
前回に続いて、臨床現場で用いる分析技術の後半です。ここで扱うのは外から体の中をどう見るかという話。使っている物理現象で並べると、全体像はこうなります。
| 何を見ているか | 技術 |
|---|---|
| X線の通り方 | 汎用X線診断(レントゲン)・X線CT |
| 磁気的な応答 | MRI |
| 音の反射 | 超音波診断法 |
| 直接中を覗く | ファイバースコープ |
| 体内から出てくる放射線 | シンチグラフィー(SPECT・PET) |
この並びを先に頭に入れておくと、個別の話が迷子になりません。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
汎用X線診断(レントゲン)
なぜ白黒の像ができるのか

原理は、昔ながらのフィルムで撮る方法で考えるとわかりやすくなります。
被写体の向こう側にフィルムを置きます。フィルムには臭化銀(AgBr、乳白色)が塗ってあります。ここにX線を照射すると——
- X線が当たったところ:AgBr が銀(Ag)に還元される。金属銀なので、あとから光を当てると黒く写る
- X線が遮られて届かなかったところ:AgBr のまま残る。現像・定着の工程で洗い流されてなくなるので、白く写る
骨のようにX線を吸収する組織は、フィルムに影を作って白くなる。逆に何もないところはX線がそのまま届いて黒くなる、というわけですね。
組織による見え方の順番

出典:Wikimedia Commons / Chikumaya / CC BY-SA 3.0
密度が高いほどX線を遮るので白く見える——これが原則です。組織に当てはめると、白く見える順に
骨 > 筋肉 > 血液 > 脂肪 > 肺(空気)
となります。骨は真っ白、肺は空気だらけなので真っ黒。中間は「水分が多いほど密度が高い」と考えれば、脂肪より血液、血液より筋肉、と並べられます。
造影剤
コントラストをはっきりさせるために使うのが造影剤です。2種類あります。
| 種類 | 代表例 | 写り方 |
|---|---|---|
| 陽性造影剤 | 硫酸バリウム、ヨード造影剤 | X線を吸収するので白く写る |
| 陰性造影剤 | 炭酸ガス、空気、酸素 | 密度が小さいので黒く写る |
「バリウムを飲んできた」というあれが硫酸バリウムです。胃の内壁にバリウムが付くと、そこだけ真っ白に写るのでコントラストがつきます。
陰性造影剤は逆の使い方で、しぼんだ胃に空気などを入れて膨らませ、見やすくします。この2つを組み合わせて使うのが二重造影法です。
用途は、胃や腸の消化管検査と、血管造影などです。
X線CT
非侵襲的に、生体の内部構造を断層画像として映像化する装置です。
ふつうのレントゲンでは一方向からの投影像しか得られませんが、CTでは寝ている人のまわりをぐるりと回りながらいろいろな角度から撮影します。そのデータを計算処理することで、断面を見ることができるようになります。
使っているのはX線ですから、性質や原理は汎用X線診断とまったく同じです。レントゲンをしっかり押さえておけば、CTは「それを多方向から撮って断面にしたもの」で済みます。
MRI診断法
CTと同じく断面を見られる方法ですが、原理はまったく違います。

流れはこうです。
- 強い磁場の中に入ると、体内のプロトン(H⁺)がコマのように回転しながら一定方向に整列する
- そこにラジオ波(RF)パルスを当てると、プロトンが共鳴してエネルギーを受け取り、同じ方向を向く
- RFパルスを止めると、プロトンは元の状態に戻る(緩和)。このとき受け取ったエネルギーを放出する
- 放出されたエネルギーを受信コイルで捉えて画像化する
ここで効いてくるのが、プロトンが置かれている状況によって、元に戻るまでの時間(緩和時間)が違うという点です。組織ごとの緩和時間の差を画像にすることで、断面が見えるわけですね。
MRIの造影剤
Gd(ガドリニウム)製剤が使われます。これはプロトンの縦緩和時間を短縮する働きを持ちます。
たとえば腫瘍の部分には多く取り込まれ、そうでない部分には取り込まれにくい。すると取り込まれやすいところと、そうでないところでコントラストが生じ、病変が見やすくなります。
MRIは踏み込むと深い分野です。国家試験対策としては、プロトン・強い磁場・ラジオ波・緩和時間・Gd製剤というキーワードが結びついていれば十分。ここで時間を使いすぎないようにしてください。
超音波診断法
胎児の診察でおなじみの方法ですね。ほかに心臓や血管などの循環器系でもよく使われます。

