
衛生の法規パートで、もっとも取り違えやすいのが「環境基準」と「規制基準」です。
名前が似ているので同じものに見えますが、性格がまったく違います。環境基準は行政上の目標値であって、これを超えたからといって誰かが罰せられるわけではありません。罰則をともなう規制は、下位の個別法が担当します。
この上下関係が分かると、大気汚染防止法・水質汚濁防止法・騒音規制法…と並ぶ法律の一覧が、ただの暗記リストではなくなります。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
環境基本法とは
前身は公害対策基本法です。
公害対策基本法は、その名のとおりすでに起きてしまった公害への対処が中心でした。これに対して環境基本法は、公害になる前に環境そのものを守っていこうという考え方に立っています。この転換が出発点です。
3つの基本理念
- 環境の恵沢の享受と継承 ― 良い環境を受け取り、次の世代へ引き継ぐ
- 持続的発展が可能な社会の構築
- 国際的協調による地球環境保全の推進
環境基本計画:共生・参加・循環 + 国際的取組
環境基本法にもとづいて策定される環境基本計画では、次の4つが柱になります。
- 共生 ― 自然との共生
- 参加 ― みんなが環境保全の行動に参加する社会の実現
- 循環 ― 循環を基調とする社会の実現
- + 国際的取組の推進
「共生・参加・循環」の3つ+国際的取組、という形で覚えてください。
なお「循環」のところから循環型社会形成推進基本法が出てきて、リデュース・リユース・リサイクル(3R)の優先順位につながります。これは廃棄物の処分とリサイクルで扱ったとおりです。
環境アセスメント(環境影響評価)
環境基本法には、環境影響評価法のもとになる条文が置かれています。
開発事業の実施に先立って、環境への影響を調査・予測・評価し、住民の意見を聴いたうえで、公害や環境破壊を未然に防ぐ制度です。
ダムを造る、道路を通す、といったときに、「造ってから考える」のではなく「造る前に調べる」。「先立って」「未然に防ぐ」というキーワードが本質です。
環境基準は「目標値」であって「規制基準」ではない
ここが最重要です。
環境基準の定義:健康の保護および生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい、行政上の目標値
つまり、
- 環境基準 = 目指すゴール。守らせるための基準ではない
- 規制基準 = 事業者が守るべき基準。下位の個別法が定め、違反には罰則がある
「環境基準を達成するために、下位の法律がある」という順番で理解してください。環境基本法は基本的なことだけを決め、詳細は個別法に委ねる、という構造です。
どこに環境基準があるか
前の記事のとおり、典型七公害のうち環境基準があるのは「お」がつく4つ、大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音です。
このほか、ダイオキシン類については環境基本法ではなくダイオキシン類対策特別措置法という別の法律で環境基準が定められています。これはダイオキシン類の記事で扱います。
環境基準と下位の法律の対応

この対応表が、この単元の答案用紙です。
| 公害の種類 | 環境基準 | 主な下位の法律 |
|---|---|---|
| 大気汚染 | あり | 大気汚染防止法、自動車NOx・PM法 など |
| 水質汚濁 | あり | 水質汚濁防止法、下水道法 など |
| 土壌汚染 | あり | 土壌汚染対策法 |
| 騒音 | あり | 騒音規制法 |
| 振動 | なし | 振動規制法 |
| 地盤沈下 | なし | 工業用水法 など |
| 悪臭 | なし | 悪臭防止法 |
環境基準がない振動・地盤沈下・悪臭にも、規制する法律はあるという点に注意してください。「環境基準がない=野放し」ではありません。ここは引っかけどころです。
土壌汚染:検出されてはならない4物質
土壌汚染に係る環境基準のうち、「検出されないこと」とされている物質は覚えておきます。
シアン・アルキル水銀・PCB・有機リン
4つだけなので、そのまま暗記してしまってください。
似た論点として、水質汚濁防止法の排水基準で「検出されないこと」とされているのはアルキル水銀化合物です。第111回の必須問題で、六価クロム・アルキル水銀・カドミウム・大腸菌・PCBから選ばせる形で出題されました。アルキル水銀は土壌でも水でも「検出されないこと」と押さえておくと取りこぼしません。
大気汚染の規制:大気汚染防止法と自動車NOx・PM法
- 大気汚染防止法 ― ばい煙の排出基準など。固定発生源が中心
- 自動車NOx・PM法 ― 三大都市圏(首都圏・大阪圏・愛知圏)で車種規制を行い、NOx・PMの排出が少ない車に置き換えて総量を削減する
詳細は大気汚染の環境基準と法規制で扱っています。
水質汚濁の規制:役割分担が図でわかる

水系は関わる法律が多いので、「どこからどこまでを、どの法律が見ているか」で整理します。
- 水質汚濁防止法 ― 工場・事業場から公共用水域へ直接出す排出水の基準
- 下水道法 ― 下水処理場から公共用水域へ出す放流水の基準。なお下水道への流入水は水質汚濁防止法に則る
- 海洋汚染防止法 ― 海洋への排出
- ダイオキシン類対策特別措置法 ― ダイオキシン類の排出基準
- そしてその先の公共用水域・海の状態を見ているのが環境基本法の環境基準
上乗せ基準
もう一つ、第110回で問われた論点です。
都道府県は、国が定めた一般排出基準・一律排水基準よりも厳しい「上乗せ排出基準」「上乗せ排水基準」を定めることができます。これは正しい記述として出題されました。地域の実情に応じて、国より厳しくできる、という仕組みです。
国試ではこう問われる
- 環境基準は規制基準ではなく、行政上の目標値であること
- 環境基準がある公害とない公害(第102回・必須)
- 公害の種類と下位の法律の対応
- 土壌汚染で「検出されないこと」の4物質、水質汚濁防止法で「検出されないこと」のアルキル水銀(第111回・必須)
- 上乗せ基準を都道府県が定められること(第110回)
- 第110回では「ダイオキシン類対策特別措置法では、大気、水質、土壌及び農作物を対象に環境基準が定められている」という誤り選択肢が出ている(農作物は対象外)
まとめ
- 環境基本法の前身は公害対策基本法。公害への事後対処から、環境保全と未然防止へ
- 基本理念は3つ(恵沢の享受と継承/持続的発展が可能な社会/国際的協調)
- 環境基本計画は「共生・参加・循環」+国際的取組の推進
- 環境アセスメント=開発事業に先立って調査・予測・評価し、住民の意見を聴き、未然に防ぐ
- 環境基準は行政上の目標値であって規制基準ではない。達成するために下位の法律がある
- 環境基準があるのは大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音。振動・地盤沈下・悪臭にはないが、規制する法律はある
- 土壌汚染で検出されてはならないのはシアン・アルキル水銀・PCB・有機リン
- 都道府県は国より厳しい上乗せ基準を定められる
次は騒音・振動・悪臭の規制|暗騒音と臭気指数を読んでみてください。環境基準のない3つを、まとめて片づけます。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。