前回までで「法律と倫理規範」が終わりました。ここからは法規の2つめの分野、薬学と社会に入ります。医療制度そのものを扱う、法規の本体とも言えるパートです。
範囲が広いので、最初に進む順番を確認しておきましょう。一番はじめに置いているのが、この記事で扱う法律の構成と一般法です。いきなり薬剤師法や薬機法に入りたくなるところですが、その前に法律全体の土台を作っておくと、後の暗記がかなり楽になります。
今回はその土台のうち、法令の構成(憲法から省令までの上下関係)と法的責任(刑事・民事・行政)を押さえます。一般法の中身は次の2記事で扱います。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
マインドマップで見る「法律の構成と一般法」

右上が法令の構成、右下が法的責任、左側が一般法(製造物責任法・個人情報の保護に関する法律)です。この記事では右半分を扱い、左半分は次の2記事に分けて整理していきます。
「薬学と社会」はこの順番で進む
「薬学と社会」全体の流れは、次のようになっています。
- 法律の構成と一般法(この記事から3本)…法律を学ぶ上での土台
- 身分法(薬剤師法・医師法)…薬剤師はどういう使命でどういう責任を持つのか
- 医療法…病院・診療所、医療提供体制はどうなっているのか
- 医薬品医療機器等法(薬機法)…薬がどうやって市場に出回ってくるのか。ボリューム最大
- 健康被害救済制度…薬で副作用・感染などの被害が出てしまったときの対策
- 管理薬・毒物劇物の規制…麻薬、向精神薬、覚醒剤、毒物及び劇物の取扱い
薬剤師国家試験の科目なので、薬剤師法や薬機法のような特別法をやる意味はすぐに分かると思います。では、なぜ最初に一般法をやるのか。一般法は、特別法のそもそもの前提になっている法律だからです。土台を先に作る、という位置づけで読み進めてください。
法令の構成 ─ 憲法を頂点とした上下関係
法令には上下関係があります。頂点に憲法があり、憲法で決めたことを細かく決めていくのが法律・政令・省令・条例、という下り方です。

| 法令の種類 | 制定・改廃 | 名前の付き方 |
|---|---|---|
| 憲法 | 国会が発議 → 国民投票 | ― |
| 法律 | 国会の議決 | 〜法 |
| 政令 | 内閣(閣議) | 〜令 |
| 省令 | 各省大臣 | 〜省令、〜規則 |
| 条例 | 地方自治体議会 | ― |
| 条約 | 国際的なもの(ワシントン条約など) | ― |
条約だけは国際的なもので少し毛色が違うので、別物だと思っておいてください。
この関係を、薬機法(医薬品医療機器等法)で具体的に見てみましょう。薬機法は「〜法」なので、国会の議決でできた法律です。ただし、法律で決められるのは大枠だけ。「実際の運用をどうするのか」という細かいところは、厚生労働省令や「〜施行規則」といった形で決めていきます。
この後の学習で「GCP省令」「GVP省令」のように省令が次々出てきますが、そのたびに「これは各省大臣が定めた、法律の中身を具体化するルールなんだな」と位置づけが分かっていると、頭の中で迷子になりません。
憲法13条 ─ 個人の尊重と公共の福祉
憲法の中で押さえておいてほしい条文が2つあります。1つめが13条です。
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
太字のところが穴埋めで問われることがあります。この13条が、次々回で扱う個人情報の保護に関する法律のもとになっています。
憲法25条 ─ 生存権
2つめが25条の生存権です。
1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
こちらは非常に有名な条文で、生活保護法もこの生存権をもとにできています。そして、薬機法や医療法など、法規で習う法律のかなりの部分がこの25条を基にしています。「なぜこの法律があるのか」を遡ると25条にたどり着く、という感覚を持っておくと、条文の暗記が意味のあるものに変わります。
一般法と特別法
ここで用語を整理しておきます。
| 内容 | 例 | |
|---|---|---|
| 一般法 | 広く一般的な事項を規定する法律 | 民法、刑法など。この単元では製造物責任法と個人情報の保護に関する法律 |
| 特別法 | 特定の人・事項を対象に規定する法律 | 薬剤師法、医師法(身分法)、医療法、薬機法など |
薬剤師国家試験で問われるのは圧倒的に特別法ですが、一般法はその前提にあたります。特に製造物責任法と個人情報保護法は、薬局実務にも国試にもそのまま出てくるので、次の2記事でしっかり扱います。
法的責任は3つ ─ 刑事・民事・行政
「法律と倫理規範」の記事で、倫理的責任と法的責任の対比が出てきました。復習しておくと、
- 倫理的責任…自律的なもの(自分で自分を律する)
- 法的責任…他律的なもの(国が強制力を持ってやらせる)
という違いでした。ここでは、その法的責任の中身を見ていきます。法的責任は刑事責任・民事責任・行政責任の3つです。
| 責任の取り方 | 誰が誰に | 例 | |
|---|---|---|---|
| 刑事責任 | 刑事罰(懲役、罰金など) | 国 → 加害者(国が加害者を起訴する) | 秘密漏洩罪、業務上過失致死傷罪 |
| 民事責任 | 主に金銭(損害賠償など) | 被害者 → 加害者(被害者が加害者に請求する) | 不法行為責任(時効あり) |
| 行政責任 | 行政処分 | 行政 → 加害者 | 薬剤師免許の取り消しなど |
ここで大事なのは、同じ1つの行為について、刑事・民事・行政のすべてで責任を問われることがあるという点です。どれか1つを選ぶ、という話ではありません。
薬剤師に引きつけて考えると、調剤過誤が分かりやすい例です。
- 患者さんに健康被害が出た → 業務上過失致死傷罪として起訴される(刑事責任)
- その健康被害について損害賠償を求められる(民事責任)
- 薬剤師免許の取り消しなどの行政処分を受ける(行政責任)
1つのミスが3方向から返ってくる、という構造です。国試でどれがどれか迷ったら、「刑事は罰、民事はお金、行政は免許」と大づかみに思い出すのが早いです。
まとめ
- 法令には上下関係があり、憲法 → 法律 → 政令 → 省令 → 条例の順。名前は法律が「〜法」、政令が「〜令」、省令が「〜省令・〜規則」
- 制定・改廃は、法律=国会の議決、政令=内閣(閣議)、省令=各省大臣。条約は国際的なもので別枠
- 憲法13条(個人の尊重と公共の福祉)は個人情報保護法のもと、25条(生存権)は薬機法・医療法など多くの法律のもと
- 一般法は広く一般的な事項を規定するもの、特別法は薬剤師法・医療法など特定の対象を規定するもの。一般法は特別法の前提にあたる
- 法的責任は刑事(刑事罰)・民事(損害賠償)・行政(行政処分)の3つ。1つの行為ですべてを問われることがある
土台の前半はここまでです。次は製造物責任法(PL法)のポイント(調剤は対象外・添付文書の欠陥・免責事由)に進みます。「調剤はPL法の対象になるのか」という、実務でも国試でも問われる論点から入っていきましょう。
法規を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、法規という科目のほんの一区画です。実際には、薬機法の総則から薬局・製造販売業・医薬品の取扱い、そして社会保障制度までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全26回・約5時間34分。「この省令は誰に向けた基準なのか」「さっき出てきた登場人物が、どこで再登場するのか」が、条文の羅列ではなく流れとして入ってきます。バラバラに覚えていた制度が、1本の線になる感覚です。
法規のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。