
水環境が終わったので、ここからは大気環境に入ります。
この単元は「法律」と「物質の各論」の2階建てになっています。今回はその1階部分、つまりどの法律が何を規制しているかを整理します。物質そのものの話(CO、SOx、NOx、光化学オキシダント、粒子状物質)は次の記事以降で扱うので、ここでは全体の枠組みだけを作ってしまいましょう。
枠組みができていると、あとから出てくる物質が「これは環境基準の対象だったな」「これは自動車NOx・PM法の対象だな」と、置き場所つきで頭に入ります。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
大気環境に関わる法律は3つ
ダイオキシン類対策特別措置法

ダイオキシン類は、大気・水質・土壌それぞれに環境基準が設定されています。大気については年平均値0.6pg-TEQ/m³以下です。
ダイオキシン自体は環境保全と法規制の単元で改めて詳しく扱うので、ここでは「ダイオキシン類は大気にも環境基準がある」「それを決めているのはダイオキシン類対策特別措置法」という置き場所だけ押さえてください。
自動車NOx・PM法
名前のとおり、自動車から出る窒素酸化物と粒子状物質を規制する法律です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象物質 | NOxとPM(粒子状物質) |
| 対象地域 | 首都圏、大阪・兵庫、愛知・三重の3圏域 |
| 排出基準 | 総量規制に基づき、適合しない車の使用・所有を制限 |
対象地域が全国ではなく3つの圏域に限られているのがポイントです。自動車の交通量が多く、大気汚染が問題になりやすい都市部に絞って規制をかけています。この地域では、基準に適合しない車は車検が通らないといった形で実際に制限を受けます。
環境基本法
環境基本法には、大気関係で2つの重要な中身が入っています。
- K値規制(SOxの排出基準)
- 大気汚染に係る環境基準
そして、この環境基準を達成するための法律として大気汚染防止法がある、という関係になっています。水質汚濁の記事で見たのと同じ構図です。環境基本法の環境基準は目標で、実際に取り締まる下位の法律が別にある、という二段構えですね。
K値規制:SOxの排出基準

K値規制は、硫黄酸化物(SOx)の排出基準です。許容される排出量が、次の式で決まります。
Q = K × 10⁻³ × He²

- Q:許容排出量(m³/h)
- K:地域ごとに定められた値
- He:有効煙突高さ(m)
有効煙突高さ(He)とは何か
これは、煙突そのものの高さではありません。
有効煙突高さ = 煙突の高さ + 煙の上昇高度
煙突から出た煙は、勢いと浮力でさらに上まで上がっていきます。その上がった分まで含めた高さが有効煙突高さです。高いところから出すほど煙は広く薄く拡散するので、そのぶん多く出してよい、という発想になっています。式でHeが2乗になっているのも、高さの効き方が大きいことを表しています。
Kが小さいほど規制が厳しい
ここが問われるポイントです。Kは地域ごとに決められている係数で、Kが小さくなればQ(許容排出量)も小さくなります。つまりK値が小さい地域ほど、排出できる量が少ない=規制が厳しいということです。
「K値規制」という名前は、この式のKから来ています。名前と式をセットで覚えてください。
大気汚染に係る環境基準の対象物質

環境基準が設定されている物質は、語呂で一気に押さえられます。
「その子が 不幸に ベットで 痔」
| 語呂 | 物質 |
|---|---|
| そ | SO₂(二酸化硫黄) |
| の | NO₂(二酸化窒素) |
| 子 | CO(一酸化炭素) |
| 不 | 浮遊粒子状物質(SPM) |
| 幸 | 光化学オキシダント |
| ベッ | ベンゼン |
| ト | トリクロロエチレン |
| で | テトラクロロエチレン |
| 痔 | ジクロロメタン |
後半のベンゼン・トリクロロエチレン・テトラクロロエチレン・ジクロロメタンは、水質基準でも出てきた「肝臓に悪いハロゲン化炭化水素」の仲間です(ベンゼンだけはハロゲンではありませんが、発がん性で並んでいます)。水でも大気でも顔を出すグループなので、ここで完全に覚えてしまうと後が楽です。
語呂に入っていないもの:PM2.5
ひとつ注意があります。微小粒子状物質(PM2.5)にも環境基準が設定されていますが、この語呂には入っていません。語呂だけで覚えると落とすので、「語呂9つ+PM2.5」で押さえてください。
発生源:移動発生源と固定発生源
大気汚染物質の発生源は、2つに分けて考えます。
- 移動発生源:車など
- 固定発生源:工場など
そして、この区別がそのまま測定局の種類につながります。
- 自排局(自動車排出ガス測定局):道路沿いなど、移動発生源の近くで測る
- 一般局(一般環境大気測定局):住宅地など、一般的な環境で測る
このあと物質ごとの年次推移のグラフを見ていきますが、そこに必ずこの2本の線が出てきます。自排局のほうが高い物質は、車が主な発生源ということ。この読み方を覚えておくと、グラフの問題が一気に解けるようになります。
一次汚染物質と二次汚染物質
もうひとつの分け方が、生成のしかたによる分類です。
| 定義 | 例 | |
|---|---|---|
| 一次汚染物質 | 燃焼などで直接放出される | SOx、NOx、CO、炭化水素、PM2.5 |
| 二次汚染物質 | 一次汚染物質が他の成分との共存下で光化学反応により生成する | 光化学オキシダント、硫酸ミスト、PM2.5 |
PM2.5が両方に入っている理由
表を見て「PM2.5が両方にあるぞ」と気づいた人は鋭いです。これは間違いではありません。
- 粉じんのように、微粒子がそのまま大気中に出てくる場合 → 一次汚染物質
- SOxやNOxなどが大気中で化学反応を起こして小さな粒子に変わる場合 → 二次汚染物質
同じPM2.5でも、どちらの経路でできたかで分類が変わります。「PM2.5は一次・二次の両方に入る」という形で問われることがあるので、理由まで言えるようにしておきましょう。
まとめ
- 大気環境に関わる法律はダイオキシン類対策特別措置法(大気は年平均0.6pg-TEQ/m³以下)、自動車NOx・PM法、環境基本法の3つ
- 自動車NOx・PM法は対象物質がNOxとPM、対象地域が首都圏・大阪兵庫・愛知三重の3圏域、総量規制に基づき適合しない車の使用・所有を制限する
- K値規制はSOxの排出基準で、Q = K × 10⁻³ × He²。He(有効煙突高さ)= 煙突の高さ + 煙の上昇高度。Kが小さいほど規制が厳しい
- 環境基準の対象物質は語呂「その子が不幸にベットで痔」。ただしPM2.5は語呂に入っていないので別に足す
- 発生源は移動発生源(車)と固定発生源(工場)。測定局は自排局と一般局で、自排局が高い物質は車由来
- 一次汚染物質は直接放出、二次汚染物質は光化学反応で生成。PM2.5は経路によって両方に入る
次は逆転層の4種類|放射性・地形性・沈降性・前線性を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。