はどれか。 ただし、酢酸の pKa = 4.70、log 2 = 0.301、log 3 = 0.477 とする。

ステップ1:何ができているかを量で押さえる

弱酸(酢酸)に強塩基(NaOH)を加えています。まず量を mmol で出しましょう。mL × mol/L = mmol なので計算が楽です。

  • 酢酸:50 mL × 0.2 mol/L = 10 mmol
  • 水酸化ナトリウム:50 mL × 0.1 mol/L = 5 mmol

中和は CH₃COOH + NaOH → CH₃COONa + H₂O ですから、

CH₃COOH NaOH CH₃COO⁻
反応前 10 mmol 5 mmol 0
変化 −5 −5 +5
反応後 5 mmol 0 5 mmol

酢酸が全部は中和されず、酢酸とその塩が 5 mmol ずつ残った——つまり緩衝液ができています。

ステップ2:そこに強酸を加える

1 mol/L の塩酸 1 mL は 1 mmol の H⁺ です。加えると平衡が左に動き、イオン形(CH₃COO⁻)が分子形(CH₃COOH)に戻ります。

  • 酢酸:5 + 1 = 6 mmol
  • 酢酸イオン:5 − 1 = 4 mmol

「加えた H⁺ が本当に全部 CH₃COO⁻ と結びつくのか?」と気になるところですが、ここは結びつくと考えて構いません。仮に加えた後の pH が 3 程度だったとしても、溶液中に H⁺ として残っている量は 10⁻³ mol/L のオーダー。今回扱っている mmol の量に比べれば無視できるほど小さいからです。

ステップ3:ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式に入れる

酢酸は弱酸なので、pH = pKa + log([イオン形]/[分子形]) のほうを使います。

pH = 4.70 + log(4/6) = 4.70 + log(2/3)

log(2/3) = log 2 − log 3 = 0.301 − 0.477 = −0.176 ですから、

pH = 4.70 − 0.176 = 4.524 ≒ 4.52

選択肢の中から 4.52 に最も近いものを選べば正解です。

この問題のポイント

緩衝液の問題は、「濃度」ではなく「物質量(mmol)」で追うと間違いません。mL × mol/L = mmol で出しておけば、体積が増えても比は変わらないので、希釈を気にせずそのまま H-H 式の log に放り込めます。

そして、H-H 式に入れるのは分子形とイオン形の比だけ。今回なら「6 対 4」という数字さえ出せれば、あとは与えられた log 2 と log 3 を使う作業です。問題文に log の値が親切に書いてあるときは、「その log を使う形に持ち込め」という出題側からのヒントだと思ってください。

まとめ

  • 塩の水溶液 → まず完全電離させ、残った弱酸・弱塩基を特定してから [H⁺] = √(Ka·C)
  • Ka が無ければ Ka × Kb = Kw で作る。第103回 問96はここが山場
  • 弱酸+強塩基で「弱酸が余る」なら緩衝液。量は mmol で追う
  • 緩衝液に酸・塩基を加えたら、分子形とイオン形の数を増減させてから H-H 式へ
  • 問題文の log 2、log 3 は「この形に変形しろ」というヒント

次は溶解度積(Ksp)と分配平衡・共通イオン効果を読んでみてください。同じ「溶液中の化学平衡」の中で、今度は油と水の間、そして固体と溶液の間のつり合いを扱います。

物理を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。

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