
窒素酸化物(NOx)は、前の記事で扱ったCOやSOxと違って、年次推移がなかなか下がらない物質です。
なぜ下がらないのか。その答えが、この記事のタイトルにあるフューエルNOxとサーマルNOxの区別にあります。名前の対比を覚えるだけの単元に見えますが、実は「減らせるNOx」と「減らしにくいNOx」の話で、グラフの形まで説明がつくようになっています。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
発生源は2種類ある
NOxは、窒素がどこから来たかで2つに分けられます。
フューエルNOx:燃料由来
フューエル(fuel)=燃料です。名前のとおり、燃料の中に含まれていた窒素分が、燃焼で酸素と結びついてできるNOxです。
ではこれを減らすにはどうするか。答えはシンプルで、燃料から窒素分を抜けばいい。実際に燃料の精製技術が進んで純度が上がった結果、今ではフューエルNOxはほぼありません。
サーマルNOx:空気由来
サーマル(thermal)=熱です。サーモスタットのサーマルと同じですね。
こちらは燃料ではなく、空気中の窒素が原因です。燃焼で高温になると、空気中のN₂とO₂が反応してNOxができてしまいます。
問題は、燃料をどれだけきれいにしても、燃やす以上は空気が必要だということです。空気には約8割の窒素が入っているのですから、高温で燃やせば必ずサーマルNOxが出ます。フューエルNOxのように原料側の対策で消すことができない——これが、NOxが減りにくい理由です。
対策としては、燃焼温度を下げる工夫が中心になります。
- 二段燃焼
- 低NOxエンジン
こうした技術で少しずつ減ってはいますが、劇的にはいきません。
| フューエルNOx | サーマルNOx | |
|---|---|---|
| 窒素の由来 | 燃料中の窒素分 | 空気中の窒素 |
| 対策 | 燃料の精製で純度を上げる | 二段燃焼、低NOxエンジンなど燃焼温度を下げる |
| 現状 | ほぼなし | こちらが主役。減らしにくい |
年次推移:自排局が一般局より高い理由

グラフには2つの特徴があります。
特徴1:微減にとどまる
COやSO₂が激減したのに対し、NO₂は改善傾向ではあるものの微減です。理由は上で見たとおり、サーマルNOxが減らしにくいからです。なお、環境基準の目標自体は達成しています。
特徴2:自排局が一般局より明らかに高い
道路沿いの自排局のほうが、住宅地の一般局より高い値で推移しています。これも理由が言えます。今のNOxはほとんどがサーマルNOxで、その主な発生源が自動車だからです。車の近くで測れば高くなるのは当然ですね。
大気汚染の環境基準の記事で、自排局と一般局の読み分けを説明しました。「自排局>一般局なら車由来」という読み方が、ここでそのまま使えます。
対策の法律は、同じく前に見た自動車NOx・PM法です。対象物質にNOxが入っていたのは、このためです。
健康影響
局所刺激による呼吸器疾患
NOxは局所刺激があり、呼吸器疾患の原因になります。
NO₂:水に溶けるとメトヘモグロビン血症
NO₂が水に溶けると、硝酸と亜硝酸が生じます。
ここで思い出してほしいのが、硝酸態窒素・亜硝酸態窒素の記事です。悪さをしていたのは亜硝酸のほうで、ヘモグロビンの鉄をFe²⁺からFe³⁺へ酸化してメトヘモグロビン血症を起こすのでした。
水環境で出てきた話が、大気環境でもそのまま再登場します。「亜硝酸 → メトヘモグロビン血症」は衛生の中で何度も使う型なので、ここで固めておきましょう。
NO:ヘモグロビンとの親和性は酸素の30万倍
一酸化窒素(NO)は、ヘモグロビンとの親和性が酸素の30万倍とされ、COよりさらに強く結合します。
前の記事で確認した順番を、もう一度確認しておきます。
ヘモグロビンとの親和性:NO > CO > O₂
「COが一番強い」と思い込んでいる人が多く、そこを狙った選択肢が実際に出題されています。
悪循環:光化学オキシダントの原料になる
NOx単体の害だけでなく、もうひとつ重要な役割があります。光化学オキシダントや光化学スモッグの原因物質になることです。
とくに非メタン炭化水素(VOC)と一緒になると厄介で、これが次の記事の主題になります。NOxはここで終わりではなく、次の記事に続いていく物質だと思っておいてください。
まとめ
- NOxの発生源はフューエルNOx(燃料中の窒素分)とサーマルNOx(空気中の窒素)の2つ
- フューエルNOxは燃料の精製で純度が上がり、今はほぼなし
- サーマルNOxは高温燃焼で空気中のN₂とO₂が反応して生じるため消せない。二段燃焼や低NOxエンジンで燃焼温度を下げる対策が中心
- 年次推移は微減にとどまるが目標は達成。自排局>一般局なのは、主な発生源が自動車だから
- 対策の法律は自動車NOx・PM法
- 健康影響は局所刺激による呼吸器疾患、NO₂は水に溶けて亜硝酸となりメトヘモグロビン血症、NOはヘモグロビン親和性が酸素の30万倍
- ヘモグロビンとの親和性はNO > CO > O₂
- NOxは光化学オキシダントの原因物質でもある
次は光化学オキシダントの生成機構|NOx・VOCからオゾンができるまでを読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
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