出典:Wikimedia Commons / Drahreg01 / CC BY-SA 3.0
原理は「やまびこ」と同じ
山に向かって「ヤッホー」と叫ぶと、遅れて返ってきますよね。このとき、
- 返ってくるまでの時間差から、山までの距離がわかる(音速が約340 m/s とわかっていれば計算できる)
- 返ってきた音の強弱から、何に当たったのかの手がかりが得られる
魚群探知機も同じ理屈です。この現象を画像化したのが超音波診断法です。
押さえるべき用語
診断に使うのは、人の耳に聞こえる音波を超える超音波で、1〜20 MHz の範囲を使います。
「返ってくる」現象が反射です。どこで反射するかというと、異なる組織の境界面です。何もない均質なところでは反射しません。
つまり、
発信から受信までの時間差と反射波の強さから、組織の性状と距離を判定して画像化する
——これが超音波診断法の原理です。
もう1つ補足として、心臓や血管などの循環器系では、ドップラー効果を利用して血流の速度も測定できます。
ファイバースコープ
胃カメラや内視鏡検査で使われる、光の全反射を利用して消化管内を直接観察・手術する方法です。
押さえるべきは「全反射を利用している」という一点。これだけで国家試験は足ります。
仕組みを説明しておくと、細いチューブの中心に光が通るコアがあり、その周りをクラッドが覆っています。コアの屈折率を高く、周りのクラッドの屈折率を低くして密着させることで、光がコアの中で全反射を繰り返しながら進みます。
だからチューブが曲がっていても光が届く。胃の中を覗いたり、小さな穴からお腹の中を見たりできるのは、この性質のおかげです。
シンチグラフィー
放射線を出す物質を体内に入れて、体の中から出てくる放射線を測定する方法です。装置はSPECTとPETの2種類。
性能でいうと PET のほうが圧倒的に優秀で、SPECT は PET より簡易に行えるという特性があります。では、なぜこれほど分解能に差が出るのでしょうか。
SPECT
投与した放射性医薬品から放出された放射線を、そのまま検出する——という素直なやり方です。
PET ─ 消滅放射線を使う
PET が使うのは、ポジトロン(陽電子、β⁺線)を放出する核種です。
たとえば ¹¹C(炭素11)は、原子番号5のホウ素に変わるときに陽電子を放出します。この陽電子が β⁺線の本体です。
ここからが PET の巧みなところ。陽電子はプラスの電荷を持つので、近くの電子(マイナス)と出会うと結合して消滅します。このとき、余ったエネルギーが消滅放射線(γ線)として放出されるのですが、正反対の2方向に同時に飛び出すのが特徴です。
ですから、向かい合った2つの検出器が同時にγ線を捉えたら、その2点を結んだ線上に放射性医薬品があったとわかります。この同時計数によって、位置がピンポイントで特定できる——だから分解能が圧倒的に高いのです。
PETで使う核種
¹¹C や ¹⁸F が使われます。
特に有名なのが ¹⁸F-FDG(フルオロデオキシグルコース)です。名前のとおりグルコースによく似た形をしているので、グルコースの偽物として細胞に取り込まれます。
がん細胞はどんどん増殖するためにグルコースを大量に欲しがるので、FDG が集積しやすい。この集積性を見ることで、がんの位置がわかるというわけですね。
放射性医薬品の詳細は、次の章(放射性医薬品:診断用・治療用の核種を整理する)でまとめて扱います。ここでは「PET は消滅放射線の同時計数で位置を特定する」「FDG はグルコースの偽物」という2点を押さえておけば十分です。
まとめ
- レントゲンは、X線が当たったところで AgBr が Ag に還元されて黒くなる。骨は遮るので白い
- 白く見える順は 骨 > 筋肉 > 血液 > 脂肪 > 肺(空気)
- 陽性造影剤(硫酸バリウム・ヨード造影剤)は白く、陰性造影剤(炭酸ガス・空気)は黒く写る。併用が二重造影法
- X線CTは多方向から撮影して断層画像にしたもの。原理はレントゲンと同じ
- MRIは強い磁場でプロトンを整列させ、ラジオ波で共鳴させ、緩和時に放出されるエネルギーを画像化する。造影剤はGd製剤(縦緩和時間を短縮)
- 超音波診断法は1〜20 MHz。異なる組織の境界面での反射を利用し、時間差と反射波の強さから距離と性状を判定。ドップラー効果で血流速度も測れる
- ファイバースコープは全反射を利用。コアの屈折率が高く、クラッドの屈折率が低い
- シンチグラフィーはSPECTとPET。PETはβ⁺線由来の消滅放射線(正反対の2方向に出るγ線)を同時計数するため分解能が高い
- PETの核種は¹¹C・¹⁸F。¹⁸F-FDGはグルコースに似ていて、がん細胞に集積する
これで「化学物質の分析」の全体がひととおり終わりました。総まとめとして化学物質の分析まとめ:12記事で全体像をつかむを用意しているので、抜けがないか確認してみてください。
そして次は、物理の最後の分野放射線の基礎原理と核種:α壊変・β壊変・γ転移と放射線の性質です。この記事で触れた消滅放射線やPETの話が、あちらで根っこから説明されます。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。