食中毒・食品汚染

感染侵入型食中毒|カンピロバクター・サルモネラと低温増殖菌【薬剤師国家試験】

食中毒・細菌性のマインドマップ
食中毒・細菌性のマインドマップ

感染型食中毒は、菌が体に入ったあとに悪さをするタイプです。

感染型のイメージ
感染型のイメージ

その中でも感染侵入型は、毒素ではなく菌そのものが腸の組織に侵入するもの。菌が腸まで届いて、増えて、組織に入り込むまで待つ必要があるので、潜伏期間がいちばん長くなります。

主役はカンピロバクターです。細菌性食中毒では事件数No.1で、国試でも繰り返し出ています。ここにサルモネラ属菌、そして冷蔵庫の中でも増える2菌(エルシニア・リステリア)を足した4つを押さえます。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

カンピロバクター:細菌性のNo.1

項目 内容
学名 Campylobacter jejuni / coli
性質 グラム陰性桿菌で微好気性。らせん菌(S字状)で鞭毛を持って運動する
所在 動物の腸管内に多い
原因食品 鶏肉、食肉の刺身・たたき・レバーの生食など
潜伏期間 長い:2〜7日
症状 下痢、腹痛、発熱、頭痛
合併症 ギラン・バレー症候群
治療 マクロライド系
予防 加熱調理。冷凍しても完全には死なない

潜伏期間が長いことの意味

2〜7日という潜伏期間は、食中毒としてはかなり長い部類です。焼き鳥を食べて、1週間近く経ってから腹痛が出る。すると患者本人も「何が原因だったか」を思い出せません。

潜伏期間が長い = 原因食品を特定しにくい。

ITMZにも「何が原因かわかりにくい」と書かれています。予防の指導がしにくい菌だ、という意味で押さえてください。なお、カンピロバクターが細菌性食中毒で事件数1位を占め続けているのは、鶏肉の汚染率がそもそも高いことが主因です。

ギラン・バレー症候群

カンピロバクターで最も特徴的なのが、この合併症です。

  • 感染1〜3週間後に起こる多発性神経炎
  • 手足の筋力が急激に低下する

菌体表面の構造がヒトの神経の糖鎖と似ているため、免疫が神経を攻撃してしまう——という機序です(分子擬態)。食中毒なのに神経症状が後から出るという意外性が、そのまま国試の出題ポイントになっています。

治療にマクロライド系を使うところまでセットで覚えてください。

予防の落とし穴

冷凍しても完全には死にません。これが他の菌と違うところです。寄生虫(アニサキス・クドア)は冷凍で死ぬのに、カンピロバクターは冷凍では確実に殺せない。予防は加熱調理が答えになります。

「鶏肉の内部は汚染されていないので表面を軽くあぶれば大丈夫」という考えも誤りです。中心部まで加熱する必要があります。

サルモネラ属菌

項目 内容
性質 グラム陰性の通性嫌気性菌。鞭毛で動く
原因 動物の糞尿で汚れた食肉、鶏卵
予防 加熱

サルモネラの目印は鶏卵です。カンピロバクターが「鶏肉」なら、サルモネラは「鶏卵」。同じ鶏でも部位が違うという覚え方が効きます。

カンピロバクターが微好気性なのに対し、サルモネラは通性嫌気性。グラム陰性で鞭毛を持つのは共通です。

低温でも増殖する2菌

4℃以下の冷蔵庫でも増殖するという、予防上やっかいな菌が2つあります。

菌 特徴
エルシニア・エンテロコリチカ 下痢、腹痛、発熱
リステリア(・モノサイトゲネス) 小児・妊婦・高齢者がかかりやすい。乳製品、生ハムなど

「冷蔵庫に入れたから安心」が通じない2菌がエルシニアとリステリア。

リステリアは妊婦で特に問題になります。妊娠中はナチュラルチーズ・生ハム・スモークサーモンなどを避けるよう指導されますが、その根拠がこれです。薬局での妊婦への声かけにも直結する知識なので、誰がかかりやすいかまで押さえておいてください。

4菌の比較

カンピロバクター サルモネラ属菌 エルシニア リステリア
グラム染色 陰性桿菌 陰性 陰性 —
酸素要求性 微好気性 通性嫌気性 — —
原因食品 鶏肉・生レバー 鶏卵・食肉 — 乳製品・生ハム
低温増殖 しない しない する(4℃以下) する(4℃以下)
特記事項 ギラン・バレー症候群/マクロライド系/細菌性No.1 — — 小児・妊婦・高齢者

