放射化学と放射性医薬品

放射線の基礎原理と核種:α壊変・β壊変・γ転移と放射線の性質【薬剤師国家試験】

放射線の基礎原理と核種のマインドマップ
放射線の基礎原理と核種のマインドマップ

ここから物理の最後の分野、放射化学と放射性医薬品に入ります。マインドマップでいうと残り4枚。これを終えれば物理は全範囲が終わりです。

この分野は、学ぶ順番がそのまま理解のしやすさを決めます。放射性医薬品(⁹⁹ᵐTcだ、¹³¹Iだ、という話)を先に覚えようとすると、ただの暗記地獄になります。そうではなく、

  1. 放射線がどうやって出てくるのか(この記事)
  2. 出てきた放射線はどう減り、どう測るのか
  3. 浴びると体に何が起こるのか
  4. それを踏まえて、どの核種を医薬品に使うのか

という順に積み上げると、最後の放射性医薬品は「なるほど、だからγ線なのか」と理屈で決まっていきます。遠回りに見えて、これが一番速い道です。

この記事ではその1段目、放射線の出方(放射壊変)と、出てきた放射線の性質を扱います。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。

まずは質量数と原子番号のおさらい

質量数=陽子数+中性子数、原子番号=陽子数
質量数=陽子数+中性子数、原子番号=陽子数

中学・高校の化学の最初でやったところですが、ここが曖昧だと放射壊変は全部あやふやになります。30秒で確認しておきましょう。

炭素を例にとると、¹²₆C と書いたとき、

  • 下の 6 = 原子番号 = 陽子数(水兵リーベ僕の船、の6番目)
  • 上の 12 = 質量数 = 陽子数 + 中性子数

つまり普通の炭素は、陽子6個・中性子6個で質量数12ということですね。

ここで大事なのは、放射性核種はこの陽子と中性子のバランスが崩れているということです。崩れているからこそ、安定になろうとしてα線を出したりβ線を出したりする。「どちらが多すぎるのか」を見れば、何を出すかが決まる——この視点を持っておくと、この先がぐっと楽になります。

放射壊変は3種類

放射壊変は大きくα壊変・β壊変・γ転移の3つに分けられます。さらにβ壊変の中に、β⁻壊変・β⁺壊変・軌道電子捕獲(EC)の3つがあります。

全体のイメージを先に言ってしまうと、

壊変 ざっくり何をしているか
α壊変 重たいものを外に出す
β壊変 電子(e)が移動する
γ転移 余ったエネルギーを光として捨てる

この3行が頭に入っていれば、細かい話は枝葉です。

α壊変 ─ 重たいものを出す

²²⁶Ra → ²²²Rn + α線
²²⁶Ra → ²²²Rn + α線

「重たいもの」の正体はヘリウムの原子核です。つまりα線 = ⁴₂He。陽子2個と中性子2個がセットで飛び出していきます。

例として、²²⁶₈₈Ra(ラジウム)を見てみましょう。

  • 質量数が 4 減って 226 → 222
  • 原子番号が 2 減って 88 → 86

結果、²²²₈₆Rn(ラドン)になります。α線を出しながら、より軽い原子核へ変わったわけですね。

β⁻壊変 ─ 中性子が多すぎるとき

⁹⁰Sr → ⁹⁰Y + e⁻
⁹⁰Sr → ⁹⁰Y + e⁻

⁹⁰₃₈Sr(ストロンチウム)を例にします。質量数90の内訳は、陽子38・中性子52です。

ここから電子(e⁻)が1つ出てくるのですが、この電子は原子核の中から、それも中性子から出てきます。電子を放出した中性子は陽子に変わります。

  • 中性子 52 → 51
  • 陽子 38 → 39

陽子数が変わったので、もうストロンチウムではありません。原子番号39のイットリウム(Y)になります。一方、中性子が陽子に変わっただけなので質量数は90のままです。

