食中毒・食品汚染

腸管出血性大腸菌O157|ベロ毒素とHUS、下痢性大腸菌4分類の違い【薬剤師国家試験】

下痢性大腸菌のマインドマップ
下痢性大腸菌のマインドマップ

下痢性大腸菌にはいくつも種類がありますが、国家試験で出るのは基本的に腸管出血性大腸菌(O157)だけです。

これが一番大切
これが一番大切

残りの3種類は「こういうのがあるよ」と眺めておけば十分。時間をかける場所を間違えないのが、この単元のいちばんのコツです。

腸管出血性大腸菌は生体内毒素型に分類されます。腸管でベロ毒素を産生するからです。ただし、この菌だけは感染症法の三類感染症でもあり、HUS(溶血性尿毒症症候群)という重篤な合併症を持つため、食中毒の枠を超えて何度も出題されています。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

腸管出血性大腸菌(EHEC / O157)の全体像

項目 内容
略称 EHEC(enterohemorrhagic E. coli)
血清型 O157:H7
原因食品 牛肉(ユッケ、レバ刺し)など
潜伏期間 4〜8日
特徴 感染力が強い → ヒト・ヒトの二次感染が起きやすい
予防 加熱調理:75℃で1分の加熱で死滅
毒素 ベロ毒素(赤痢菌の志賀毒素とほぼ同じ)
症状 激しい腹痛 → 水様下痢 → 血便、HUS(溶血性尿毒症症候群)

感染力が強い=少ない菌数で発症する

腸管出血性大腸菌の最大の特徴は感染力の強さです。サルモネラなどが発症に多量の菌を要するのに対し、O157はごく少数でも発症します。胃酸に対して抵抗性を示すため、胃を通過して腸まで届いてしまうからです。

その結果、ヒトからヒトへの二次感染が起こります。食中毒でありながら感染症としての性格を併せ持つ——これが、感染症法で三類感染症に指定され、消毒等の対物措置の対象になっている理由です。

ベロ毒素の作用

  • 腸管で産生される
  • 腸管上皮を破壊する → 出血 → 血便・鮮血排出
  • 腎上皮や血管内皮に侵入し、タンパク合成を阻害する

「ベロ毒素 ≒ 赤痢菌の志賀毒素」という関係も押さえてください。実質的に同じものなので、志賀毒素産生性大腸菌(STEC)とも呼ばれます。

ベロ毒素の本体はタンパク合成阻害。それが腸で起これば血便、腎臓と血管で起これば HUS。

HUS(溶血性尿毒症症候群)

ベロ毒素が血管内皮細胞を破壊することで起こります。

  • 溶血性貧血
  • 血小板の減少
  • 急性腎不全

この3徴がHUSです。小児と高齢者で起こりやすく、生命にかかわります。血便が出ている子に下痢止めを使ってはいけないのは、毒素の排出を止めてしまいHUSのリスクを上げるためです。

下痢性大腸菌の4分類(参考)

講師が「国家試験で出るのはO157だけ」と明言している範囲です。語呂も作られていますが、過去問で問われた形跡がないため、この記事では語呂は載せません。分類の名前と症状の対応だけ眺めておいてください。

分類 略称 症状
腸管出血性大腸菌 EHEC 血便、HUS(前述)
腸管毒素原性大腸菌 ETEC(Toxigenic) コレラ様下痢。とぎ汁様の下痢便。小腸に感染する急性腸炎
腸管侵入性大腸菌 EIEC(Invasive) 赤痢症状。上皮細胞の壊死・脱落、潰瘍形成、炎症→出血
腸管病原性大腸菌 EPEC(Pathogenic) 小腸に感染して下痢。サルモネラ様症状の急性胃腸炎

略称の真ん中の1文字が、そのまま性質を表しています。T = Toxigenic(毒素原性)、I = Invasive(侵入性)、P = Pathogenic(病原性)、H = Hemorrhagic(出血性)。名前から症状が引き出せるので、無理に覚えなくても対応はつきます。

腸管侵入性大腸菌(EIEC)の侵入
腸管侵入性大腸菌(EIEC)の侵入

EIECは大腸粘膜上皮細胞に侵入し、細胞から細胞へと直接移動していきます。上皮が壊死・脱落して潰瘍になるため、赤痢のような症状になります。

腸管病原性大腸菌(EPEC)の付着
腸管病原性大腸菌(EPEC)の付着

EPECは束状線毛で腸管上皮にとりつき、Ⅲ型分泌装置でTirというエフェクターを送り込みます。送り込まれたTirが細菌側のインチミンと結合して、上皮が盛り上がった台座様構造をつくる——というのがEPECの付着機構です。ここは国試の範囲を超えていますが、図が示しているのはこの流れです。

