食中毒・食品汚染

毒素型食中毒の覚え方|黄色ブドウ球菌・ボツリヌス菌・セレウス菌【薬剤師国家試験】

食中毒・細菌性のマインドマップ
食中毒・細菌性のマインドマップ

細菌性食中毒の3分類のうち、いちばん単純なのが毒素型です。

毒素型のイメージ
毒素型のイメージ

食品の中で菌が増殖して、外毒素を出してしまう。私たちが口にするときには、すでに毒素ができあがっている——だから潜伏期間が短い。ここが毒素型のすべての出発点です。

そしてもう1つ、毒素型で必ず問われるのが「菌を殺しても意味があるとは限らない」という点です。毒素が耐熱性なら、加熱して菌を全滅させても毒素は残ります。菌が熱に強いのか、毒素が熱に強いのか——この区別が、黄色ブドウ球菌とボツリヌス菌の違いそのものです。

該当するのは黄色ブドウ球菌・ボツリヌス菌・セレウス菌(嘔吐型)の3つ。セレウス菌は毒素型と生体内毒素型の両方に顔を出す厄介なやつなので、この記事では嘔吐型だけを扱い、下痢型は生体内毒素型の記事に回します。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

黄色ブドウ球菌:毒素が耐熱性

黄色ブドウ球菌はグラム陽性の球菌(芽胞なし)で、ヒトの化膿巣(化膿した傷)にたくさんいます。だから手に傷がある人は調理してはいけない。「手が切れている調理者」という導線がそのまま原因食品(素手で握ったおにぎり・サンドイッチ)につながり、食べてから3時間ほどで激しい嘔吐が起こります。

そして最大の特徴が毒素の耐熱性。産生されるエンテロトキシンは熱に強く、100℃で30分加熱しても毒性を失いません。菌そのものは加熱で死にますが、毒素は残る。

黄色ブドウ球菌の食中毒が起きた食品は、加熱し直しても助からない。廃棄するしかない。

「加熱すれば大丈夫」という素朴な直感が通用しない、最初の例です。潜伏期間が3時間と非常に短いのも、毒素がもう食品にできていたことの裏返しです。

ボツリヌス菌:菌(芽胞)が耐熱性、毒素は易熱性

黄色ブドウ球菌とちょうど逆なのがボツリヌス菌です。

項目 内容
性質 グラム陽性桿菌、嫌気性菌で耐熱芽胞を形成
原因食品 真空パック食品
毒素 神経毒:ボツリヌストキシン。毒素は熱に弱い
症状 言語障害、嚥下困難、呼吸麻痺
治療 抗毒素療法

真空パック食品が原因になる理由は、2つの性質が重なるからです。

  1. 加熱して殺菌したつもりでも、耐熱芽胞は死んでいない
  2. 真空パックの中は嫌気状態で、嫌気性菌であるボツリヌス菌にとっては好都合

その結果、嫌気下で芽胞が発芽 → 食品中で毒素を産生 → 食中毒という流れになります。

一方で毒素そのものは熱に弱いので、食べる前に加熱すれば毒素は壊れて助かります。黄色ブドウ球菌と逆です。

黄色ブドウ球菌は「毒素が耐熱」、ボツリヌス菌は「芽胞が耐熱・毒素は易熱」。逆向きのペアで覚える。

症状が神経症状なのは、ボツリヌストキシンが神経終末からのアセチルコリン遊離を阻害するからです。薬理で習うA型ボツリヌス毒素製剤(眼瞼痙攣などに使う)と、まったく同じ作用です。言語障害・嚥下困難・呼吸麻痺という症状の並びは、ここから素直に出てきます。

乳児ボツリヌス症

ボツリヌス菌でもう1つ落とせないのが乳児ボツリヌス症です。

  • はちみつに芽胞が含まれることがある
  • 乳児は腸内細菌叢が未熟なため、腸内で菌が増殖して毒素を産生してしまう
  • 筋力低下・便秘症などを起こす

大人なら腸内細菌に阻まれて定着しないものが、乳児では定着してしまう。だから1歳未満にはちみつを与えてはいけない、という指導につながります。

治療は抗毒素療法です。ITMZの言い方を借りれば、ボツリヌス症は発症数は少ないが致死率が高い——めったに起こらないが、起これば重い、というタイプの食中毒です。

セレウス菌(嘔吐型):毒素はセレウリド

セレウス菌は、毒素型と生体内毒素型の両方に登場します。ここでは嘔吐型だけを扱います。

項目 嘔吐型
性質 グラム陽性桿菌、耐熱芽胞を形成
毒素 耐熱性の嘔吐毒「セレウリド」を食品中で産生
発症 早い。1時間くらい

食品内毒素型なので、発症が1時間と3つの中でも最速です。一方、下痢型は腸内でエンテロトキシンを産生するため10時間くらいかかります。同じ菌なのに、毒素が違えば分類も潜伏期間も変わる——セレウス菌はその見本です。

セレウリドは耐熱性なので、チャーハンや焼きそばを室温放置したあとに再加熱しても防げません。ここは国試で直接問われています(後述)。

3菌の比較

黄色ブドウ球菌 ボツリヌス菌 セレウス菌(嘔吐型)
グラム染色 陽性球菌 陽性桿菌 陽性桿菌
芽胞 なし あり(耐熱) あり(耐熱)
酸素 — 嫌気性 —
毒素の耐熱性 耐熱 易熱 耐熱
潜伏期間 約3時間 — 約1時間
原因食品 素手のおにぎり・サンドイッチ 真空パック食品 チャーハンなど
症状 激しい嘔吐 言語障害・嚥下困難・呼吸麻痺 嘔吐

