
ここから「化学物質の分析」の分野に入っていきます。最初に扱うのが分析の基本です。この後に出てくる溶液中の化学平衡、定性分析、定量分析、クロマトグラフィーといった内容すべてに共通する土台——どんな器具を使うのか、測定の良し悪しを何という言葉で評価するのか、日本薬局方では独特の言い回しをどう定義しているのか——をここでまとめて片づけます。
正直に言うと、この単元は面白い分野ではありません。理屈で考えて解ける問題より、「覚えているかどうか」で決まる問題のほうが多いところです。だからこそ、押さえるべき言葉だけを短時間で固めて、さっさと次へ進むのが正解です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
分析に用いる器具:体積を測る道具は「精度」で比較される
体積を測る器具として押さえるのは、メスフラスコ・ホールピペット・ビュレット・メスシリンダー・メートグラスの5つです。
国家試験でよく問われるのは、この5つを横並びに覚えているかではなく、「メスフラスコ・ホールピペット」と「メスシリンダー・メートグラス」を比べたときにどちらが精度が高いか、という軸です。


メスフラスコとホールピペットには、標線が1本だけ引かれています。つまり、その1つの体積しか測れません。裏を返せば、その体積専用に作られているので精度が高い、ということです。
一方のメスシリンダーとメートグラスは、目盛りが連続して振ってあるので好きな体積を測れますが、そのぶん精度は落ちます。
| 器具 | 測れる体積 | 精度 |
|---|---|---|
| メスフラスコ | 標線の1点のみ | 高い |
| ホールピペット | 標線の1点のみ | 高い |
| メスシリンダー | 目盛りの範囲で自由 | 低い |
| メートグラス | 目盛りの範囲で自由 | 低い |
残る1つ、ビュレットは容量分析(滴定)で使う器具です。下にコックがあり、滴下した量が目盛りで読み取れるようになっています。「どれだけ使ったか」を測る道具だと覚えておけば十分です。
液-液抽出に使うのが分液漏斗です。水と有機溶媒のように混ざり合わない2つの液体を入れて振り、目的物が溶けやすいほうの層に移らせてから、コックを開いて下の層だけ抜き取る——という使い方をします。
真度と精度はどう違うのか
分析法の性能を表す言葉として、真度・精度・特異性・検出限界・定量限界の5つを押さえます。中でも取り違えやすいのが真度と精度です。
- 真度:分析法で得られる測定値の偏りの程度。真の値と、測定値の総平均との差で表される
- 精度:測定値のばらつきの程度
言葉だけだと区別がつきにくいので、ダーツの的をイメージしてください。
- 撃った矢の平均が中心に来ているか → 真度
- 撃った矢が1か所に固まっているか → 精度
この2つは独立しています。だから極端な話、中心からは外れているけれど一点に集中している、つまり「真度は悪いが精度は良い」という状態がありえます。逆に、ばらばらに散っているのに平均するとたまたま中心に来る、という状態もありえます。ここが問われます。
特異性・検出限界・定量限界
特異性は、ターゲットを特定できるかどうかです。定義としては「共存物質の存在下で、試料中の分析対象を正確に測定する能力」。まわりに似たものや邪魔をするものがあっても、目的の成分だけをきちんと見分けられるか、ということですね。
残りの2つは素直です。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 検出限界 | 「あるかないか」を見極められる最小の濃度・量 |
| 定量限界 | 「いくらあるか」を適切な精度で数値として表せる最小の濃度・量 |
あるかないかが検出、いくらあるかが定量。日本語どおりです。
日本薬局方の「精密に量る」と「正確に量る」
ここが分析の基本で一番よく出ます。普段の感覚だと「精密」も「正確」もどちらも“きっちり測る”ですが、日本薬局方では別々に定義されています。
精密に量る
量るべき最小位を考慮し、0.1 mg、10 µg、1 µg 又は 0.1 µg まで量ること
文章だけではピンと来ないので、約1 g を精密に量るという例で考えます。
まず前提として、日本薬局方で「約」とあれば、記載された量の ±10% の範囲を指します。ですから「約1 g」は 0.9〜1.1 g の範囲を量ればよい、ということになります。
そのうえで、記載された質量の1000分の1の桁まで読み取れる天びんを使います。1 g の1000分の1は 0.001 g、つまり 1 mg ですね。これが「量るべき最小位を考慮し」の意味です。
そして大事なのは、ちょうど1.000 gに合わせる必要はないということ。0.9〜1.1 gの範囲内で、たとえば 1.053 g と量れたなら、以降の計算はその 1.053 g を使って進めればよい、というのが「精密に量る」です。
正確に量る
指示された数値の質量をその桁数まで量ること
こちらも例で考えます。1.0 g を正確に量る場合です。
1.0 g は有効数字2桁です。ですから小数第2位まで読み取り、それを四捨五入して 1.0 になればOK、という意味になります。
つまり量り取るべき範囲は 0.95 g 〜 1.04 g。0.95 なら小数第2位の5を四捨五入して 1.0、1.04 なら4を切り捨てて 1.0 になりますね。
過去問で確かめる
第99回 問96の選択肢に、こんな文がありました。
「精密に量る」とは、指示された数値の質量をその桁数まで量ることを意味する。
答えは×です。「指示された数値の質量をその桁数まで量る」のは正確に量るの定義ですね。精密に量るのほうは「量るべき最小位を考慮し…」から始まります。この2つを入れ替えてくるのが定番の作り方です。
定義の文言はそのまま覚えて、そのうえで「これってどういうことだったかな」と自分でゼロから例を立てて説明できる状態にしておくと、入れ替え問題で迷わなくなります。
表示の意味(ここは覚えるだけ)
最後に、日本薬局方の表記ルールを2つ。
溶液の濃度表示「1 → 100」は、固形なら1 g、液体なら1 mLを溶媒に溶かし、全量を100 mLにするという意味です。
混合液の割合表示「5 : 3 : 1」は、液状の薬品を容量5・容量3・容量1の割合で混ぜたという意味です。
どちらも読み方を知っていれば一瞬で終わります。
まとめ
- 体積を測る器具は「精度」で比較される。標線が1本のメスフラスコ・ホールピペットは精度が高く、目盛りのメスシリンダー・メートグラスは精度が落ちる
- 真度=偏り(平均が的の中心に来ているか)、精度=ばらつき(1か所に固まっているか)。この2つは独立している
- 検出限界=「あるかないか」、定量限界=「いくらあるか」
- 「精密に量る」は量るべき最小位を考慮して1000分の1の桁まで。ちょうどの値に合わせる必要はない
- 「正確に量る」は指示された桁数まで。1.0 gなら0.95〜1.04 g
- 「約」は記載量の±10%
次は酸・塩基平衡の基礎:KaとpKa、ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式を読んでみてください。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。