
前回の分析の基本で道具と用語を揃えたので、ここからは中身に入ります。溶液中の化学平衡、その最初が酸・塩基平衡です。
この単元は物理の中でも「理論系」の代表格で、公式が次々に出てきます。ただ、丸暗記する式の数はそれほど多くありません。1本の式から残りを変形で出せるようになっているので、どれが親でどれが子かを分けて覚えるのがコツです。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
その前に:理論分野をマインドマップにまとめるコツ
中身に入る前に、勉強の進め方の話を少しだけさせてください。
理論系の分野には、まず基本事項があります。公式と、なぜそうなるのかという理屈。これには「この順でやるとわかりやすい」という順番もあります。ここを最低限おさえるのが第一段階です。
ただ、基本事項をやっただけでは問題は解けません。試験で問題を見たときに「これ、どうやって解くんだっけ」を思い出せる状態になっていないといけない。そこで第二段階として、教科書の付属問題集などでその分野の問題をまとめて解き、1問ずつに「ラベル」を付けていきます。
- 「この問題は、弱酸・弱塩基・共役酸・共役塩基のpHを求める問題だな」
- 「この問題は、1価の緩衝液のpHを出すやつだな」
こうやって問題の“型”に名前を付けて、マインドマップの基本事項の横にぶら下げていきます。一度解いただけだと次に見たときに「あれ?」となりますが、マインドマップ上に型が並んでいると、問題集を擬似的にもう一周した状態を作れます。同じような問題に出会ったときに、自分の中でパターン分けができるようになる——これがこのやり方の一番のメリットです。
では基本事項からいきましょう。
水のイオン積 Kw
高校化学で必ず出てくるところですが、この先すべての土台になるので確認しておきます。
Kw = [H⁺][OH⁻] = 1.0 × 10⁻¹⁴ (25 ℃)
だから [H⁺] がわかれば [OH⁻] は 10⁻¹⁴ ÷ [H⁺] で出せます。
両辺のマイナス対数をとると、[H⁺] のところが pH、[OH⁻] のところが pOH になります。log の掛け算は足し算になるので、
pH + pOH = 14
という関係式が出てきます。
酸解離定数 Ka と塩基解離定数 Kb
まず強酸・強塩基と弱酸・弱塩基を分ける
強酸・強塩基(塩酸、水酸化ナトリウムなど)は、ほぼ完全に電離しているものとして扱う——これは約束事だと思ってください。1 mol/L の塩酸なら [H⁺] = 1 mol/L、という具合です。
問題になるのは弱酸・弱塩基のほうです。
- 弱酸:HA + H₂O ⇄ A⁻ + H₃O⁺(H₃O⁺ は H⁺ のこと)
- 弱塩基:B + H₂O ⇄ BH⁺ + OH⁻
Ka はどこから出てくるのか
弱酸の平衡について、ふつうに平衡定数 K を書くとこうなります。
K = [A⁻][H⁺] / ([HA][H₂O])
ここで、水は大量にあるので少し反応したくらいでは濃度が変わりません。そこで [H₂O] を定数とみなして左辺に移します。K も定数なので、K × [H₂O] という新しい定数をひとまとめにして Ka と置いてしまおう、というのが酸解離定数です。
Ka = [A⁻][H⁺] / [HA]
pKa = −log Ka ですから、Ka が大きい(=強い酸)ほど pKa は小さくなります。pH が小さいほど [H⁺] が多い、という感覚とまったく同じ関係です。塩基も同様で、pKb が小さいほど強い塩基です。
Ka と Kb の関係
弱酸 HA の Ka と、その共役塩基 A⁻ の Kb を掛け算してみます。
Ka = [A⁻][H⁺]/[HA]、Kb = [HA][OH⁻]/[A⁻] なので、掛けると [A⁻] と [HA] が約分で消え、残るのは [H⁺][OH⁻]。つまり、
Ka × Kb = Kw
マイナス対数をとって、
pKa + pKb = 14
この2本は確実に使えるようにしておいてください。Kb しか与えられていない問題で Ka に直す、という場面が国試では頻繁に出ます。
弱酸の [H⁺] = √(Ka·C) を自分で出せるようにする
弱酸性化合物 HA を濃度 C で水に入れ、解離度 α だけ解離したときを考えます。
| HA | ⇄ | A⁻ | + | H⁺ | |
|---|---|---|---|---|---|
| 最初 | C | 0 | 0 | ||
| 変化 | −Cα | +Cα | +Cα | ||
| 平衡時 | C(1−α) | Cα | Cα |
これを Ka の式に入れると、
Ka = (Cα)(Cα) / C(1−α) = Cα² / (1−α)
ここで、弱酸の解離度がどのくらいかを考えます。たとえば 1 mol/L の弱酸で pH が 4 だとすると、[H⁺] は 10⁻⁴ mol/L。つまり α は 0.0001 程度で、1 に比べてはるかに小さいわけです。だから 1 − α ≒ 1 としてしまってよい。
Ka ≒ Cα² → α ≒ √(Ka/C)
そして [H⁺] = Cα でしたから、
[H⁺] = C √(Ka/C) = √(Ka·C)
この式は確実に覚えてください。導出の流れまで追えていると、「近似していいのはなぜか」を問われたときにも答えられます。
弱塩基のときはどうするか
やり方はまったく同じで、出てくるのは