国試ではこう問われる

① ベロ毒素の作用機序

第102回・問120「腸管出血性大腸菌が産生するベロ毒素は、宿主細胞のタンパク質合成を阻害する」→ 正しい記述として出題されています。同じ問題で「グラム陰性菌の内毒素(エンドトキシン)は、外膜に存在するリポ多糖である」も正しい記述でした。

第109回・問131「腸管出血性大腸菌は、酸に抵抗性を示し、腸管でベロ毒素を産生する」→ 正しい。酸に抵抗性という点が明示されています。

第110回・問119では「ベロ毒素は、百日咳菌から産生され、咽頭粘膜と結合して偽膜を形成する」が誤りとして出ました。偽膜形成はジフテリアです。

② HUS

第111回・問65(必須)「腸管出血性大腸菌感染症の重篤化と関連性が高いのはどれか」→ 溶血性尿毒症症候群。トキシックショック症候群・過敏性腸症候群・抗リン脂質抗体症候群・悪性症候群が誤りの選択肢でした。必須問題で1行で聞かれるので、確実に取りたいところです。

第106回・問232-233(実践)は症例問題でした。

5歳男児。4日前から下痢が続き、腹痛を伴う血便。顔色が悪く排尿がない。7日前に家族で焼肉を食べに行き、両親・兄も軽い下痢。主治医はHUSと診断した。

焼肉 + 血便 + 無尿 + 家族内発症という並びがそのままO157を指しています。問233(衛生)では、正しい記述として

  • 75℃、1分間以上の加熱で死滅する
  • 牛の肝臓には、この病因物質が存在する可能性があるため、生食用として販売・提供することは食品衛生法で禁止されている

が出題されました。牛レバ刺しの提供禁止は制度としても問われます。一方「ヒトからヒトへの感染は起こらない」は誤り(二次感染する)、「2015〜2019年における病因物質別食中毒発生件数で最も多い」も誤りです。

第97回・問291(病態・薬物治療)では、生の牛肉を摂取した患者について「溶血性尿毒症症候群や脳症を併発することがある」「消化管運動を抑制する薬剤は用いない」が正しい記述として出ています。誤りは「血液から分離した菌のベロ毒素の産生について検査し診断する」——便から分離するのが正しい検査です。

③ 感染症法上の扱い

第98回・問124「腸管出血性大腸菌に関する記述のうち、正しいのはどれか」では、

  • 「感染後産生されるベロ毒素が、重篤な中毒症状を起こす」→ 正しい
  • 「腸管出血性大腸菌感染症は、新興感染症の1つである」→ 正しい
  • 「近年(2005〜2010年)の発生件数が最も多い食中毒である」→ 誤り
  • 「二次感染を起こさない」→ 誤り
  • 「感染症法において二類感染症に分類される」→ 誤り(三類感染症)

第105回・問19(必須)「感染症法により、病原体に汚染された場所に消毒等の対物措置が必要とされる感染症はどれか」→ 腸管出血性大腸菌感染症。

第108回・問86(必須)では「主な感染経路が飛沫感染である疾患はどれか」の誤りの選択肢として腸管出血性大腸菌感染症が置かれていました。経口感染です。

④ 冷凍では死なない

第107回・問340(実践)「腸管出血性大腸菌O157は、食品を一度冷凍・自然解凍することで死滅させることができます」は誤りの助言でした。予防は加熱(75℃1分)です。

⑤ 統計との関連

第101回・問19(必須)では、患者数最多の病因物質を問う問題の誤りの選択肢として「腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生)」が置かれています。O157は重篤だが件数・患者数は多くない——重篤さと頻度は別物だと理解しておいてください。

まとめ

  • 下痢性大腸菌4分類のうち、国試で出るのは腸管出血性大腸菌(EHEC / O157)だけ
  • 血清型はO157:H7、原因食品は牛肉(ユッケ・レバ刺し)、潜伏期間は4〜8日
  • 酸に抵抗性で感染力が強く、ヒト・ヒトの二次感染が起きる
  • 予防は75℃で1分の加熱。冷凍では死なない
  • ベロ毒素 ≒ 赤痢菌の志賀毒素。腸管で産生され、腸管上皮を破壊し(血便)、腎上皮や血管内皮に侵入してタンパク合成を阻害する
  • HUS(溶血性尿毒症症候群)は、ベロ毒素による血管内皮細胞の破壊で起こる。溶血性貧血・血小板減少・急性腎不全の3徴
  • 血便が出ているときに下痢止め(消化管運動抑制薬)は使わない
  • 感染症法では三類感染症。消毒等の対物措置の対象。新興感染症でもある
  • 牛の肝臓の生食用としての販売・提供は食品衛生法で禁止
  • 残り3分類はETEC(コレラ様・とぎ汁様下痢)/EIEC(赤痢症状)/EPEC(サルモネラ様症状)。略称の真ん中の文字で対応がつく

次は動物性自然毒|フグ・シガテラ毒と貝毒4種の覚え方を読んでみてください。ここから自然毒に入ります。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

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