
前回の試料前処理に続いて、今回は臨床現場で実際に使われている分析技術です。この単元で扱うのは代表的なセンサーとドライケミストリー、そして画像診断技術。画像診断は分量が多いので次の記事に回し、今回はセンサーとドライケミストリーを扱います。
センサーは世の中に無数にありますが、過去に出題されたことがある3つに絞ります。pHメーター・グルコース酸化酵素を用いた電極法・パルスオキシメーターです。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
① pHメーター
結論から言うと、押さえるのは2点だけです。
- 指示電極にガラス電極を使う
- ネルンストの式で電位差を pH に換算する
この2つが言えれば国家試験では十分です。とはいえ、仕組みを知っておくと忘れにくくなるので説明しておきます。
pHメーターの仕組みは電池と同じです。電池は2つの電極があって、その電位差を取り出す装置でしたね。
pHメーターでは、指示電極の先端にガラス膜が付いています。膜の内側の H⁺ 濃度は一定に保たれているので、外側(測定したい溶液)の H⁺ 濃度が変われば、膜の内外に濃度差ができ、それが膜電位になります。
一方、参照電極のほうは電位が決まっています。ですから、参照電極を基準にして指示電極との電位差を測れば、外側の溶液の H⁺ 濃度がわかる。その電位差をネルンストの式で pH に換算しているのが pHメーターです。
② グルコース酸化酵素を用いた電極法
血糖測定の方法はいくつかありますが、糖尿病の患者さんが日常的に自分で測る場面では、簡便で装置が小さいという制約があります。そのなかで現在もっとも使われているのがこの方法なので、国家試験でもここが出ます。
反応
触媒としてグルコース酸化酵素(グルコースオキシダーゼ)を用いると、
グルコース + 酸素 → グルコン酸 + 過酸化水素
という反応が起こります。
ここで生じた過酸化水素が白金電極で酸化されることによって電流が変化します。その電流の変化を読み取って、グルコース濃度を算出する——これがこの方法の原理です。
なぜ普及しているのか
実際の自己血糖測定では、指先に針を刺してにじみ出た 0.5〜1 µL 程度の血液しか使いません。それで測れてしまう。
さらに、見ているのが電流変化なので、比色法のように発色を待つ時間がほぼ不要です。すぐ結果が出るという使いやすさが、この方法が選ばれている理由です。
③ パルスオキシメーター
指にクリップを挟むだけで酸素飽和度がわかる装置です。
この単元でわざわざ取り上げる理由は、ランベルト・ベールの法則と吸光度の話がそのまま使われているからです。分光分析法とつなげやすい、おいしいテーマですね。

鍵になるのは吸光係数の逆転

縦軸が吸光係数、横軸が波長のグラフです。酸素と結合したヘモグロビン(HbO₂)と結合していないヘモグロビン(Hb)の吸光係数が、可視部と赤外部で逆転しているのがわかります。
ここで使うのが2つの光です。
- 赤色光(665 nm 付近)
- 赤外光(880 nm 付近)
指先で何が起きているか

指を挟み、片側から赤色光と赤外光を当てて、反対側のセンサーで受光量を測ります。
HbO₂ が多い場合:グラフを見ると、赤色光の波長では HbO₂ の吸光係数は低い。あまり吸収されないので、センサーに届く赤色光は多くなります。
Hb が多い場合:赤色光の波長では、Hb のほうが HbO₂ より吸光係数が高い。つまりよく吸収されるので、センサーに届く赤色光は少なくなります。
一方、赤外光のほうは Hb と HbO₂ で吸光係数の差が小さいので、酸素飽和度が変わってもあまり変化しません。つまり基準として使えるわけです。
この2つの受光量を比べることで、酸素飽和度が算出できる——これがパルスオキシメーターの原理です。「Hb は HbO₂ よりも赤色光をよく吸収する」という一文が、この装置の核心だと押さえておいてください。
ドライケミストリー
最後にドライケミストリーです。大きく3つに分類されます。
- 試験紙法
- 多層フィルム法
- イムノクロマト法
このうち出題実績があるのはイムノクロマト法の妊娠検査薬なので、ここをしっかり押さえます。
妊娠検査薬の仕組み

妊娠していると、尿の中に hCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)が含まれます。これを検出しているわけですね。
試験紙には、尿が流れていく順に3つのものが配置されています。
- 金コロイド標識抗体
- 抗hCG抗体(判定窓)
- 抗マウスIgG抗体(終了確認窓)
hCG がある(陽性)場合
尿を垂らすと毛細管現象で流れていき、まず金コロイド標識抗体のところに到達します。ここで hCG と金コロイド標識抗体が手をつなぐように結合し、複合体のまま流れていきます。
次に判定窓の抗hCG抗体まで来ると、この抗体が複合体を捕まえます。金コロイドが集まるので、判定窓に赤い線が出る——これが陽性の反応です。
さらに尿は流れ続け、余った金コロイド標識抗体が終了確認窓の抗マウスIgG抗体に捕まって、終了のラインが出ます。
hCG がない(陰性)場合
金コロイド標識抗体は hCG と結合しないまま流れていきます。判定窓の抗hCG抗体は hCG を捕まえるためのものなので、ここでは何も捕まりません。判定窓に線は出ません。
ただし金コロイド標識抗体自体はあるので、終了確認窓の抗マウスIgG抗体には捕まります。つまり終了確認のラインは、hCG があってもなくても出るわけですね。ここが2本の線の意味の違いです。
この方式は妊娠検査薬だけでなく、新型コロナウイルスやインフルエンザの検査キットにも使われています。身近なものとつなげておくと、原理が思い出しやすくなります。
まとめ
- pHメーター:指示電極はガラス電極。膜の内外のH⁺濃度差による電位差を、ネルンストの式でpHに換算する
- グルコース酸化酵素を用いた電極法:グルコース + 酸素 → グルコン酸 + 過酸化水素。生じた過酸化水素が白金電極で酸化され、電流の変化からグルコース濃度を算出する
- パルスオキシメーター:Hb は HbO₂ よりも赤色光をよく吸収する。赤色光と赤外光の受光量を比べて酸素飽和度を出す。根拠はランベルト・ベールの法則
- ドライケミストリーは試験紙法・多層フィルム法・イムノクロマト法。出るのはイムノクロマト法の妊娠検査薬
- 判定窓の線は hCG があるときだけ、終了確認窓の線は hCG の有無によらず出る
次は画像診断技術:X線CT・超音波・シンチグラフィー・MRIを読んでみてください。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
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公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
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