このとき飛び出した電子がβ⁻線です。

β⁺壊変 ─ 陽子が多すぎるとき

¹¹C → ¹¹B + e⁺
¹¹C → ¹¹B + e⁺

今度は逆です。¹¹₆C(炭素11)を見てみましょう。

陽電子(e⁺)が陽子から飛び出し、その陽子は中性子に変わります。

  • 陽子 6 → 5
  • 質量数は 11のまま

原子番号5ですから、ホウ素(B)になりました。

陽子と中性子の相互変換
陽子と中性子の相互変換

β⁻壊変とβ⁺壊変は、この1枚の図で完全に整理できます。中性子 → 陽子のときに e⁻(β⁻線)、陽子 → 中性子のときに e⁺(β⁺線)。それだけです。

そして、この e⁺ を「ポジトロン(陽電子)」と呼び、PET検査の主役になります。

e⁺ + e⁻ → 消滅放射線が180°方向に放出
e⁺ + e⁻ → 消滅放射線が180°方向に放出

陽電子はプラスの電荷を持つので、近くの電子(マイナス)と出会うと結合して消滅します。このとき消滅放射線(γ線)が、正反対の180°方向へ2本同時に飛び出します。向かい合った検出器が同時にこれを捉えれば、その線上に薬があったとわかる——これがPET検査の原理でしたね。

軌道電子捕獲(EC) ─ 外から電子を取り込む

¹²³I → ¹²³Te、特性X線が出る
¹²³I → ¹²³Te、特性X線が出る

β壊変の3つめです。¹²³₅₃I(ヨウ素)を例にします。

原子核が、その周りを回っている軌道電子を1個、内側に取り込んでしまうのがこの壊変です。取り込まれた電子は陽子と結合して中性子になります。

  • 陽子 53 → 52(原子番号が1減る)
  • ¹²³₅₂Te(テルル)になる

ここで面白いのが、そのあとに出てくる放射線です。内側の電子殻が1個空いてしまったので、それを埋めるために外側の電子が内側へ落ちてきます。外側のほうがエネルギーが高いので、落ちた分の差のエネルギーが特性X線として放出されるわけですね。

この話、X線分析法のところで出てきた特性X線とまったく同じ仕組みです。覚え直す必要はありません。

ECのポイントは「陽子が1個減る = 原子番号が1減る」。ここだけは確実に押さえてください。

γ転移 ─ 余ったエネルギーを捨てる

⁹⁹ᵐTc → ⁹⁹Tc + γ線
⁹⁹ᵐTc → ⁹⁹Tc + γ線

α壊変やβ壊変のあとにできた原子核は、まだエネルギー的に高い状態(励起状態)にいることがあります。そこからγ線を出して安定化するのがγ転移です。

ここで押さえるべきは2点。

  1. γ線は核内から発生する(あとでX線と比較するときに効いてきます)
  2. エネルギー状態の話だけなので、原子番号も質量数も変わらない

そして、この励起状態が比較的長く続くものを核異性体といい、質量数の右肩に m を付けて表します。代表例が ⁹⁹ᵐTc(テクネチウム)。これが ⁹⁹Tc に戻るときにγ線を出します。放射性医薬品でいちばんよく出てくる核種なので、ここで顔を覚えておいてください。

出てきた放射線の性質を比べる

ここまでで α線・β線・γ線 が登場しました。今度は、出てきたこいつらがどういう性質なのかを比べていきます。まずは3つを横に並べた表で全体をつかみましょう。

α線・β線・γ線の比較表
α線・β線・γ線の比較表

見るべきは「重さ」の行です。重い → ぶつかる → すぐ止まる。軽い → すり抜ける → 遠くまで届く。ぶつかりやすさ・届く距離・止めるものは、全部この1行の言い換えです。赤字にしたのは、重さからは導けないので覚えるしかないもの(止めるもの3つと、β線だけが連続スペクトルになること)だけです。

α線

イメージは 「重くて・短距離・高火力」。この6文字で全部説明がつきます。

正体は重いヘリウム原子核ですから、物質とぶつかりまくる。その代わりすぐ止まるので、届く距離は数cmほど。厚紙1枚で止まります。代表核種は ²²²Rn と ²²⁶Ra で、どちらも質量数の大きい核種です。

