食中毒・食品汚染

生体内毒素型食中毒|腸炎ビブリオ・ウェルシュ菌・セレウス菌下痢型【薬剤師国家試験】

食中毒・細菌性のマインドマップ
食中毒・細菌性のマインドマップ

生体内毒素型は、毒素型と感染侵入型の合いの子です。

細菌を食品とともに摂取 → 腸管で増殖 → 腸管内で外毒素を産生。食べた時点ではまだ毒素がないので毒素型より遅く、しかし主役はあくまで毒素なので、菌が組織に侵入するのを待つ感染侵入型ほどは遅くない。潜伏期間が中間に来るのはそのためです。

ここで扱うのは腸炎ビブリオ・ウェルシュ菌・セレウス菌(下痢型)の3つ。同じ枠に入る腸管出血性大腸菌O157は情報量が多いので、次の記事で独立して扱います。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

腸炎ビブリオ:好塩菌

塩ブリ

腸炎ビブリオは塩が好き——という、そのままの語呂です。なぜわざわざ語呂にするかというと、好塩菌であることが、性質・原因食品・予防法のすべての出発点になるからです。

項目 内容
性質 好塩菌。海水の塩分濃度+水温15℃以上で急速に増殖
原因食品 海産物、汚染された調理器具
毒素 耐熱性溶血毒
予防 低温保存、真水で洗浄、加熱調理

海水の塩分濃度で増えるので、夏場の海釣りが危険になります。水温15℃以上という条件から、夏に多い食中毒という性格が出てきます。ノロウイルスが冬なのに対し、腸炎ビブリオは夏。この季節の対比は必須問題レベルです。

予防の3つも、すべて「好塩菌である」ことから導けます。

  • 低温保存——水温15℃以上で増えるから
  • 真水で洗う——塩分がないと増えられないから
  • 加熱調理——菌自体は熱に弱いから

「汚染された調理器具」という経路も見落とせません。腸炎ビブリオがついたまな板でキュウリを切って塩もみすると、それだけで食中毒になりえます。塩もみという、まさに好塩菌に好都合な条件が揃ってしまうからです。

神奈川現象

神奈川現象
神奈川現象

腸炎ビブリオが産生する耐熱性溶血毒を確かめる現象です。血液寒天培地で培養すると、菌のまわりの赤血球が破壊されて、その部分だけ白く抜ける(溶血環)。

日本で発見された現象なので「神奈川現象」という名前がついています。神奈川現象が陽性 = 耐熱性溶血毒を産生する = 病原性がある、という関係で覚えてください。

ウェルシュ菌:大鍋の底の嫌気状態

項目 内容
学名 Clostridium perfringens
性質 グラム陽性桿菌、耐熱芽胞を形成(防御力が非常に強い)、嫌気性菌
原因食品 学校給食の大鍋の底——シチュー、カレーなど
毒素 エンテロトキシン(腸管毒)
潜伏期間 10時間くらい
症状 下痢、腹痛

ウェルシュ菌の食中毒は、なぜ大鍋のカレーなのかという筋書きを理解すれば丸ごと覚えられます。

  1. 動物のウェルシュ菌保有率が高いので、肉から鍋に入る
  2. 加熱してもウェルシュ菌の耐熱芽胞は死なない
  3. 大鍋の底は酸素がない。ウェルシュ菌は嫌気性菌なので、そこで生き延びる
  4. 冷却中にさらに増殖する
ウェルシュ菌の毒素産生
ウェルシュ菌の毒素産生

そして摂取後、腸管内で芽胞を形成する際にエンテロトキシンを産生し、下痢・腹痛を起こします。潜伏期間は約10時間。

「一晩寝かせたカレーはおいしい」の裏側にいるのがウェルシュ菌。

「作り置きして冷ましている間に増える」という、家庭でも給食でも起こる条件が揃っているため、1件あたりの患者数が非常に多い食中毒になります。発生件数の記事で見たとおり、件数は少ないのに患者数は上位という統計上の顔は、ここから来ています。

ガス壊疽(参考)

ウェルシュ菌は土の中にもいます。けがをしたときに創傷から菌が入ると、α毒素により皮下でガスが発生し、筋肉が壊死する——これがガス壊疽です。

国試の食中毒としてのメインはあくまでエンテロトキシンによる下痢のほうですが、頭の片隅に置いておいてください。

セレウス菌(下痢型)

セレウス菌は毒素も出すし、菌自体が体の中に入って悪さもするという、両方にまたがる菌です。

嘔吐型 下痢型
分類 毒素型(食品内毒素) 生体内毒素型
毒素 セレウリド(耐熱性) エンテロトキシン
産生場所 食品中 腸内
発症までの時間 約1時間 約10時間

同じ菌なのに、毒素が違えば分類も潜伏期間も変わる。セレウス菌はその見本です。性質は共通で、グラム陽性桿菌・耐熱芽胞を形成します。

嘔吐型は毒素型の記事で詳しく扱いました。

3菌の比較

腸炎ビブリオ ウェルシュ菌 セレウス菌(下痢型)
グラム染色 陰性 陽性桿菌 陽性桿菌
芽胞 なし あり(耐熱) あり(耐熱)
酸素 — 嫌気性 —
毒素 耐熱性溶血毒 エンテロトキシン エンテロトキシン
原因食品 海産物 大鍋のカレー・シチュー —
潜伏期間 — 約10時間 約10時間
キーワード 好塩菌/神奈川現象/夏 大鍋の底/冷却中に増殖/患者数が多い 嘔吐型と下痢型の2つ

