
前回は、放射線がどうやって出てくるのか(α壊変・β壊変・γ転移)と、出てきた放射線の性質を見てきました。
今回はその次の段、放射能の時間変化と測定です。大きく2つに分かれます。
- 放射能の時間変化 ─ そもそも放射能とは何か、放射平衡、半減期
- 測定と単位 ─ ベクレル・グレイ・シーベルトと、測定器
覚えることが増えてくるところですが、イメージとゴロでかなり圧縮できます。ひとつずつ見ていきましょう。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
放射能とは「確率 × 原子の数」
前回は「放射線」の話でしたが、まだ「放射能」をやっていません。定義はこうです。
放射能とは、1秒間に何個の原子が壊変するか
サイコロで考えるとイメージしやすくなります。1秒間に6分の1の確率で壊変する物質を想像してください。サイコロを振って1の目が出たら壊れる、という感じです。
- 原子が 1個なら、1秒間に壊変するのは平均 1/6個
- 原子が 6個なら、1秒間に平均 1個が壊変する
- 原子が 60個なら、1秒間に平均 10個が壊変する
ここで大事なのは、古いものから順番に壊れていくのではないということ。どの原子も等しく、決まった確率で壊れるのです。
つまり放射能は、
壊変する確率 × 原子の数
で決まります。この一行が、次の放射平衡を理解する土台になります。
放射平衡 ─ 永続平衡と過渡平衡
親核種 A が壊変して娘核種 B ができる、という流れを考えます。
このとき、
- A は B を生み出しながら、自分は減っていく
- B は A から供給されながら、自分もある確率で壊変していく
という2つのことが同時に起きています。A の半減期と B の半減期の関係によって、その様子が2パターンに分かれます。
永続平衡 ─ A が圧倒的に長寿命

A の半減期が B よりもけた違いに長い場合です(t₁/₂A ≫ t₁/₂B)。
A はほとんど減らないので、B への供給スピードが一定のまま変わりません。一方 B は寿命が短いのでどんどん壊れます。すると、
B が作られるスピード = B が壊れるスピード
というつり合いの状態に落ち着きます。このとき A と B の放射能が等しくなるのが永続平衡です。グラフでは、B の曲線が A の水平線に近づいて重なっていきます。
過渡平衡 ─ A のほうが長いが、けた違いではない

A の半減期が B より長いけれども、観察している時間の中で A もちゃんと減っていく場合です(t₁/₂A > t₁/₂B)。
A が減るということは、さきほどの「確率 × 原子の数」で言えば、原子の数のほうが減っていくということ。すると B の生産量も落ちていきます。
- 最初は A がたくさんあるので、B は一気に増える
- その後 A が減っていくので、B もつられて減る
- 最終的に A と B の放射能の比が一定になる
これが過渡平衡です。永続平衡は「等しくなる」、過渡平衡は「比が一定になる」——この違いで区別してください。
ミルキングとジェネレーター
「なぜ薬剤師国家試験で放射平衡をやるのか」。その答えがここにあります。放射性医薬品を作る工程に応用されているからです。
その操作をミルキングといいます。語源はそのまま、牛の搾乳です。酪農では朝に乳を搾ると、しばらく時間を置けばまた搾れるようになりますよね。同じように、時間を置くとまた取り出せることから名付けられました。
ミルキング = 短半減期の娘核種を取り出す操作。そのための装置がジェネレーターです。

出典:日本原子力開発機構
代表例が ⁹⁹Mo-⁹⁹ᵐTc ジェネレーターです。仕組みはシンプルです。
- 鉛の遮蔽容器の中に、⁹⁹Mo を吸着させたアルミナカラムが入っている
- そこへ生理食塩水を流し込んでカラムを洗い流す
- 出てきた生理食塩水の中に ⁹⁹ᵐTc が溶けている(これを回収して使う)
- 1日置けば、またカラムの中に ⁹⁹ᵐTc が溜まるので、翌日また搾れる
⁹⁹ᵐTc は前回の核異性体転移のところで出てきましたね。励起状態が長く続くので「m」が付いているもので、⁹⁹Tc に戻るときにγ線を出します。まだ放射能を持っている状態のものを取り出して、診断用医薬品に使うわけです。
覚えるべき半減期
ここは量が多く見えますが、「どれくらいの長さか」という軸で並べると一気に整理できます。