[OH⁻] = √(Kb·C)
弱酸の式と見比べると、[H⁺] が [OH⁻] に、Ka が Kb に変わっただけですね。ですから覚えるのは弱酸の式だけで十分です。
ただし、国試で聞かれるのはたいてい pH、つまり [H⁺] のほうです。求めた [OH⁻] で Kw を割れば [H⁺] が出ます。
[H⁺] = Kw / [OH⁻] = Kw / √(Kb·C)
Kb が与えられていない場合は、先ほどの Ka × Kb = Kw を使って Kb = Kw / Ka と直してから入れれば大丈夫です。
ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式
ここまでの [H⁺] = √(Ka·C) は、弱酸を単独で水に入れたときの式でした。しかし実際には、弱酸とその塩が混ざった緩衝液の pH を聞かれることのほうが多い。そこで使うのがヘンダーソン・ハッセルバルヒ式です。

| 対象 | 式 |
|---|---|
| 弱酸・共役酸 | pH = pKa + log([イオン形] / [分子形]) |
| 弱塩基・共役塩基 | pH = pKa + log([分子形] / [イオン形]) |
分数の上下がひっくり返るだけです。弱酸のほうだけ覚えて、弱塩基は逆にする、と決めてしまえば覚える量が1つ減ります。
どこから来た式なのか
出発点は Ka の式です。
Ka = [A⁻][H⁺] / [HA]
両辺の log をとると、log Ka = log[H⁺] + log([A⁻]/[HA])。全体にマイナスを掛けると、−log Ka = pKa、−log[H⁺] = pH ですから、
pH = pKa + log([A⁻]/[HA])
つまり pH は、分子形とイオン形の“比”で決まる——これがこの単元で一番大事なメッセージです。絶対量ではなく比で決まるから、緩衝液は薄めても pH が変わりません。
分子形分率
ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式を変形すると、分子形がどれだけの割合で存在しているか(分子形分率)を pH と pKa だけから出せます。
弱酸の場合、全体は [HA] + [A⁻] で、そのうちの [HA] の割合ですから、
分子形分率 = 1 / (1 + 10^(pH − pKa))
弱塩基の場合は、先ほどと同じで指数の中身が逆になります。
分子形分率 = 1 / (1 + 10^(pKa − pH))
覚えるのは弱酸の形だけ。「弱塩基は pH と pKa をひっくり返す」で揃います。
分子形分率曲線の読み方

縦軸が分子形分率(%)、横軸が pH です。
弱酸性薬物(酢酸)の場合:pH が低いということは [H⁺] が多いということなので、平衡は左(分子形 HA)に寄ります。だから分子形分率は 100% から始まり、pH が上がるとカーブを描いてほぼ 0 に落ちます。
弱塩基性薬物(アンモニア)の場合:B + H₂O ⇄ BH⁺ + OH⁻ という平衡なので、pH が高い=[OH⁻] が多い状態では平衡が左に寄り、分子形 B が多くなります。だから 0 から始まって 100% に上がるグラフになります。
50%の点が pKa
どちらのグラフでも、分子形分率が 50% になる pH が pKa です。理由は単純で、[分子形] = [イオン形] のとき H-H 式の log の中身が 1 になり、log 1 = 0 だから pH = pKa になるからです。
酢酸ならこの点は pKa = 4.7。これは物質固有の値なので、pKa が小さい酸ほど曲線全体が左にずれ、「より低い pH でもイオン形になりやすい=強い酸」だと読み取れます。
アンモニアのグラフで気をつけること
アンモニアは pKb = 4.7 の塩基です。でも、グラフの横軸は pH ですから、pKb のままでは曲線上に置けません。pKa + pKb = 14 を使って、
pKa = 14 − 4.7 = 9.3
と直してから使います。グラフに「共役酸の pKa = 9.3」と書いてあるのはこのためです。
ここでいう共役酸とは、NH₄⁺ ⇄ NH₃ + H⁺ の平衡において H⁺ を出す側、つまり NH₄⁺ のこと。ブレンステッド・ローリーの定義で酸として働くのがこちらなので、「アンモニアの共役酸」と呼びます。
まとめ
- Kw = [H⁺][OH⁻] = 10⁻¹⁴、pH + pOH = 14
- Ka は「平衡定数 × 水の濃度」をひとまとめにした定数。pKa が小さいほど強い酸
- Ka × Kb = Kw、pKa + pKb = 14。Kb しか与えられない問題で必ず使う
- 弱酸単独なら [H⁺] = √(Ka·C)、弱塩基単独なら [OH⁻] = √(Kb·C)
- 混ざった状態(緩衝液)ならヘンダーソン・ハッセルバルヒ式。pH は分子形とイオン形の“比”で決まる
- 分子形分率 = 1/(1 + 10^(pH−pKa))。弱塩基は指数が逆
- 分子形分率曲線で 50% になる点が pKa。弱塩基は pKb を pKa に直してから読む
次は酸・塩基平衡の頻出問題を解いてみようを読んでみてください。基本事項をどう問題に当てはめるかを、実際の国試問題で確認します。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。