分離分析法

電気泳動法:キャピラリー電気泳動とSDS-PAGE【薬剤師国家試験】

電気泳動法のマインドマップ
電気泳動法のマインドマップ

分離分析法の2本柱、クロマトグラフィーに続いて、今回は電気泳動法です。

クロマトグラフィーが「固定相と移動相への親和性の差」で分けていたのに対して、電気泳動法は電場の中での動きやすさの差でふるい分けます。原理がまったく違うので、切り替えて読んでください。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。

基本 ─ 移動速度の式は「感覚」を式にしたもの

電場E = 電圧V / 距離L、電荷にかかる力 F = qE
電場E = 電圧V / 距離L、電荷にかかる力 F = qE

最初に速度の式が出てきますが、丸暗記する必要はありません。何に比例して何に反比例するかだけ押さえてください。

まず電場とは

電極のあいだに電圧をかけたとき、

電場 E = 電圧 V / 距離 L

つまり単位長さあたり何ボルトかを表したものが電場です。電極間が 10 cm なら「1 cm あたり何V か」ということですね。

そして電場は、電荷1クーロンあたりにはたらく力でもあります。だから電荷 q にはたらく力は

F = qE

と書けます。

移動速度の式

移動速度 v は電場 E に比例し、その比例定数が電気泳動移動度 μ です。

v = μE

μ の中身を見ると、次のようになっています。

要素 移動度への効き方 感覚的な理由
q(イオンの有効電荷) 比例 電荷が大きいほど強い力を受ける(F = qE)
η(溶媒の粘度) 反比例 溶液がネバネバしていれば遅くなる
r(イオンの半径) 反比例 大きいイオンほど動きにくい

分母の係数(6π など)は覚えなくて構いません。電荷が大きいと速い、粘度が高いと遅い、イオンが大きいと遅い——この3つが言えれば十分です。

一番基本の動き方(ゾーン電気泳動法)

混合物に電圧をかけると、陰イオンは陽極側、陽イオンは陰極側へ動く
混合物に電圧をかけると、陰イオンは陽極側、陽イオンは陰極側へ動く

平板の中央に混合物を置き、両端に陽極と陰極を置いて電圧をかけます。

  • 中性成分:その場に残る
  • 陰イオン:陽極側へ動く
  • 陽イオン:陰極側へ動く

これが電気泳動のいちばん基本の形です。このあと出てくる方法は、すべてこの応用にすぎません。等電点で止まらせてみたり、ゲルで大きさをふるい分けてみたり、平板でやっていたことをキャピラリーの中で精度高くやってみたり——そう捉えると全体が見通せます。

平板状で行う2つの方法

平板で行うのは等電点電気泳動法とゲル電気泳動法です。分ける軸が違います。

  • 等電点電気泳動法 → 電荷で分離
  • ゲル電気泳動法 → 大きさで分離

等電点電気泳動法

陽極から陰極に向かってpHの勾配を作り、等電点の位置で止まらせる
陽極から陰極に向かってpHの勾配を作り、等電点の位置で止まらせる

陽極と陰極のあいだに、pH の勾配を作っておきます(図では pH 3 から pH 11 まで)。そこへ混合物を入れて通電します。

電荷を持っているうちは、その成分はどちらかへ動き続けます。しかし自分の等電点に相当する pH のところまで来ると、電荷がゼロになって動けなくなる。こうしてそれぞれの成分が、自分の等電点の位置で止まって分離されます。

図のように、pI 4 の成分は pH 4 の位置に、pI 7 の成分は pH 7 の位置に、pI 10 の成分は pH 10 の位置に集まるわけですね。

ゲル電気泳動法

こちらは大きさで分ける方法で、発想はサイズ排除クロマトグラフィーと同じです。

ここでのキーワードが分子篩(ふるい)効果のほうが強いという点。どういうことか、例で考えます。

電荷が −2 の成分と −1 の成分があったとします。ふつうの電気泳動なら、電荷が大きい −2 のほうが陽極へ速く動きそうですよね。ところがゲルの中では網目をくぐる速さのほうが効いてくるので、−1 のほうが小さければ、そちらが速く動くことになります。これが「分子篩効果のほうが強い」の意味です。

