
衛生の「疾病の予防」は、いきなり感染症や生活習慣病の各論に入る前に、そもそも健康とは何かというところから始まります。ここは暗記量が少ないわりに、必須問題でも理論問題でも毎年のように顔を出す、コスパのいい範囲です。
この記事で扱うのは3つです。健康の定義(生物学的な定義とWHOの定義)、オタワ憲章とヘルスプロモーション、そして健康日本21と健康増進法。この3つは「理想を言葉で決める → どうやって実現するかの考え方を決める → 国の運動と法律にする」という一本の流れになっています。バラバラに覚えるとすぐ混ざるので、流れで押さえてください。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
健康の定義は2つある
健康の定義は、生物学的な定義とWHOの定義の2つを押さえます。
生物学的な定義は、ホメオスタシス(恒常性)が維持されている状態。体温や血糖値、pHといった体内環境が一定の範囲に保たれている状態を健康とみなす、という考え方です。
WHOの定義は、WHO憲章の前文にあるもので、次のとおりです。
健康とは、肉体的にも、精神的にも、社会的にも完全に良好な状態であり、単に疾病または病弱でないことではない。
出題されるのはほぼこの後半です。「単に疾病または病弱でないことではない」——つまり病気がない=健康、ではない。ここが引っかけどころで、「健康とは疾病がない状態である」といった選択肢が誤りとして出てきます。
もうひとつ、社会的にもという一語も狙われます。肉体的・精神的の2つだけを並べた選択肢は誤りです。肉体・精神・社会の3つセットで覚えてください。
オタワ憲章とヘルスプロモーション

WHOが1986年に出したのがオタワ憲章で、ここで提唱されたのがヘルスプロモーションという考え方です。定義はこうです。
ヘルスプロモーションとは、人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセスである。
言葉だけだと頭に入りにくいので、上の図で見てください。目指すのはQOLの向上。「健康」という重い球を坂道の上へ押し上げていくイメージです。
- 球を押すのは本人
- 後ろから支えるのが専門家のサポート
- そして坂の角度そのものを下げるのが、健康を支援する環境づくり
3つ目が、ヘルスプロモーションのいちばんの肝です。本人の努力と専門家の力だけに頼るのではなく、環境の側を変えて、健康でいることを楽にする。これが「決定要因をコントロールできるようにする」という定義の中身です。
オタワ憲章には5つの活動領域も示されています。細かいので、目を通しておく程度で構いません。
- 健康的な公共政策づくり
- 健康を支援する環境づくり
- 地域活動の強化
- 個人技術の開発
- ヘルスサービスの方向転換
国試ではこう問われる
第106回・問71(必須)では「1981年に出されたリスボン宣言は何に関する宣言か」が問われ、選択肢にヘルスプロモーションが紛れ込んでいます(正解は患者の権利)。宣言・憲章の名前と中身の対応は、混ぜて出されます。オタワ憲章=ヘルスプロモーションは必ずセットにしておいてください。
健康水準の国際比較に使う3指標
国と国の健康水準を比べるときに使われるのが、粗死亡率・PMI・1歳平均余命の3つです。
PMI(Proportional Mortality Indicator、50歳以上死亡割合)は、全死亡のうち50歳以上の死亡が占める割合です。長生きできている国ほどこの割合が高くなるので、値が大きいほど健康水準が高いと読みます。「50歳以上の死亡率」と書かれることがありますが、正しくは割合です。
もうひとつ、なぜ0歳ではなく1歳の平均余命なのか。これは講義でも強調されていた点です。0歳児の平均余命(=平均寿命)は、出産前後の医療水準によって大きく振れます。乳児死亡の影響を受けやすく、そこだけで国どうしの差が出てしまう。0歳児の死亡の影響を除いて比較するために、1歳の平均余命を使うわけです。
なお、粗死亡率は人口の年齢構成に強く影響されるため、高齢化が進んだ国ほど高く出ます。国際比較でこれを補正したのが年齢調整死亡率ですが、そちらは保健統計の単元で扱います。
健康日本21と健康増進法
健康日本21は、正式には「21世紀における国民健康づくり運動」です。ここで押さえるべきは4点です。
① 一次予防に重点を置く
すでに病気になった人を治すことより、健康な段階で発症そのものを防ぐことを重視する、という立場です。一次予防・二次予防・三次予防の区別は一次予防・二次予防・三次予防の違いと具体例で詳しく扱います。