ブラッグ曲線
ブラッグ曲線

もう1つ知っておきたいのがブラッグ曲線です。横軸が距離、縦軸が作用。

グラフを見ると、止まる直前でいちばん作用が強くなって、そこでストンと落ちます。理由は速度です。出たばかりのときは光速に近い速さで動いているので、物質と接触している時間が短く、あまり相互作用できない。ところが減速してくると接触時間が長くなるので、止まる直前に相互作用が最大になるわけですね。

β⁻線

正体は(陰)電子です。α線より圧倒的に軽いので、α線ほどはぶつからず、そのぶん遠くまで届きます(数mm〜数m)。止めるのは厚いプラスチック板。γ線ほど遠くへは届きません。

そして、スペクトルは連続スペクトルになります。ここは理由まで押さえておきましょう。β⁻壊変では、放出されるエネルギーが娘核種・β⁻線・ニュートリノの3者に分配されるからです。分け方が毎回バラバラなので、β⁻線が受け取るエネルギーもバラバラ。だから連続スペクトルになります。

代表核種はゴロで

ここは衛生の放射線のところでも出てくる頻出箇所です。マインドマップではこのゴロで整理しています。

「ヒクソンのスリッパにおって結構くさいかな」

ゴロ 分類 核種
ヒクソン 低エネルギーのβ⁻線 ³H、¹⁴C、³⁵S
スリッパにおって 高エネルギーのβ⁻線 ⁹⁰Sr、³²P、Ni
結構くさいかな β⁻線とγ線を放出 ⁴⁰K、⁶⁰Co、¹³⁷Cs、¹³¹I

さらに、この中から特に押さえておきたいものを3つ。

  • ⁴⁰K は天然放射性核種で最も多いもの。半減期が何十億年という桁違いの長さです
  • ⁹⁰Sr と ³²P は骨に蓄積されやすい。ストロンチウムはカルシウムと同じ第2族なので2価イオンになり、リンはヒドロキシアパタイト(骨の主成分)の成分だから——と理屈で結びつけて覚えてください
  • ³H と ¹⁴C は質量数が多い。普通の水素は質量数1、普通の炭素は12ですから、³H も ¹⁴C も中性子が多いことになります。中性子が多い = β⁻線を出す、ですね

この最後の視点は本当に便利です。¹¹C と ¹⁴C、どっちがβ⁻でどっちがβ⁺だったかで迷ったら、

  • ¹⁴C:陽子6・中性子8 → 中性子が多い → 中性子を減らしたい → β⁻
  • ¹¹C:陽子6・中性子5 → 陽子が多い → 陽子を減らしたい → β⁺

と、その場で導けます。丸暗記より確実です。

制動X線

β⁻線の話のついでに、制動X線も押さえておきましょう。

電子であるβ⁻線が原子核の近くを飛ぶと、クーロン力を受けて一気に曲げられます。急激に減速した分のエネルギーが放出されたものが制動X線です。どこをどう通るかで曲げられ方が変わるので、制動X線も連続スペクトルになります。

「β⁻線が連続スペクトル」「制動X線も連続スペクトル」——セットで覚えておくと取りこぼしません。

β⁺線

正体は陽電子(ポジトロン)。重さは電子と同じなので、性質はβ⁻線とそろっています。

β⁻線との差は1点だけ。消滅γ線を出すので、PETに使えるということ。ここが決定的な差です。

ゴロ:ビップないいこふん
ゴロ:ビップないいこふん

代表核種はこのゴロで覚えます。

「ビップないいこふん」

ゴロ 対応
ビップ β⁺壊変
な Na
いいこ ¹¹C・O
ふ F
ん N

国家試験でよく顔を出すのは ¹¹C、¹⁵O、¹⁸F、¹³N の4つ。中でも ¹⁸F は、PET検査の主役である ¹⁸F-FDG(フルデオキシグルコース) として頻出です。グルコースに構造が似ているのでがん細胞に集まりやすく、病巣の位置がわかる——という話でしたね。

γ線

α線とβ線は粒子でした。これに対してγ線は電磁波で、核内から発生します。ここが根本的な違いです。

質量がないので物質とはほとんどぶつからず、きわめて遠くまで届きます。止めるには鉛板やコンクリートが要ります。スペクトルは線スペクトル。励起状態と基底状態のエネルギー差という、決まった値がそのまま出てくるからです。