使うゲルは2種類、セットで覚えてください。

ゲル 網目 得意な試料
アガロースゲル 粗い(穴が大きい) 核酸の分離
ポリアクリルアミドゲル(PAGE) 細かい タンパク質の分離

SDS-PAGE

SDS-PAGE:還元剤でS-S結合を切り、SDSで一様に負電荷にしてから分離する
SDS-PAGE:還元剤でS-S結合を切り、SDSで一様に負電荷にしてから分離する

ポリアクリルアミドゲルを使った代表的な方法が SDS-PAGE です。

まず SDS とはドデシル硫酸ナトリウムのこと。ラウリル硫酸ナトリウムとまったく同じもので、呼び方が違うだけです(陰イオン界面活性剤)。

なぜこの操作が必要なのか、タンパク質の事情から考えましょう。タンパク質は、場所によってプラスにもマイナスにも帯電していて、S–S結合で折りたたまれ、同じ分子量でも形がばらばらです。このままでは電気泳動しても何を見ているのかわかりません。

そこで2段階の前処理をします。

  1. 還元剤で S–S 結合を切断する → 折りたたみがほどけて直線状になる
  2. SDS(陰イオン界面活性剤)で一様に負電荷にする → 電荷のばらつきが消える

これで「電荷は一様、形も直線状」という、分子量の違いだけが残った状態が作れます。この状態で通電すれば、

分子量が小さいものほど陽極側へ速く進み、分子量が大きいものほど陽極から遠いところに残る

というきれいな分離ができるわけです。だから SDS-PAGE はタンパク質の分析によく使われます。

キャピラリー電気泳動法

平板でやっていたことを、細い管(キャピラリー)の中で行う方法です。

キャピラリー電気泳動法の装置全体像
キャピラリー電気泳動法の装置全体像

装置の構成はこうなっています。

  • 2つの溶液槽にまたがってキャピラリーが渡してある
  • キャピラリーはフューズドシリカ(溶融シリカ)製で、中は電解質溶液で満たされている
  • 両端の槽に電極を入れ、高圧電源で電圧をかける
  • 出口側に検出器(紫外可視吸光度検出器や蛍光検出器)を置いて、光源と受光器のあいだを通過させて検出する

原動力は電気浸透流

pHを上げるとシラノール基が解離し、管壁が負に帯電して電気浸透流が生じる
pHを上げるとシラノール基が解離し、管壁が負に帯電して電気浸透流が生じる

キャピラリー電気泳動を動かしている原動力が電気浸透流です。

フューズドシリカの内壁には シラノール基(–Si–OH)があります。pH を上げると、この OH が解離して –O⁻ となり、管壁が負に帯電します。すると、その負電荷を打ち消すように、溶液中の陽イオンが壁の近くに集まってきます。

ここに電圧をかけると、壁際に集まっていた陽イオンが陰極側へ動き出し、溶液全体が引きずられるように流れます。これが電気浸透流です。

まとめ

  • 電気泳動法は電場の中での動きやすさの差で分離する
  • 電場 E = 電圧 / 距離。電荷にはたらく力は F = qE
  • 移動度は電荷 q に比例し、溶媒の粘度 η とイオン半径 r に反比例する
  • 基本の動き:中性はその場、陰イオンは陽極側、陽イオンは陰極側
  • 等電点電気泳動法は pH 勾配を作り、等電点で電荷が0になって止まることを利用する
  • ゲル電気泳動法は分子篩効果が電荷の効果より強い。アガロースゲル=核酸、ポリアクリルアミドゲル=タンパク質
  • SDS(=ラウリル硫酸ナトリウム、陰イオン界面活性剤)と還元剤で、電荷と形をそろえてから分子量だけで分ける
  • キャピラリー電気泳動はフューズドシリカのキャピラリーを使い、原動力は電気浸透流

次は臨床現場での試料前処理法:溶媒抽出・固相抽出・除タンパクを読んでみてください。ここからは臨床現場で使う分析技術に入ります。

物理を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。

物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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