芽胞をつくらないのは黄色ブドウ球菌だけ、毒素が熱に弱いのはボツリヌス菌だけ。この2つの「1つだけ違う」を軸にすると、表が立体的になります。

国試ではこう問われる

① 毒素型はどれか

第98回・問17(必須)「毒素型食中毒を引き起こす菌はどれか」の答えはStaphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)。選択肢にはClostridium perfringens(ウェルシュ菌)、Salmonella enterica、Vibrio parahaemolyticus(腸炎ビブリオ)、Campylobacter jejuniが並んでいました。学名で出されるので、主要菌はラテン名でも判別できるようにしておいてください。

② 毒素の耐熱性

第109回・問131「食中毒の原因となる微生物に関する記述のうち、正しいのはどれか」では、

  • 「黄色ブドウ球菌が産生する毒素は、100℃で30分間加熱しても毒性を失わない」→ 正しい
  • 「セレウス菌の嘔吐型食中毒の原因となる毒素は、100℃で30分間の加熱で毒性を失う」→ 誤り(セレウリドは耐熱性)
  • 「ボツリヌス菌は、低酸素状態ではボツリヌス毒素を産生しない」→ 誤り(嫌気性菌なので、むしろ低酸素で産生する)

と、3つとも毒素型が絡んでいます。耐熱性の話がそのまま選択肢になる、という典型です。

第111回・問233(実践)では「嘔吐型セレウス菌食中毒は、チャーハンなどの喫食で発生することがあるが、調理後室温で長時間放置しても再び加熱(85℃、5分間)することで防ぐことができる」が誤りの記述として出ました。セレウリドは耐熱性なので、再加熱では防げないのが理由です。

③ ボツリヌス菌の症例問題

第99回・問125は症例形式でした。

73歳と70歳の姉妹。早朝、脱力感、複視、眼瞼下垂などの症状が現れ、さらに呼吸困難を訴えたため救急搬送された。真空パック食品の食べ残しから毒素が検出され、抗毒素血清による治療で容態は改善した。

答えはボツリヌス菌で、予防については「毒素は易熱性であるので食品を食べる前に十分に加熱する」が入ります。真空パック+神経症状+抗毒素血清——この3点セットが出たらボツリヌス菌です。

④ 乳児ボツリヌス症

第103回・問124「蜂蜜にはボツリヌス菌の芽胞が含まれることがあるため、腸内細菌叢が未熟な乳児が蜂蜜を摂取すると、ボツリヌス症を発症し、呼吸困難や呼吸停止に陥ることがある」が正しい記述として出題されています。「腸内細菌叢が未熟」という理由づけまで含めて正文になっているのがポイントです。

⑤ ボツリヌス毒素の作用機序(薬理との接続)

第106回・問28(必須)「運動神経終末からのアセチルコリンの遊離を非可逆的に阻害して骨格筋弛緩作用を示すのはどれか」→ A型ボツリヌス毒素。 第98回・問154でも「A型ボツリヌス毒素は、運動神経終末からのアセチルコリン遊離を抑制する」が正しい記述として出ています。 第111回・問117では「ボツリヌス菌は、ボツリヌス毒素を産生し、強直性痙れんを引き起こす」が誤り(強直性痙攣は破傷風。ボツリヌスは弛緩性麻痺)。破傷風とボツリヌスの向きの取り違えを狙った選択肢です。

⑥ 毒素の作用の取り違え

第102回・問120では「コレラ毒素は、宿主の神経筋接合部でのアセチルコリンの遊離を抑制し、筋肉の麻痺を引き起こす」「ボツリヌス毒素は、宿主細胞内でアデニル酸シクラーゼを活性化し、cAMP濃度の上昇をもたらす」がいずれも誤り——コレラ毒素とボツリヌス毒素の説明が入れ替えられていました。「ボツリヌス=神経、コレラ=cAMP上昇で水様下痢」と向きを固定しておけば防げます。

まとめ

  • 毒素型は、食品中で菌が増殖して外毒素を産生する。だから潜伏期間が短い
  • 黄色ブドウ球菌——グラム陽性球菌(無芽胞)、化膿巣、素手のおにぎり・サンドイッチ、潜伏3時間、激しい嘔吐。エンテロトキシンは耐熱性(100℃30分でも失活しない)で、加熱しても毒素は残る
  • ボツリヌス菌——グラム陽性桿菌、嫌気性で耐熱芽胞を形成。真空パック食品。毒素(ボツリヌストキシン)は易熱性なので食べる前の加熱が有効
  • ボツリヌス毒素はアセチルコリン遊離を阻害し、言語障害・嚥下困難・呼吸麻痺を起こす。弛緩性麻痺であり、破傷風の強直性痙攣とは逆
  • 乳児ボツリヌス症ははちみつが原因。乳児は腸内細菌叢が未熟なので腸内で菌が増え毒素を産生する
  • セレウス菌(嘔吐型)——耐熱性の嘔吐毒セレウリドを食品中で産生。発症は約1時間と最速で、再加熱では防げない
  • 芽胞をつくらないのは黄色ブドウ球菌だけ、毒素が熱に弱いのはボツリヌス菌だけ

次は感染侵入型食中毒|カンピロバクター・サルモネラと低温増殖菌を読んでみてください。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

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