
ダイオキシン類は、名前が長いだけで構造は単純です。PCDD、PCDF、コプラナーPCB――この3つを「覚える」のではなく、アルファベットを1文字ずつ日本語に開くと、構造そのものが読めるようになります。
そしてもう一つがTEF・TEQ・TDI。略号が3つ並ぶので身構えますが、やっていることは「いちばん強いやつに換算する」だけです。実際、過去に計算問題としてそのまま出題されています。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
対象は3物質

ダイオキシン類対策特別措置法が対象にしているのは、次の3系統です。
① PCDD ― ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン
- Poly = ポリ(たくさん)
- Chloro = 塩化(Clがたくさんついている)
- Dibenzo = ジベンゾ(ベンゼン環が2つ)
- Dioxin = ジオキシン(酸素が2つで環をつくっている)
ベンゼン環2つが、酸素2つを介してつながった骨格です。
② PCDF ― ポリ塩化ジベンゾフラン
- Poly + Chloro + Dibenzo + Furan
こちらはフラン環、つまり五員環に酸素1つでベンゼン環2つがつながっています。酸素の数が2個から1個に減ったのがPCDDとの違いです。
③ コプラナーPCB ― コプラナーポリ塩化ビフェニル
- Coplanar = コプラナー(同一平面上にある)
- Poly + Chloro + Biphenyl(2つのフェニル)
ビフェニルは、ベンゼン環2つが単結合で直接つながった構造です。単結合なので普通はくるくる回転しますが、2つの環が同じ平面に並んだものをコプラナーPCBと呼びます。この平面性が毒性の強さに関わります。
3つに共通する特徴
- ベンゼン環が2つ
- 脂溶性が高い
- 難分解性
だから体内に蓄積し、生物濃縮されます。
なぜ3つもまとめて「ダイオキシン類」なのか
もともとダイオキシンとは、ジオキシン構造を持つもの(PCDD)を指す言葉でした。
ところが、ジオキシン構造を持たないPCDFやコプラナーPCBも、毒性のあらわれ方がよく似ている。それなら一緒に規制したほうがよい、ということで法律上まとめて「ダイオキシン類」に含めたという経緯があります。
「ダイオキシン類の3つが全部ジオキシン構造を持っているわけではない」という点は、構造を問う問題で効いてきます。
最強のダイオキシン:2,3,7,8-TCDD
塩素がどこに何個つくかで異性体は膨大な数になりますが、そのなかで最も毒性が強いのが 2,3,7,8-TCDDです。
2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン。PCDDの骨格に、2位・3位・7位・8位の4か所に塩素がついたものです。左右対称の位置にきれいに4つ並んでいます。
このTCDDの毒性を「1」と定義して、ほかのダイオキシン類を相対評価する。 これが次のTEFです。
なお、「ダイオキシン類の毒性は、塩素の置換数が多いほど強い」というのは誤りです。最強の2,3,7,8-TCDDは塩素4個であり、塩素8個のものより強い。置換数ではなく置換位置が効く、という点が第100回で問われています。
TEF・TEQ・TDI
TEF(毒性等価係数)
Toxicity Equivalency Factor。
2,3,7,8-TCDD = 1 と定義したうえで、ほかのダイオキシン類がその何倍の毒性かを表す係数です。
たとえば 2,3,7,8-四塩化ジベンゾフラン(PCDF)のTEF = 0.1。これは「TCDDの0.1倍の毒性しかない」という意味です。
TEQ(毒性等量)
Toxicity EQuivalent。
あるダイオキシン類の量を、2,3,7,8-TCDDの量に換算した値です。
計算方法:濃度 × TEF を足し合わせるだけ。
たとえば、TEF = 0.1 のPCDFを 15 pg 摂取したとします。
15 pg × 0.1 = 1.5 pg-TEQ
「15 pg取ったけれど、TCDDに換算すれば1.5 pg分の毒性にあたる」ということです。
実際に出題された計算問題
第100回・問133では、3種類の異性体のTEFと濃度の表が与えられ、土壌試料の毒性等量を「濃度 × TEF の総和」で求めた値が正しいかを判断させる問題が出ました。やることは掛けて足すだけです。手順さえ知っていれば確実に取れます。
TDI(耐容一日摂取量)
Tolerable Daily Intake。
ダイオキシン類のTDI = 4.0 pg-TEQ/体重kg/日
この4.0という数字は覚えてください。単位も含めて出題されます。
