
植物性自然毒は数が多いので、作用の方向で3つに束ねると整理できます。
- 神経に効くもの——チョウセンアサガオ(抗コリン)、ジャガイモ(コリンエステラーゼ阻害)、トリカブト(Naチャネル活性化)
- 青酸配糖体——青梅・あんず。腸内細菌のβ-グルコシダーゼでシアンが遊離する
- 発がん性を示すもの——ソテツ、ワラビ。こちらも腸内細菌のβ-グルコシダーゼが関わる
特に2と3は、「腸内細菌のβ-グルコシダーゼで配糖体が切れて、活性本体が出てくる」という同じ型を共有しています。ここを1つの型として理解すると、アミグダリンとサイカシンが一気につながります。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
神経に効くもの①:チョウセンアサガオ(副交感神経抑制)

すごい ひよこの 挑戦、朝まで トロトロ 走る
| 語呂 | 内容 |
|---|---|
| すごい | スコポラミン |
| ひよこの | ヒヨスチアミン |
| 挑戦朝 | チョウセンアサガオ |
| トロトロ | アトロピン |
| 走る | ハシリドコロ |
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 植物 | チョウセンアサガオ、ハシリドコロ、ベラドンナ |
| 毒成分 | アトロピン、スコポラミン、ヒヨスチアミン |
| 構造 | アルカロイド(すべてNあり) |
| 症状 | ふらつき、意識混濁、抗コリン作用(散瞳・口渇) |
抗コリン薬そのものなので、症状は薬理で習う抗コリン作用の副作用と完全に一致します。散瞳・口渇・便秘・尿閉・頻脈・せん妄——薬として使えば治療、誤食すれば中毒、というだけの話です。
誤食の典型は、チョウセンアサガオの根をゴボウと間違える、葉をモロヘイヤやアシタバと間違えるといったパターンです。
神経に効くもの②:ジャガイモ(ソラニン・チャコニン)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 植物 | ジャガイモの芽、緑皮部 |
| 毒成分 | ソラニン・チャコニン |
| 性質 | 水溶性・耐熱性 |
| 機序 | コリンエステラーゼ阻害 → ACh↑ → 嘔吐、下痢、腹痛 |
チョウセンアサガオが抗コリンだったのに対し、ジャガイモはコリンエステラーゼ阻害でACh増加——つまり逆向きです。同じ「神経に効く植物毒」でも向きが反対なので、混ぜないように注意してください。
そして耐熱性であることが重要です。加熱しても壊れないので、「茹でれば大丈夫」は通用しません。芽と緑色の皮を物理的に取り除くのが唯一の対策です。
ソラニンとソラニジンの関係

ソラニンは配糖体です。糖(糖-糖-糖の3つ)がついた全体をソラニンと呼び、糖を外した非糖部分(アグリコン)を「ソラニジン」と呼びます。
「〜ニン」が配糖体、「〜ジン」がアグリコンという命名は、このあと出てくる化合物でも顔を出します。
神経に効くもの③:トリカブト(アコニチン)

かぶと かぶった アッコに 殺される
| 語呂 | 内容 |
|---|---|
| かぶと | トリカブト |
| アッコに | アコニチン |
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 植物 | トリカブト |
| 毒成分 | アコニチン |
| 機序 | Naチャネルに結合 → 活性化 → 不整脈・麻痺 |
機序に注意してください。テトロドトキシンはNaチャネルを遮断しましたが、アコニチンはNaチャネルを活性化(開きっぱなしにする)します。方向が逆です。
Naチャネルが開きっぱなしになると、細胞が脱分極したまま戻れなくなり、不整脈と麻痺が起こります。
トリカブトは新芽をニリンソウやモミジガサと間違える誤食が典型例です。なお、トリカブトの塊根は生薬附子(ブシ)であり、高圧蒸気処理などの修治(加工調製)でアコニチンのエステルが加水分解され、毒性が低減します。
青酸配糖体:アミグダリン・ファゼオルナチン

亜美は ファザコン
| 語呂 | 内容 |
|---|---|
| 亜美 | アミグダリン |
| ファザコン | ファゼオルナチン |
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 植物 | 青梅・あんずなど |
| 毒成分 | アミグダリン・ファゼオルナチン |
機序

アミグダリン → (腸内細菌のβ-グルコシダーゼ) → CN⁻(シアン化物イオン)が遊離 → シトクロムオキシダーゼを阻害 → 細胞内呼吸が止まる → 低酸素状態で死亡
ここで押さえるべきは阻害される酵素の名前です。シトクロムオキシダーゼ(呼吸鎖複合体Ⅳ)は、電子伝達系の最終段階で酸素に電子を渡す酵素。これが止まると、酸素があっても細胞が酸素を使えなくなる。
シアン中毒は「窒息」ではなく「細胞が酸素を使えなくなる」中毒。
この区別が、次の誤答選択肢を見抜く鍵になります。シアンはメトヘモグロビン血症を起こしません。むしろ逆で、シアン中毒の治療では、あえて亜硝酸薬でメトヘモグロビンを作ってシアンを捕まえる——メトヘモグロビンの三価鉄がシアンと結合するからです。治療法と中毒症状を混同させる選択肢が実際に出ています。
発がん性を示すもの①:サイカシン(ソテツ)