代表的な放出核種は、放射性医薬品での使われ方で分けておくと、あとで迷いません。

使われ方 核種(どの壊変に伴うか)
診断で使う ⁹⁹ᵐTc(核異性体転移)、¹²³I・¹²⁵I(EC)、⁶⁷Ga・¹¹¹In・²⁰¹Tl(EC)
治療で使う ¹³¹I(β⁻壊変に伴う)
自然界・その他 ⁶⁰Co(β⁻壊変に伴う)、²²²Rn・²²⁶Ra(α壊変に伴う)

ここに並んでいる核種は、そのまま放射性医薬品で再登場します。「あ、あそこで出てきたやつだ」と思えるように、いまのうちに眺めておいてください。

γ線が起こす3つの現象

飛び出したγ線が物質に当たると何が起こるか。エネルギーの高さで3つに分かれます。

エネルギー帯 現象 何が起きているか
低 光電効果 全エネルギーを使って電子を弾き飛ばし、自分は消滅する
中 コンプトン効果 電子を弾き飛ばし、余ったエネルギーで弱くなった光として残る
高 電子対生成 γ線が電子(e⁻)と陽電子(e⁺)に変わる

電子対生成はちょっと衝撃的な現象です。質量も電荷も持たなかったγ線が、質量と電荷を持つ粒子に変わってしまう。アインシュタインの E = mc² が示すとおり、この世界ではエネルギーと質量が行き来します。「質量保存則」ではなく「エネルギー保存則」が効いている世界だ、というイメージで捉えておくと腑に落ちます。

X線とγ線の決定的な違い

最後にX線を整理して、この記事を締めます。

X線は、分光分析法のところでも出てきましたね。2種類ありました。

  • 制動X線:電子が原子核の近くで急に曲げられて減速したときに出る → 連続スペクトル
  • 特性X線:内側の電子殻が空いて、外側の電子が落ちてきたときのエネルギー差 → 線スペクトル

そして、γ線との違いはここです。

γ線は核内から発生する。X線は核外から発生する。

本体はどちらも電磁波で、見た目には区別がつきません。出どころが核の中か外か——これが唯一にして決定的な違いです。試験でも狙われるので、この1行だけは必ず持ち帰ってください。

まとめ

  • 放射性核種は陽子と中性子のバランスが崩れている。どちらが多いかを見れば何を出すかが決まる
  • α壊変は⁴₂He(ヘリウム原子核)を放出 → 質量数−4、原子番号−2
  • β⁻壊変は中性子 → 陽子に変わり e⁻ を放出 → 質量数そのまま、原子番号+1
  • β⁺壊変は陽子 → 中性子に変わり e⁺ を放出 → 質量数そのまま、原子番号−1。e⁺ はポジトロンでPETに使う
  • 軌道電子捕獲(EC)は軌道電子を取り込んで陽子を中性子に → 原子番号−1。特性X線が出る
  • γ転移は励起状態から安定化するときにγ線を放出。原子番号も質量数も変わらない。励起状態が長く続くものが核異性体(⁹⁹ᵐTc)
  • α線は重くて短距離で高火力。厚紙1枚で遮蔽。ブラッグ曲線は止まる直前がピーク
  • β⁻線は連続スペクトル(エネルギーが娘核種・β線・ニュートリノに分配されるため)。ゴロは「ヒクソンのスリッパにおって結構くさいかな」
  • β⁺線の性質はβ⁻線とほぼ同じだが、消滅γ線を出すのでPETに使える。ゴロは「ビップないいこふん」
  • γ線は電磁波で線スペクトル。きわめて遠くまで届き、止めるには鉛板やコンクリートが要る
  • γ線が起こす現象は、低エネから順に光電効果・コンプトン効果・電子対生成
  • γ線は核内から、X線は核外から発生する

放射線の「出方」と「性質」がそろいました。次は放射能の時間変化と測定:放射平衡・半減期・ベクレル・グレイ・シーベルトで、出てきた放射線がどう減っていき、どうやって測るのかを見ていきます。

物理を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。

物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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