国試ではこう問われる

① ウェルシュ菌の必須問題

第108回・問20(必須)「耐熱性芽胞を形成する偏性嫌気性細菌で、大型の深鍋で調理したカレーやシチューによる食中毒の原因となるのはどれか」→ ウェルシュ菌。この記事で見た筋書きが、そのまま問題文になっています。選択肢は黄色ブドウ球菌・カンピロバクター・サルモネラ属菌・腸炎ビブリオでした。

② ウェルシュ菌の総合問題

第101回・問125「ウェルシュ菌及びウェルシュ菌による食中毒に関する記述のうち、正しいのはどれか」では、

  • 「給食や学生食堂において、食肉を調理したカレーやシチューなどの食品が原因となることが多い」→ 正しい
  • 「最近(2011年以降)の食中毒1件あたりの平均患者数は、カンピロバクターによる食中毒に比べて多い」→ 正しい
  • 「ウェルシュ菌は、Clostridium botulinumという学名の偏性嫌気性菌である」→ 誤り(ウェルシュ菌はClostridium perfringens。botulinumはボツリヌス菌)
  • 「潜伏期間は3日〜1週間と長く」→ 誤り(約10時間)

1件あたりの患者数が多いという統計上の特徴が、正文としてそのまま出ています。

③ 再加熱では防げない

第111回・問233(実践)「ウェルシュ菌食中毒は、カレーなどの喫食で発生することがあるが、調理後室温で長時間放置しても再び加温(45℃、5分間)することで防ぐことができる」は誤り。45℃という温度がそもそも低すぎるうえ、耐熱芽胞は加熱で死にません。

④ 毒素型か感染型かの振り分け

第98回・問17(必須)では、毒素型を選ばせる問題の選択肢にClostridium perfringens(ウェルシュ菌)とVibrio parahaemolyticus(腸炎ビブリオ)が並んでいました。どちらも生体内毒素型なので不正解です。学名で出る点に注意してください。

⑤ 統計の中での位置

第105回・問126では、2005年と2018年の食中毒統計からウェルシュ菌と腸炎ビブリオを当てさせる問題が出ています。腸炎ビブリオは2005年から2018年にかけて激減した一方、ウェルシュ菌は1件あたりの患者数が突出して大きい——この2つの特徴が判別の鍵でした。

⑥ 症例問題での注意

第97回・問228(衛生)では、症例から原因を選ばせる問題の選択肢に腸炎ビブリオが並んでいます。海産物+夏という組み合わせが出たら腸炎ビブリオを疑う、というのが基本です。

ただし「カキが出てきたら食中毒」と反射的に決めないでください。第99回・問236(衛生)は、その反射を狙った問題でした。

10月のある夕方。友人からもらった初物のカキを、昼に自宅の居間で、生ガキと、炭火で焼きながら焼ガキを食べた。全員が頭痛、嘔吐およびめまいを起こしたが、別室に移って休んだところ、少し落ち着いた。

正解は一酸化炭素で、腸炎ビブリオ・ノロウイルス・腸管出血性大腸菌は誤りの選択肢です。決め手は3つ。①食べた人「全員」が同時に発症している(食中毒にしては潜伏期間がなさすぎる)、②症状が頭痛・めまいで、下痢がない、③別室に移ったら軽快した。室内で炭火を使った=不完全燃焼によるCO中毒です。続く問237(実務)の正解も「調理中は部屋の換気を十分に行う」と「医療機関への受診を勧める」でした。

カキ+症状が出た、で飛びつかない。潜伏期間・症状の種類・場所を移して治ったかを必ず見る。

まとめ

  • 生体内毒素型は、腸管で増殖して腸管内で外毒素を産生する。毒素型と感染侵入型の合いの子で、潜伏期間も中間
  • 腸炎ビブリオ——語呂は「塩ブリ」。好塩菌で、海水の塩分濃度+水温15℃以上で急速に増殖。海産物と汚染された調理器具。夏に多い
  • 腸炎ビブリオの予防は低温保存・真水で洗浄・加熱調理。いずれも「好塩菌だから」で説明できる
  • 神奈川現象——血液寒天培地で耐熱性溶血毒により溶血環ができる。日本で発見された
  • ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)——グラム陽性桿菌・耐熱芽胞・嫌気性。大鍋の底のカレーやシチュー。冷却中にさらに増殖する
  • ウェルシュ菌は腸管内でエンテロトキシンを産生し、約10時間で下痢・腹痛。1件あたりの患者数が多い
  • セレウス菌は嘔吐型(毒素型・セレウリド・約1時間)と下痢型(生体内毒素型・エンテロトキシン・約10時間)の2つを持つ

次は腸管出血性大腸菌O157|ベロ毒素とHUS、下痢性大腸菌4分類の違いを読んでみてください。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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