
同じ量の排煙が出ていても、健康被害が出る日と出ない日があります。その差を生んでいるのが気象条件、とくに逆転層です。
この単元は覚えることが4つだけで、しかもすべて図で理解できます。丸暗記ではなく「なぜ地上が冷えて上空が暖かくなるのか」を4パターン追いかければ、名前は自然についてきます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
前提:通常は「地上が暖かく、上空が寒い」
まず、逆転していない普通の状態を確認します。
通常は地上が暖かく、上空が寒い。
この温度の下がり方には名前がついていて、乾燥断熱率:高さが100m上がると気温が1℃下がるとされています。
なぜ上空のほうが寒いのかというと、上空ほど気圧が低いからです。気体の状態方程式 PV = nRT を思い出すと、圧力が下がれば温度も下がる、という関係が見えてきます。物理で習った式が、そのまま大気の話につながっている場所です。
この状態だと何が起こるか
地上の暖かい空気は軽いので上へ、上空の冷たい空気は重いので下へ動きます。つまり対流が起こる。対流が起これば、煙突から出た排煙は上空へ運ばれて拡散していきます。だから地上に溜まりません。
逆転層とは、この上下関係がひっくり返った状態です。地上が冷たく、上空が暖かい。こうなると軽い空気が上、重い空気が下という安定した配置になってしまい、対流が起こりません。結果として排煙が地上付近に溜まり続け、濃度が上がって健康被害につながります。
ここまでが共通の前提です。では、どういうときにこの逆転が起こるのか。国試で押さえるべきは次の4種類です。
①放射性逆転:冬の晴れた夜に地面が冷える

昼のあいだに暖められた地面は、夜になると赤外線を出して冷えていきます(放射冷却)。普通の夜は雲があって、その赤外線を反射して地面を保温してくれるので、冷えすぎることはありません。
ところが冬の、よく晴れた夜は雲がないため、赤外線がそのまま宇宙へ逃げていきます。一気に放射冷却が進み、地面だけが急激に冷える。すると地上が冷たく上空が暖かい状態ができあがり、逆転層になります。
これが放射性逆転(接地逆転)です。
覚えるべき紐づけ:放射性逆転 → ロンドンスモッグ
1952年のロンドンスモッグ事件は、この放射性逆転が起きた状態で石炭の煤煙が地上に溜まったことで、多数の健康被害が出たものです。「ロンドンスモッグといえば放射性逆転」は頻出の組み合わせなので、必ずセットで覚えてください。
②地形性逆転:盆地に冷気が溜まる

こちらは地形が原因です。
冷たい空気は重いので、低いところへ流れ込みます。山に囲まれた盆地では、周囲の斜面を冷気が滑り降りて底に溜まります。すると盆地の底だけが冷たく、その上が暖かい状態になり、逆転層ができます。
盆地に工場や住宅があれば、そこに排煙が溜まり続けることになります。名前のとおり地形が作る逆転なので、図さえ見れば納得できると思います。
③沈降性逆転:高気圧に押されて圧縮された空気が暖まる

高気圧のもとでは、上空から地上へ向かう下降気流が生じます。
下降した空気は、下へ行くほど気圧が高くなるので圧縮されます。ここでも PV = nRT の出番で、圧力が上がれば温度も上がる。つまり、上空から降りてきた空気が途中で暖められ、空の途中に暖気の層(いわば高気圧の壁)ができるわけです。
その暖気の層の下では、排煙が上へ抜けられずに溜まります。これが沈降性逆転です。
①の放射性逆転が「下が冷える」パターンなのに対して、③は「上が暖まる」パターンだと整理すると、混ざりません。
④前線性逆転:暖気が寒気の上に乗り上げる

前線は、暖かい空気と冷たい空気がぶつかっている場所です。
暖気は軽いので、寒気の上に乗り上げるように滑り上がっていきます。その結果、前線面をはさんで上に暖気、下に寒気という配置ができます。これも立派な逆転層です。
下側の寒気の中に排煙が出されれば、上へ抜けられずに地上付近に溜まります。これが前線性逆転です。
4つを並べて整理する
| 種類 | 原因 | 何が起きているか |
|---|---|---|
| 放射性逆転 | 晴れた夜の放射冷却 | 地上が冷える(ロンドンスモッグ) |
| 地形性逆転 | 盆地などの地形 | 冷気が底に溜まる |
| 沈降性逆転 | 高気圧の下降気流 | 圧縮で上空が暖まる |
| 前線性逆転 | 前線 | 暖気が寒気の上に乗る |
4つのうち①だけが「下が冷える」、②は「冷気が集まる」、③と④は「上が暖まる」。この3グループに分けて考えると、図を思い出しやすくなります。
まとめ
- 通常は地上が暖かく上空が寒い(乾燥断熱率:100mで1℃低下)ため対流が起こり、排煙は拡散する
- 逆転層では地上が冷たく上空が暖かくなるため対流が起こらず、排煙が地上に溜まる
- 放射性逆転は晴れた夜の放射冷却で地上が冷える。ロンドンスモッグと必ずセットで覚える
- 地形性逆転は盆地などに冷気が溜まることで起こる
- 沈降性逆転は高気圧の下降気流で空気が圧縮され、上空が暖まることで起こる
- 前線性逆転は前線で暖気が寒気の上に乗り上げることで起こる
次は一酸化炭素と硫黄酸化物(SOx)|CO-Hb親和性と排煙脱硫を読んでみてください。
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この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
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