② 基本方針は健康寿命の延伸
平均寿命ではなく健康寿命です。ここは毎回のように差し替えられる場所なので、強く意識してください。あわせて生活習慣病の発症予防と重症化予防、そして健康格差の縮小が柱になります。
③ 考え方のもとはオタワ憲章のヘルスプロモーション
健康日本21の発想そのものが、オタワ憲章で提唱されたヘルスプロモーションと共通しています。これは過去問でそのまま正しい記述として出ています。
④ 法的基盤は健康増進法
健康日本21を推進するために作られたのが健康増進法です。「高齢者の医療の確保に関する法律」と入れ替えた選択肢が出たことがあります。
健康増進法で決まっていること
健康増進法は、健康日本21の土台であると同時に、衛生のあちこちで顔を出す法律です。主なものを挙げておきます。
| 内容 | ポイント |
|---|---|
| 受動喫煙の防止 | 学校・病院・行政機関などの第一種施設は原則敷地内禁煙、飲食店・職場などの第二種施設は原則屋内禁煙 |
| 食事摂取基準の策定 | 厚生労働大臣が定める(栄養の単元につながる) |
| 国民健康・栄養調査 | 毎年実施 |
| 特別用途食品の表示許可 | 特定保健用食品(トクホ)は特別用途食品の一つとして位置づけられる |
| がん検診などの健康増進事業 | 市町村が実施する |
特定保健用食品が特別用途食品の一つである、という入れ子の関係は、保健機能食品の単元でも問われます。ここで先に頭に入れておくと後がラクです。
目標値は「第三次」で更新されている
講義で触れている食塩8g/日は、健康日本21(第二次)の目標値です。2024年度(令和6年度)から健康日本21(第三次)が始まっており、主な目標値は次のように変わっています。
| 項目 | 第三次の目標値(令和14年度) |
|---|---|
| 食塩摂取量 | 7g/日 |
| 野菜摂取量 | 350g/日 |
| 果物摂取量 | 200g/日 |
第三次の基本的な方向は、①健康寿命の延伸と健康格差の縮小、②個人の行動と健康状態の改善、③社会環境の質の向上、④ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり、の4つです。④のライフコースアプローチ(胎児期から高齢期まで、生涯を通じて健康を考える)は第三次で新しく前面に出た言葉なので、名前だけでも覚えておいてください。
ただし、数字そのものより「食塩は減らす方向、野菜と果物は増やす方向」という向きのほうが問われます。方向を外さないことを優先してください。
国試ではこう問われる
- 第98回・問127:「健康日本21」の正しい記述を選ぶ問題。一次予防に重点、オタワ憲章のヘルスプロモーションと共通が正解でした。誤り選択肢は「平均寿命の延伸を目標に掲げている」(正しくは健康寿命)と「法的基盤は高齢者の医療の確保に関する法律である」(正しくは健康増進法)
- 第106回・問120: 今度は誤っているものを選ぶ形式。誤りは「健康日本21(第二次)において感染性疾患の対策を講じることが追加された」でした。健康日本21が相手にしているのは生活習慣病であって感染症ではありません
- 食塩の減少・野菜と果物の増加が目標である、という記述は正しい選択肢として繰り返し出ています
まとめ
- 健康の生物学的定義はホメオスタシスが維持されている状態
- WHOの定義は「肉体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病または病弱でないことではない」。病気がない=健康ではないという後半が問われる
- オタワ憲章(1986年)でヘルスプロモーションが提唱された。定義は「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」。環境づくりで坂の角度を下げるのが要点
- 健康水準の国際比較には粗死亡率・PMI(50歳以上死亡割合)・1歳平均余命を使う。0歳ではなく1歳なのは乳児死亡の影響を除くため
- 健康日本21は一次予防を重視し、健康寿命の延伸を目標とする。平均寿命ではない
- 健康日本21の法的基盤は健康増進法。受動喫煙防止、食事摂取基準の策定、毎年の国民健康・栄養調査、特別用途食品の表示許可などを定める
- 2024年度から第三次が始まり、食塩7g/日・野菜350g/日・果物200g/日が目標値になっている
次は一次予防・二次予防・三次予防の違いと具体例を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。