
前回までで、放射線がどう出て、どう減り、どう測るかを見てきました。今回は浴びると体に何が起こるのかです。
扱うのは4つ。
- 被曝の分類(体内か体外か)
- 感受性と集積性(どの組織が弱いか、どこに溜まるか)
- 放射線の影響(確定的影響と確率的影響)
- LET(生体影響を左右する指標)
分量は多くありません。ただし理屈で押さえると丸暗記が要らなくなるタイプの単元なので、その視点で読んでみてください。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
体内被曝と体外被曝で、影響力が逆転する
この単元のいちばんのミソがここです。
| 被曝の種類 | 影響力の順序 |
|---|---|
| 体内被曝 | α > β > γ |
| 体外被曝 | γ > β > α |
きれいに逆転します。なぜそうなるのかを、理屈で押さえてしまいましょう。
体内被曝でα線がいちばん強い理由
前回の復習ですが、α線は「重くて・短距離・高火力」でした。透過力は極めて小さく、厚紙1枚で遮蔽できてしまう。
ところが体の中に入ってしまっている場合、遮るものがありません。透過力が弱いということは、そのエネルギーをその場で全部置いていくということです。だから体内では、α線がいちばん大きなダメージを与えます。
体外被曝でγ線がいちばん強い理由
逆に体の外から浴びる場合、体そのものが防御になります。α線は皮膚の角質層で止まってしまい、生きた細胞にはほとんど届きません。
したがって透過力が強いものほど影響が大きいことになり、γ > β > α の順になります。
「体内は高火力順、体外は透過力順」——この一文で両方とも導けます。
感受性 ─ どの組織が放射線に弱いか

| 細胞分裂 | 組織 | 感受性 |
|---|---|---|
| 盛ん(未分化の細胞が多い) | 造血系(骨髄・リンパ組織・胸腺・脾臓)、胎児 | 高い |
| その中間 | 皮膚、眼、消化管 | 中 |
| あまりしない | 神経、筋肉、脂肪組織 | 低い |
これも丸暗記は不要です。軸はひとつ。
細胞分裂が盛んな組織ほど、放射線に弱い
リンパ組織も骨髄も胎児も、細胞がどんどん分裂しているところです。逆に神経・筋肉・脂肪はほとんど分裂しません。中間に位置する皮膚・眼・消化管も、この軸で見れば納得できるはずです。
集積性 ─ どの核種がどこに溜まるか

| たまる理由 | 核種 | たまる場所 |
|---|---|---|
| 骨の材料 Ca・P(Sr・Ra は Ca と同じ族) | ³²P、⁴⁵Ca、⁹⁰Sr、²²⁶Ra | 骨 |
| 甲状腺ホルモンの材料 I | ¹²³I、¹²⁵I、¹³¹I | 甲状腺 |
| K と同じ族 Cs | ¹³⁷Cs | 全身(とくに筋肉) |
| H・C | ³H、¹⁴C | 全身 |
ここも理屈があります。
骨に集まるもの ─ カルシウムの仲間か、骨の成分かです。
- ⁹⁰Sr と ²²⁶Ra は、周期表でカルシウムと同じ第2族。2価の陽イオンとして振る舞うので、カルシウムの代わりに骨へ行きます
- ³²P は、骨の主成分であるヒドロキシアパタイトの構成元素。だから骨に行きます
- ⁴⁵Ca はそのままカルシウムですね
甲状腺に集まるもの ─ ヨウ素です。甲状腺はヨウ素を取り込んで甲状腺ホルモンを作る臓器なので、これは素直に理解できます。前回やったとおり、¹²³I は診断用、¹³¹I は治療用、¹²⁵I は半減期が約2か月と長く医薬品には使いにくい、という区別でした。
全身に分布するもの ─ ³H(水素)と ¹⁴C(炭素)は、体を構成する元素そのものですから全身に行きます。¹³⁷Cs が特に筋肉中に多いのは、セシウムが周期表でカリウムと同じ第1族だからです。カリウムは筋肉に多い電解質ですよね。
「第2族なら骨、第1族なら筋肉、ヨウ素なら甲状腺」。これで表のほとんどが再現できます。
放射線の影響 ─ 確定的影響と確率的影響
放射線を浴びた結果として現れる障害は、性質の違う2つに分けられます。
確定的影響 ─ しきい値がある