さしすせ ソテツ、発がん性
| 語呂 | 内容 |
|---|---|
| さ | サイカシン |
| ソテツ | ソテツ |
| 発がん性 | CH₃⁺(メチルカチオン) |

サイカシン → (腸内細菌のβ-グルコシダーゼ) → メチルカチオン(CH₃⁺) → 発がん性
アミグダリンとまったく同じ型です。配糖体が腸内細菌のβ-グルコシダーゼで切られて、活性本体が出てくる。違うのは出てくるものがCN⁻か、CH₃⁺かだけ。
メチルカチオンはDNAをメチル化するアルキル化剤として働くので、二次発がん物質(間接発がん物質)に分類されます。体内で代謝されてはじめて発がん性を持つタイプです。
発がん性を示すもの②:プタキロシド(ワラビ)

笑う 豚
| 語呂 | 内容 |
|---|---|
| 笑う | ワラビ |
| 豚 | プタキロシド |
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 植物 | ワラビ |
| 毒成分 | プタキロシド |
| 性質 | 水溶性 → アク抜きで除去できる |
| 機序 | 代謝活性化不要 → そのまま発がん性 |
サイカシンとの違いがここです。サイカシンは代謝活性化が必要な二次発がん物質なのに対し、プタキロシドは代謝活性化が不要な一次発がん物質(直接発がん物質)です。
同じ「発がん性の植物毒」でも、サイカシンは二次、プタキロシドは一次。
そして水溶性でアク抜きで除去できるという、実用的な対策があるのもプタキロシドの特徴です。ワラビを食べる文化が続いているのはこのためです。
コルヒチン(イヌサフラン)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 植物 | イヌサフランの球根 |
| 毒成分 | コルヒチン(痛風薬の成分) |
| 症状 | 重症だと呼吸不全による死亡 |
痛風治療薬として使われるコルヒチンが、そのまま食中毒の原因にもなります。イヌサフランの球根をジャガイモやタマネギと、葉をギョウジャニンニクと間違える誤食が報告されています。
なぜ呼吸不全に至るのかという機序については、講師も「調べたがよく分からなかった」と述べています。本記事でも断定は避けます。ただし、コルヒチンの添付文書にも中毒症状として呼吸不全の記載があり、イヌサフラン誤食 → 呼吸不全による死亡という事実関係は国試でそのまま問われています。
【補足】スイセンのリコリン
ITMZ・講義には出てきませんが、第111回で出題されたので加えておきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 植物 | スイセン |
| 毒成分 | リコリン |
スイセンの葉をニラと、球根をタマネギと間違える誤食が多く、毒キノコと並んで発生件数が多い植物性自然毒です。スイセン=リコリンの1対1だけ覚えておけば足ります。
全体の比較表
| 植物 | 毒成分 | 機序・特徴 |
|---|---|---|
| チョウセンアサガオ・ハシリドコロ・ベラドンナ | アトロピン、スコポラミン、ヒヨスチアミン | 抗コリン作用(散瞳・口渇・意識混濁)。アルカロイド |
| ジャガイモ(芽・緑皮部) | ソラニン・チャコニン | コリンエステラーゼ阻害→ACh↑。水溶性・耐熱性 |
| トリカブト | アコニチン | Naチャネル活性化→不整脈・麻痺 |
| 青梅・あんず | アミグダリン・ファゼオルナチン | β-グルコシダーゼ→CN⁻→シトクロムオキシダーゼ阻害 |
| ソテツ | サイカシン | β-グルコシダーゼ→メチルカチオン→二次発がん |
| ワラビ | プタキロシド | 代謝活性化不要=一次発がん。水溶性でアク抜き可 |
| イヌサフラン | コルヒチン | 重症で呼吸不全による死亡 |
| スイセン | リコリン | ニラ・タマネギとの誤食 |
国試ではこう問われる
① 自然毒の総合問題
第104回・問120「自然毒による食中毒に関する記述のうち、正しいのはどれか」では、
- 「ジャガイモに含まれるソラニンは、コリンエステラーゼ阻害作用を示す」→ 正しい
- 「青梅の種子中のアミグダリンから発生する青酸は、メトヘモグロビン血症を引き起こす」→ 誤り。シトクロムオキシダーゼ阻害が正しい
が出題されました。メトヘモグロビン血症はシアン中毒の「治療で作るもの」であって「症状」ではない——ここが引っかけどころです。
② 動物由来か植物由来か
