
ここからは大気汚染物質の各論です。まずはガス状物質から、一酸化炭素(CO)と硫黄酸化物(SOx)の2つを扱います。
この2つに共通しているのは、どちらも年次推移のグラフが激減していることです。そして減った理由がそれぞれ違います。COは排ガス規制、SOxは「水に溶けやすいから除去が楽」という化学的性質です。グラフと理由をセットで持っておくと、推移を問う問題に強くなります。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
一酸化炭素(CO)
毒性:ヘモグロビンを奪う
COの毒性は一点に尽きます。ヘモグロビン(Hb)と強く結合してしまうことです。
ヘモグロビンは本来、酸素を運ぶための分子です。そこにCOが結合してしまうと、その分だけ酸素を運べなくなります。COのヘモグロビンに対する親和性は酸素の約250倍とされており、少量でも酸素の座を奪ってしまいます。
数字の感覚をつかむための例として、タバコ1本で約10%のヘモグロビンが奪われ、それが元に戻るまでに約5時間かかると言われます。喫煙者の血中一酸化炭素ヘモグロビン濃度が高くなるのは、このためです。
なお、親和性の倍率は資料によって幅がありますが、国試で問われるのは倍率そのものではなく順番のほうです。
ヘモグロビンとの親和性:NO > CO > O₂
実際、過去には「一酸化炭素は一酸化窒素よりもヘモグロビンに対する親和性が高い」という誤りの選択肢が出題されています。正しくは一酸化窒素(NO)のほうがさらに強く、次の記事で扱うようにNOは酸素の30万倍とも言われます。順番だけは絶対に間違えないでください。
発生源と年次推移

COが出てくるのは、低速運転時やアイドリング時です。不完全燃焼で生じるため、エンジンが効率よく燃えていない場面で増えます。
年次推移を見ると、排ガス規制によって激減しています。注目してほしいのは、自排局(道路沿い)も一般局(住宅地)も両方とも下がっていることです。車が主な発生源で、その車が規制されたのですから当然の結果といえます。
硫黄酸化物(SOx)
発生源:化石燃料の燃焼=固定発生源
硫黄酸化物は、化石燃料の燃焼で発生します。石炭や重油に含まれる硫黄分が燃えて出てくるため、主な発生源は工場などの固定発生源です。
COやNOxが「車=移動発生源」だったのに対し、SOxは「工場=固定発生源」。ここが対比のポイントになります。
化学的性質が、対策も被害も決めている
SOxを理解する鍵は、硫黄酸化物は水に溶けやすいという一点です。ここから2つの結論が出てきます。
結論1:除去が楽 → だから激減した

水に溶けるということは、水を使って捕まえられるということです。実際の対策がこれです。
- 排煙脱硫:アルカリ水溶液を使った装置で中和・吸収して除去する。効果は絶大で、年次推移がはっきり下がった
- 重油脱硫:燃やす前の燃料から硫黄分を抜いておく
グラフを見ると、SO₂は他の物質と比べても際立って下がっています。「水に溶ける → 除去が楽 → 激減」という因果の流れでまとめて覚えてください。
結論2:水に溶けやすいから、酸性雨にもなりやすい
除去しやすいという長所の裏返しです。大気中に残ったSOxは雨に溶け込み、酸性雨の原因になります。
健康影響
- 硫酸ミストの刺激が非常に強い
- 気管支喘息 — 四日市ぜんそくがこれにあたります
- ロンドンスモッグ — 逆転層の記事で出てきた事件も、SOxによるものです
四日市ぜんそくとロンドンスモッグはどちらもSOx。四大公害病や逆転層の単元とつながる場所なので、ここで結びつけておきましょう。
測定法
- 溶液導電率法(こちらを先に覚える)
- トリエタノールアミン・パラロザニリン法(新しく出てきたほう)
溶液導電率法のしくみは、名前のとおりです。SOxが水に溶けると硫酸イオン(SO₄²⁻)になります。イオンが増えれば電気伝導率が上がるので、その変化を測ればSOxの量がわかる、という仕組みです。ここでも「水に溶ける」という性質が効いています。
測定法は語呂で押さえられます。「野ザル ピカチュウ 戸せき そうどう」の「そうどう」の部分が、SOx=溶液導電率法です。語呂の全体は前の記事の続きとして光化学オキシダントの記事でまとめて扱います。
まとめ
- COはヘモグロビンと強く結合して酸素運搬を妨げる。親和性は酸素の約250倍
- ヘモグロビンとの親和性はNO > CO > O₂。「COのほうがNOより強い」は誤り(出題実績あり)
- COは低速運転時やアイドリング時に発生し、排ガス規制で激減。自排局・一般局とも低下
- SOxは化石燃料の燃焼で発生する。主な発生源は工場=固定発生源
- SOxは水に溶けやすいため、排煙脱硫(アルカリ水溶液)で除去が楽 → 年次推移は激減。一方で酸性雨の原因にもなる
- 健康影響は硫酸ミストの強い刺激、気管支喘息(四日市ぜんそく)、ロンドンスモッグ
- 測定法は溶液導電率法(SO₄²⁻が増えて伝導率が上がる)とトリエタノールアミン・パラロザニリン法
次はフューエルNOxとサーマルNOxの違いを読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
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