国試ではこう問われる

① 感染型はどれか

第104回・問17(必須)「感染型食中毒の原因となる細菌はどれか」→ Campylobacter jejuni。選択肢にはStaphylococcus aureus(毒素型)、Clostridium botulinum(毒素型)、Aspergillus flavus(カビ)、Kudoa septempunctata(寄生虫)が並んでいました。

② カンピロバクターの総合問題

第101回・問230-231(実践)は、この菌のほぼ全項目を1問に詰め込んだ出題でした。

少年スポーツクラブの懇親会のバーベキューで、大人3名・子供10名が鶏肉を焼いて食べた。その3日後に、子供4名が発熱および下痢を伴う腹痛を発症した。——原因はカンピロバクターと同定された。

鶏肉 + 3日後という時間差が、そのまま診断の手がかりになっています。

問230(実務)では、指導として「下痢が続いても、下痢止めは使用しない」「鶏肉を取扱った手を洗ってから、他の食品を取扱う」が正解。誤りは「表面を軽くあぶってから食べさせる」「生食する際には一度冷凍して死滅させる」——カンピロバクターは冷凍では死なないからです。

③ 冷凍では防げない

第111回・問233(実践)でも「カンピロバクター食中毒は、生肉などの喫食で発生することがあるが、食品を冷凍(−20℃、48時間)することで防ぐことができる」が誤りの記述として出ています。同じ問題の中で「アニサキスは冷凍で防げる」が正しい記述になっており、寄生虫は冷凍でOK、カンピロバクターは冷凍ではダメという対比がそのまま問われています。

④ サルモネラの症例

第104回・問231(衛生)では、洋生菓子の原材料である液卵(卵黄)と患者の下痢便から共通の細菌が分離され、細菌性毒素は検出されなかったという条件から、原因菌をサルモネラ属菌と答えさせる問題が出ました。「毒素が検出されない」=感染型という読み方と、液卵→サルモネラという連想の2段構えです。

第107回・問340(実践)では「サルモネラ菌による食中毒を予防するため、十分に加熱調理しましょう」が適切な助言として出題されています。

⑤ 低温増殖

第109回・問131「エルシニア・エンテロコリチカは、4℃の低温条件下では発育できない」は誤り。低温でも発育するのがエルシニアの特徴だからです。この1行のためだけに選択肢が作られています。

⑥ 統計の中での位置

第105回・問126では、2005年と2018年の食中毒統計からカンピロバクターを当てさせる問題が出ています。件数が多く、1件あたりの患者数が少ないのがカンピロバクターの統計上の顔です。

⑦ ギラン・バレー症候群そのもの

第107回・問185「ギラン・バレー症候群に関する記述のうち、正しいのはどれか」では、「上気道感染症や消化器感染症の後に発症することが多い」「下肢から上行する左右対称性の弛緩性運動麻痺がみられる」が正解でした。「消化器感染症の後」という一言の背後にカンピロバクターがいます。主に障害されるのは末梢神経であり、「中枢神経の軸索や髄鞘」は誤りです。

まとめ

  • 感染侵入型は、菌そのものが腸の組織に侵入する。毒素の産生を待たないぶん潜伏期間が最も長い
  • カンピロバクター——グラム陰性桿菌・微好気性・らせん菌(S字状)・鞭毛あり。鶏肉と生レバー。潜伏2〜7日と長く、原因が特定しにくいため事件数が多い
  • カンピロバクターの合併症はギラン・バレー症候群(感染1〜3週間後の多発性神経炎、手足の筋力低下)。治療はマクロライド系
  • カンピロバクターは冷凍しても完全には死なない。予防は加熱調理
  • サルモネラ属菌——グラム陰性の通性嫌気性菌、鞭毛で動く。鶏卵と動物の糞尿で汚れた食肉。予防は加熱
  • カンピロバクター=鶏肉、サルモネラ=鶏卵で住み分ける
  • 4℃以下でも増殖するのはエルシニア・エンテロコリチカとリステリア。リステリアは小児・妊婦・高齢者がかかりやすく、乳製品・生ハムが原因食品

次は生体内毒素型食中毒|腸炎ビブリオ・ウェルシュ菌・セレウス菌下痢型を読んでみてください。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

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