| 半減期 | 核種 | 分類 | 押さえどころ |
|---|---|---|---|
| 約13億年 | ⁴⁰K | 天然放射性核種 | 自然界に広く存在する。地球史レベルの長さ |
| 約30年 | ¹³⁷Cs | 長期残留核種 | 原発事故で問題になった環境汚染核種 |
| 約29年 | ⁹⁰Sr | 長期残留核種 | ¹³⁷Cs と並ぶ。セシウムとペアで覚える |
| 約60日 | ¹²⁵I | 中期残留核種 | 約2か月残留するので医薬品には使いにくい |
| 約50日 | ⁸⁹Sr | 中期残留核種 | ¹²⁵I とペアで覚える |
| 約8日 | ¹³¹I | 治療用 | 甲状腺治療で非常に重要 |
| 約13.2時間 | ¹²³I | 診断用(SPECT) | 半日程度で診断に適している |
| 約6時間 | ⁹⁹ᵐTc | 診断用(SPECT) | 最も汎用性の高い診断核種 |
| 約1.8時間 | ¹⁸F | 診断用(PET) | PETの代表核種 |
表の下半分(約8日以下)が診断・治療に使われるゾーンです。この境目を意識すると、覚え方が変わります。
覚え方のポイント
¹³⁷Cs は30年 ─ ゴロで一発です。
「一切(137)なくなる セシウム30年」
そして ⁹⁰Sr は約29年。ほぼ同じ年数なので、セシウムとストロンチウムはペアで覚え、数字は「30年の3倍で90」と関連づけておきます。どちらもチェルノブイリや福島の原発事故で問題になった核種です。
¹²³I は約13.2時間 ─ これもゴロというより数字遊びです。
123 → 13.2 の数字並び替え
¹³¹I は約8日 ─ 治療に最適な「1週間程度」の長さです。前回の「ヒクソンのスリッパにおって結構くさいかな」で、¹³¹I はβ⁻線を出す核種でしたね。β⁻線は粒子なので局所への作用が強く、治療向き。だから ¹³¹I は治療用、と結びつけて覚えます。
一方 ¹²³I はγ線で、体を透過して外から測れるので診断用。「131は治療、123は診断」を、質量数の大小(中性子が多い = β⁻を出す)から導けるようにしておくと、本番で迷いません。
¹⁸F は約1.8時間 ─ これも数字が一致しています。ただし2時間弱ということは、流通に乗せられないということでもあります。だからPET検査は、施設内にサイクロトロン設備を持っているところでしか実施できません。この事情までセットで押さえておきましょう。
有効半減期
ここまでの半減期は、すべて物理学的半減期の話でした。
しかし実際には、体内に投与するわけですから、代謝や排泄によっても減っていきます。これが生物学的半減期です。この2つを合わせたものが有効半減期です。

式は2つの形で書けますが、逆数で足す左側の形で覚えるのがおすすめです。
1/T有効 = 1/T物理 + 1/T生物
これを変形すると、右側の
T有効 = (T物理 × T生物) / (T物理 + T生物)
になります。左の形さえ覚えておけば、その場で導けます。
半価層
最後にもう1つ。これだけは「時間」の話ではないので注意してください。

放射線が物質を通り抜けると、どんどん減衰していきます。強度がちょうど半分になるときの物質の厚さが半価層です。
D₁/₂ = ln2 / μ (μ:線吸収係数)
「また新しい式か」と思うかもしれませんが、薬剤でやった半減期の式とまったく同じ形です。

t₁/₂ が D₁/₂ に、消失速度定数 k が線吸収係数 μ に置き換わっただけ。覚える式が増えたのではなく、知っている式の使い回しだと捉えてください。
単位 ─ ベクレル・グレイ・シーベルト
ここは本当に混乱しやすいところなので、1枚のイメージ図で覚えてしまいましょう。