ADIとTDIの使い分けが、ここでの最重要ポイントです。
| 意味 | 使う場面 | |
|---|---|---|
| ADI(一日摂取許容量) | 意図的に加えるものについて、これくらいなら許容できる量 | 食品添加物など |
| TDI(耐容一日摂取量) | 意図せず入ってしまうものについて、やむを得ず耐えられる量 | ダイオキシン類、環境汚染物質など |
「入れたくて入れたもの=ADI」「入れたくないのに入ってしまったもの=TDI」。ダイオキシンは誰も好きで摂っているわけではないのでTDIです。
どちらも動物実験の無毒性量(NOAEL)を安全係数(種差10 × 個体差10 = 100)で割って求める、という点は共通しています。
法規制:環境基準の設定

| 対象 | 環境基準 |
|---|---|
| 大気汚染 | 年平均値 0.6 pg-TEQ/m³ 以下 |
| 水質 | 年平均値 1 pg-TEQ/L 以下 |
| 水底の底質 | 150 pg-TEQ/g 以下 |
| 土壌汚染 | 1000 pg-TEQ/g 以下 |
数値そのものよりも、「何に対して環境基準が設定されているか」を覚えてください。
大気・水質・水底の底質・土壌の4つです。
第110回では「ダイオキシン類対策特別措置法では、大気、水質、土壌及び農作物を対象に環境基準が定められている」という誤り選択肢が出ています。農作物は入りません。 水底の底質(川や海の底に溜まった泥)が入っているのは、ダイオキシンが脂溶性・難分解性で底質に蓄積しやすいからです。
ダイオキシンの発生源
発生源の中心は、ごみ(廃棄物)の焼却です。塩素を含むごみを燃やすことで生成します。環境省の排出量の目録では、1997年当時は排出の約9割が廃棄物の焼却(なかでも一般廃棄物の焼却が約6割)でした。対策が進み、2024年の排出量は約94〜97 g-TEQと、1997年から約99%減っています。
生成を抑えるには、800℃以上の高温で燃焼させること。低温でくすぶらせると生成しやすくなります。
もう一つの発生源が、2,4,5-Tという除草剤の不純物としての混入です。ベトナム戦争で枯葉剤として散布されたものに、製造過程で生じたダイオキシンが含まれていました。
第100回では「ダイオキシン類は、塩素化合物の燃焼時や2,4,5-Tなどの除草剤製造時の不純物として生成される非意図的生成物である」が正しい記述として出題されています。「非意図的生成物」というキーワードがTDIとつながるところも押さえておいてください。
なお、ダイオキシン類は残留性有機汚染物質(POPs)でもあり、ストックホルム条約では非意図的生成物として排出削減の対象になっています(国際条約の記事を参照)。
国試ではこう問われる
- TEQの計算(濃度 × TEF の総和)。第100回でそのまま出題
- TDI = 4.0 pg-TEQ/体重kg/日、およびADIとTDIの使い分け
- 環境基準の対象は大気・水質・水底の底質・土壌(農作物は含まない)
- 発生源の中心は廃棄物の焼却(1997年には排出の約9割)、2,4,5-Tの不純物
- 毒性は塩素の置換数が多いほど強い、は誤り
- 3物質の構造(PCDDは酸素2つ、PCDFはフラン環、Co-PCBは平面のビフェニル)
まとめ
- 対象はPCDD(ジオキシン=酸素2つ)・PCDF(フラン環)・コプラナーPCB(平面のビフェニル)の3系統
- 共通の特徴はベンゼン環2つ・脂溶性が高い・難分解性
- もともとダイオキシンはPCDDだけを指したが、毒性が似ているためPCDFとCo-PCBも法律上ダイオキシン類に含めた
- 最強は2,3,7,8-TCDD。これをTEF = 1と定義して比較する。塩素の数ではなく位置が効く
- TEQ = 濃度 × TEF の総和。第100回でそのまま計算問題として出題
- TDI = 4.0 pg-TEQ/体重kg/日。非意図的に摂取するのでADIではなくTDI
- 環境基準は大気(0.6)・水質(1)・水底の底質(150)・土壌(1000)の4つ。農作物は対象外
- 発生源の中心は廃棄物の焼却(1997年には排出の約9割)。800℃以上の高温燃焼で生成を抑える。2,4,5-Tの不純物としても生成
ここまでで「生活環境」の単元はひととおり終わりです。上水・下水・水質汚濁・大気環境・室内環境・廃棄物・地球環境・法規制と、範囲は広いものの、一本の地図としてつながっていることが見えてきたのではないかと思います。
最後に生活環境まとめ|35記事で全体像をつかむで、35本を1枚の地図に並べ直してみてください。単元どうしのつながりと、単元をまたいで効く3つの軸をまとめてあります。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。