不妊、皮膚障害、白内障などがこちらです。
グラフを見てください。ある線量(しきい値)を超えないと、そもそも発症しません。そして、しきい値を超えて線量が上がっていくと、軽い症状から重い症状へと悪化していきます。
イメージとしては、一人の人の中で起きる変化の度合いの話です。
確率的影響 ─ しきい値がない

白血病、がんなどがこちらです。
こちらにはしきい値がありません。そして縦軸が「症状の重さ」ではなく発生確率になっているのがポイントです。なる人はなるし、ならない人はならない。線量が上がると、その確率が上がっていくのです。
10人のうち1人だったものが、線量が増えると10人のうち9人になる——そういうイメージで捉えると、確定的影響との違いがはっきりします。
なぜ確率になるのか
メカニズムを知っておくと忘れません。
放射線によってDNAに傷が入ったとします。しかし、
- 細胞が死んでしまえば、がんにはなりません
- うまく修復できても、問題は起きません
- たまたま修復に失敗して突然変異が残ったときだけ、がん化します
この「たまたま」が確率そのものです。だから確率的影響なのですね。
なお、グラフの縦軸が0から始まっていないのは、自然発生率があるからです。放射線を浴びていなくても、年齢を重ねればがんになる確率は上がります。そのぶんが下駄として乗っているわけです。
LET ─ 生体影響に変化を及ぼす因子
最後に LET(線エネルギー付与)です。定義はこうです。
放射線が物質中を進む間に、単位長さ当たり、どれだけのエネルギーをその物質に渡すかを示す指標
言い換えると、どれくらい濃いダメージを残すかです。
イメージとしては、紙に線を引くところを想像してください。太いマジックでギギギと引かれるのと、細いペンでスッと引かれるのとでは、残る跡の濃さが違いますよね。太いマジックが高LET、細いペンが低LETです。
| 放射線 | 主な作用 | |
|---|---|---|
| 高LET | α線 | 直接作用 |
| 低LET | β線、γ線、X線 | 間接作用 |
直接作用と間接作用
直接作用は、放射線がDNAそのものを直撃するパターンです。代表はDNAの二本鎖切断。高LETのα線は、狭い範囲に濃いエネルギーを置いていくので、こういう決定的な壊し方をします。
間接作用は、DNAを直接壊すのではなく、まず水分子に当たるパターンです。
放射線が水分子に衝突 → フリーラジカル(・H、OH・)が発生 → そのラジカルがDNAの塩基変化や一本鎖切断を起こす
体はほとんど水ですから、低LETの放射線はこちらの経路で効いてきます。
酸素効果と酸素増感比
間接作用には温度効果・希釈効果などもありますが、国家試験に出るのは酸素効果です。
酸素があると障害作用が増強される——これが酸素効果です。理由は、酸素があると過酸化ラジカルが発生しやすくなるからです。
H・ + O₂ → HOO・
その指標が酸素増感比(OER)です。考え方は単純で、
同じ生物学的作用を引き起こすのに必要な線量が、無酸素状態では何倍必要か
という比です。酸素がない状態のほうがより多くの線量が必要になるので、
OER = (無酸素状態で必要な線量) ÷ (酸素がある状態で必要な線量)
という形になります。「酸素があるほうが少ない線量で効く」——この向きだけ間違えないようにしてください。
まとめ
- 体内被曝は α > β > γ、体外被曝は γ > β > α。体内は高火力順、体外は透過力順で導ける
- 感受性は細胞分裂が盛んな組織ほど高い。高:リンパ組織・骨髄・胎児、中:皮膚・眼・消化管、低:神経・筋肉・脂肪
- 集積性は周期表で導ける。第2族(⁹⁰Sr、²²⁶Ra)と³²P・⁴⁵Ca は骨、ヨウ素は甲状腺、第1族の ¹³⁷Cs は筋肉を含む全身
- 確定的影響はしきい値あり(不妊・皮膚障害・白内障)。線量が上がると症状が重くなる
- 確率的影響はしきい値なし(白血病・がん)。線量が上がると発生確率が上がる。自然発生率という下駄がある
- LET は単位長さあたりに渡すエネルギー。高LET = α線 = 直接作用(DNA二本鎖切断)、低LET = β・γ・X線 = 間接作用(フリーラジカル経由)
- 酸素効果は、酸素があると過酸化ラジカルが発生して障害が増強される現象。指標が酸素増感比(OER)
これで放射線そのものの基礎が一通りそろいました。次は、この知識を全部使って放射性医薬品:診断用・治療用の核種を整理するを読んでください。「だからこの核種なのか」が、ひとつずつつながっていくはずです。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。