雨が降っていて、白い服を着て、なぜかシートベルトをしている人を思い浮かべてください。
| 単位 | 意味 | イメージ |
|---|---|---|
| Bq(ベクレル) | 放射能(1秒あたりの壊変数) | 降っている雨の量(降水量) |
| Gy(グレイ) | 吸収線量(どれだけ浴びたか) | 服がどれだけ濡れたか(白い服は濡れるとグレイになる) |
| Sv(シーベルト) | 生体への影響を考慮した線量 | 本人にとってどれくらいきついか(シートベルトの締め付け具合は人によって体感が違う) |
グレイからシーベルトへ
同じ量を浴びても、放射線の種類によって影響の大きさが違います。同じ雨でも、酸性雨を浴びるのと、きれいな森林で浴びるのとでは違いますよね。そこで、
等価線量(Sv) = 吸収線量(Gy) × 放射線加重係数
α線は影響が大きいので、係数が20倍といった具合に設定されています。
さらに、同じ量を浴びても臓器によって感じ方が違うということまで考慮したものが実効線量です。
Bq → Gy → Sv(等価線量 → 実効線量) と、だんだん「その人にとっての実害」に近づいていく、という順番で捉えておくと整理しやすくなります。
測定 ─ 原理は2つだけ
測定の原理は電離作用と蛍光作用の2つです。
電離作用を使うもの ─ GM計数管
原子核のまわりの電子に放射線が当たって、電子が弾き飛ばされる現象が電離です。これを利用したのがGM計数管で、主に高エネルギーのβ線を測ります。
ゴロで覚えましょう。
「高BGMは便利!」
| ゴロ | 対応 |
|---|---|
| 高B | 高エネルギーβ線 |
| GM | GM計数管 |
| 便利! | 電離作用を利用 |
蛍光作用を使うもの ─ シンチレーションカウンタ
ある物質に放射線を当てると、わずかに光ります。この発光がシンチレーションです。その光を検出するのがシンチレーションカウンタで、2種類あります。
| 装置 | 測定対象 |
|---|---|
| 液体シンチレーションカウンタ | 低エネルギーのβ線 |
| NaI(Tl)シンチレーションカウンタ | γ線 |
NaI(Tl) のほうは、ヨウ化ナトリウムの結晶が放射線を受けて光り、括弧の中のタリウム(Tl)は、その発光を強めるための添加物です。
この3つは、「β線は高エネか低エネか」「γ線か」で機械が決まります。GM計数管だけがβ線(高エネ)で電離作用、残り2つが蛍光作用——と押さえておけば十分です。
まとめ
- 放射能 = 1秒間に何個の原子が壊変するか。古い順ではなく、確率 × 原子の数で決まる
- 永続平衡(t₁/₂A ≫ t₁/₂B)は、A と B の放射能が等しくなる
- 過渡平衡(t₁/₂A > t₁/₂B)は、A と B の放射能の比が一定になる
- ミルキングは短半減期の娘核種を取り出す操作。装置がジェネレーター。代表例は ⁹⁹Mo-⁹⁹ᵐTc
- 半減期は「長さの軸」で整理。⁴⁰K(約13億年)→ ¹³⁷Cs(約30年)・⁹⁰Sr(約29年)→ ¹²⁵I(約60日)・⁸⁹Sr(約50日)→ ¹³¹I(約8日)→ ¹²³I(約13.2時間)→ ⁹⁹ᵐTc(約6時間)→ ¹⁸F(約1.8時間)
- ゴロは「一切(137)なくなる セシウム30年」、123 → 13.2 の並び替え
- ¹³¹I は治療用(β⁻線)、¹²³I は診断用(γ線)。質量数の大小から導ける
- ¹⁸F は約1.8時間なので流通に乗らず、サイクロトロン設備を持つ施設でしか使えない
- 1/T有効 = 1/T物理 + 1/T生物
- 半価層 D₁/₂ = ln2 / μ。薬物代謝の半減期の式と同じ形
- Bq = 降水量、Gy = 濡れた量、Sv = 体感。Gy × 放射線加重係数 = 等価線量、臓器差まで考えたものが実効線量
- 測定はGM計数管(高エネβ線・電離作用)、液体シンチレーションカウンタ(低エネβ線)、NaI(Tl)シンチレーションカウンタ(γ線)。ゴロは「高BGMは便利!」
放射線の出方と、その減り方・測り方までそろいました。次は被曝と生体影響:確定的影響・確率的影響とLETで、実際に浴びると体に何が起こるのかを見ていきます。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。