前回の記事で、法律の土台には倫理があるという話をしました。では、その倫理規範には実際にどんなものがあるのか。ここが「法律と倫理規範」の中身の一つめです。
扱うのは3つ。生命倫理の4大原則、医の倫理の変遷、そして薬剤師綱領と薬剤師行動規範です。特に医の倫理の変遷は、後で出てくる治験のルール(GCP省令)の源流になっているので、ここで一度きれいに並べておくと、後半の学習がずいぶん楽になります。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
マインドマップで見る「倫理規範」の位置

右下に伸びている「倫理規範」の枝が、今回の範囲です。生命倫理・医の倫理の変遷・日本薬剤師会の3本に分かれています。
生命倫理の4大原則
まずは4大原則。名前だけでなく「誰が誰に対して何をするか」までセットで覚えておきましょう。
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| 自律尊重の原則 | 医療者が患者の自律的な意思決定を尊重すること(患者の意思を尊重する) |
| 善行の原則 | 医療者が患者に利益をもたらす行為をすること(患者のためになることをする) |
| 無危害の原則 | 患者に危害を及ぼさないこと(まずは害を与えない) |
| 正義の原則 | 患者を平等・公平に扱うこと、医療資源を公平に分配すること |
この4つは、そのまま4択問題の選択肢になります。自律尊重・善行・無危害・正義の4語を、何も見ずに言えるようにしておいてください。
正義の原則が少しイメージしにくいかもしれませんが、災害時のトリアージを思い浮かべると分かりやすくなります。限られた医療資源を、誰にどう配分するのが公平かという判断ですから、これはまさに正義の原則の実践です。
医の倫理の変遷 — 5つを時系列で押さえる
医の倫理は、歴史の中で少しずつ改良されてきました。その流れがそのまま治験の規制につながっていくので、順番と「何がきっかけで生まれたか」をセットで覚えます。
ヒポクラテスの誓い
古代ギリシャで、ヒポクラテスが医師の倫理や任務を神に誓わせたもの。これが医の倫理の原点です。
ジュネーブ宣言
第二次世界大戦後の1948年に出されたもので、ヒポクラテスの誓いを現代版にアップデートしたものと考えてください。内容は医師の倫理です。
ニュルンベルク綱領
ナチスによる非道な人体実験に対して出されたものです。ここから、人体実験に対する規制という流れが始まります。
ヘルシンキ宣言
ニュルンベルク綱領を発展させたもので、人体実験の倫理規定にあたります。ここでインフォームドコンセントと倫理委員会(IRB)の審査規定が出てきます。
治験の記事で出てくるGCP省令は、このヘルシンキ宣言を踏まえて作られた基準です。「ヘルシンキ宣言 → インフォームドコンセント・IRB → GCP省令」というつながりを持っておくと、治験パートで迷わなくなります。
リスボン宣言
患者の権利宣言です。ここが最大の転換点になります。
国試の狙い目は「医師の倫理」から「患者の権利」への転換
5つを並べたとき、押さえてほしいのはこの一点です。
- ヒポクラテスの誓い・ジュネーブ宣言・ニュルンベルク綱領・ヘルシンキ宣言 … 医師が主語。医師はどうあるべきか、という話
- リスボン宣言 … 患者が主語。患者にはどんな権利があるか、という話
つまり、リスボン宣言で初めて「患者」というものが正面から入ってきます。選択肢のひっかけは、たいていこの主語の入れ替えで作られます。患者の権利といえばリスボン宣言、とセットで覚えておきましょう。
なお、こうした医の倫理が具体化されて、法令やガイドラインに反映されることがあります。倫理が先にあって、その最低限が法律になるという前回の話が、ここでも効いてきます。
薬剤師綱領と薬剤師行動規範は「日本薬剤師会」がつくった
倫理規範の3つめが、薬剤師綱領と薬剤師行動規範です。
- 薬剤師綱領 … 薬剤師としての基本的な心構えを定めたもの
- 薬剤師行動規範 … それを踏まえて、具体的にどう行動するかを定めたもの
この2つはセットで覚えてください。そして国試でよく問われるのは、中身よりも誰がつくったかです。
答えは日本薬剤師会です。選択肢には「国」「厚生労働大臣」「厚生労働省」といった、いかにもそれらしい主体が並びます。どれも誤りです。薬剤師綱領・薬剤師行動規範は日本薬剤師会がつくったもの、と覚えておきましょう。
まとめ
- 生命倫理の4大原則は自律尊重・善行・無危害・正義。正義の原則はトリアージをイメージすると分かりやすい
- 医の倫理の変遷はヒポクラテスの誓い → ジュネーブ宣言 → ニュルンベルク綱領 → ヘルシンキ宣言 → リスボン宣言
- ジュネーブ宣言はヒポクラテスの誓いの現代版、ニュルンベルク綱領はナチスの人体実験がきっかけ、ヘルシンキ宣言は人体実験の倫理規定でインフォームドコンセントとIRBの審査規定が登場する
- リスボン宣言だけが「患者の権利宣言」。ここで主語が医師から患者に変わる
- 薬剤師綱領・薬剤師行動規範をつくったのは日本薬剤師会(国・大臣・厚労省ではない)
次はインフォームドコンセントとハインリッヒの法則、医療現場の倫理実践ポイントを読んでみてください。
法規を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、法規という科目のほんの一区画です。実際には、薬機法の総則から薬局・製造販売業・医薬品の取扱い、そして社会保障制度までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全26回・約5時間34分。「この省令は誰に向けた基準なのか」「さっき出てきた登場人物が、どこで再登場するのか」が、条文の羅列ではなく流れとして入ってきます。バラバラに覚えていた制度が、1本の線になる感覚です。
法規のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。