第105回・問18(必須)「食中毒を引き起こす自然毒のうち、植物に由来するのはどれか」→ チャコニン。 第107回・問17(必須)「自然毒のうち、魚介類による食中毒の原因となるのはどれか」→ テトロドトキシン(誤りの選択肢がアコニチン・ソラニン・アミグダリン・チャコニン)。
必須問題で両方向から繰り返し出ています。
③ ソラニン・チャコニンは耐熱性
第103回・問124「ジャガイモの芽や皮の部分に多く含まれるソラニンやチャコニンは熱に不安定なため、加熱処理によりこれらによる食中毒を防ぐことができる」→ 誤り。耐熱性なので加熱では防げません。「加熱で防げる/防げない」の振り分けは、自然毒全般で狙われます。
④ コルヒチン
第103回・問124「イヌサフランの球根にはコルヒチンが含まれるため、誤食すると呼吸不全等を起こし死に至ることがある」→ 正しい記述。機序は問われず、事実関係のまま出題されています。
⑤ チョウセンアサガオの症例
第102回・問123は症例問題でした。
50歳代の夫婦が、家庭菜園で栽培したナスを入れたスパゲティーを食べたところ、ふらつき、ろれつがまわらない、意識混濁などの症状を呈した。摂取したナスは、チョウセンアサガオに接木して栽培したものだった。
答えはスコポラミンとヒヨスチアミンの2つ。接木したナスに台木の成分が移行するという実際の事例がもとになっています。症状(ふらつき・意識混濁)がこの記事の記述とそのまま一致します。
⑥ スイセン
第111回・問21(必須)「スイセンによる食中毒の原因物質はどれか」→ リコリン。アコニチン・アミグダリン・コルヒチン・チャコニンが誤りの選択肢でした。この記事の植物性自然毒がほぼ全部、選択肢として並んでいる形です。
⑦ 組合せ問題
第100回・問233(衛生)では「ワラビ / プタキロシド」「トリカブト / アコニチン」が選択肢として登場。 第108回・問131では「ソラニン / チョウセンアサガオ / 記憶喪失」が誤り(ソラニンはジャガイモ、記憶喪失はドウモイ酸)、「リコリン / ワラビ / 神経麻痺」も誤り(リコリンはスイセン、ワラビはプタキロシド)として出ています。植物と成分のすり替えが定番です。
⑧ 発がん物質としてのサイカシン
第98回・問123「サイカシンは、体内でβ-グルコシダーゼによって代謝されたのちメチルカチオンを生じる」→ 正しい記述。 第108回・問129「サイカシンは、β-グルクロニダーゼにより加水分解されて発がん作用を示す」→ 誤り(β-グルコシダーゼ)。酵素名を1文字変えるという細かいすり替えです。 (第106回・問135では「サイカシンは、ベンジルアルコール型代謝物のエステルに活性化される」が誤りの選択肢として出ています。サイカシンの活性本体はメチルカチオンです。)
第100回・問20(必須)「強力な発がんプロモーターとして知られている化学物質はどれか」→ オカダ酸。サイカシンとプタキロシドは誤りの選択肢で、これらはイニシエーター側です。
⑨ アコニチンと生薬
第110回・問109では「高圧蒸気処理などの修治によってアコニチンのエステルが加水分解されて、毒性が低減する」が正しい記述として出題されました。附子(ブシ)の話です。「生薬Aはナス科植物の根を基原とする」は誤り(トリカブトはキンポウゲ科)。
まとめ
- チョウセンアサガオ・ハシリドコロ・ベラドンナ——「すごいひよこの挑戦、朝までトロトロ走る」。アトロピン・スコポラミン・ヒヨスチアミン。抗コリン作用(散瞳・口渇・意識混濁)
- ジャガイモの芽と緑皮部——ソラニン・チャコニン。コリンエステラーゼ阻害でACh↑。水溶性だが耐熱性なので加熱では防げない。ソラニンは配糖体、非糖部分がソラニジン
- トリカブト——「かぶとかぶったアッコに殺される」。アコニチンはNaチャネルを活性化(テトロドトキシンの遮断とは逆)
- 青梅・あんず——「亜美はファザコン」。アミグダリン・ファゼオルナチン。腸内細菌のβ-グルコシダーゼでCN⁻が遊離し、シトクロムオキシダーゼを阻害する。メトヘモグロビン血症ではない
- ソテツ——「さしすせソテツ、発がん性」。サイカシンがβ-グルコシダーゼでメチルカチオンを生じる二次発がん物質
- ワラビ——「笑う豚」。プタキロシドは代謝活性化不要の一次発がん物質。水溶性でアク抜きで除去できる
- イヌサフランの球根のコルヒチンは、誤食で呼吸不全による死亡に至ることがある
- スイセンはリコリン(第111回で出題)
次はカビ毒(マイコトキシン)の覚え方|4属の産生菌・毒性と残留基準値のある3成分を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。