
大気環境の最後は粒子状物質です。ガス状物質が「分子として漂っているもの」だったのに対し、こちらは「粒として漂っているもの」になります。
この単元の山場は、SPMとPM2.5の定義の差です。どちらも「小さい粒」なのですが、定義の書かれ方がまったく違います。ここを正確に押さえられるかどうかで差がつきます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
粒子状物質は2通りに分類できる
粒子状物質には、切り口の違う2つの分類があります。混ざりやすいので、最初に整理しておきます。
分類①:発生方法で分ける
| 分類 | 定義 | 内訳 |
|---|---|---|
| ばいじん | 燃焼で発生するもの | — |
| 粉じん | 燃焼以外で発生するもの | 特定粉じん(=アスベスト)/一般粉じん |
「特定粉じん」といえばアスベストです。ここは一対一対応なので確実に取ってください。
分類②:大きさ(粒子径)で分ける
- 浮遊粒子状物質(SPM)
- 微小粒子状物質(PM2.5)
もともとSPMという概念があり、そこからSPMより小さく健康への影響が懸念される物質を新たに切り出して設定されたのがPM2.5です。つまり後からできた概念だという経緯を知っておくと、定義の違いも納得しやすくなります。
浮遊粒子状物質(SPM)
定義
大気中に浮遊する粒子状物質で、粒径10μm以下のもの
シンプルに「10μm以下」と決めてあります。この素直さを覚えておいてください。PM2.5と対比するときに効いてきます。
発生源と規制
主な発生源はディーゼル車の排気粒子です。火山活動や燃料の燃焼、粉砕で生じる微粒子もあります。
ディーゼル車が主役ということは、大気汚染の環境基準の記事で見た自動車NOx・PM法の「PM」がまさにこれです。対象物質がNOxとPMだったのは、このためでした。
健康影響
- 発がん性、呼吸器疾患の原因物質
- 気管支喘息、じん肺症
年次推移

穏やかに改善傾向です。COやSO₂のような激減ではなく、微減にとどまります。ここでも自排局(道路沿い)が一般局(住宅地)より高い——つまり車由来だという読み方ができます。
一次粒子と二次粒子
大気汚染の環境基準の記事で一次汚染物質・二次汚染物質を扱いましたが、SPMの中にも同じ分け方があります。
| 定義 | 例 | |
|---|---|---|
| 一次粒子 | 微粒子として直接大気中に放出される | ばい煙、粉じん、土壌粒子、花粉など |
| 二次粒子 | VOC、SOx、NOxなどが大気中で粒子に転換される | — |
「花粉も一次粒子に入る」というのは意外に思われるかもしれませんが、直接大気中に出てくる微粒子なのでそのとおりです。
測定法

3つありますが、出題されるのはほぼ重量法です。
重量法 — ロー(またはハイ)ボリュームエアサンプラーでろ紙を通して試料空気を吸い、ろ紙上にSPMを捕集します。ろ紙の重量増加からSPM濃度を求める、という仕組みです。
原理が単純なので、「ろ紙に吸わせて、重さの差で測る」と覚えておけば十分です。他に散乱光法とβ線吸収法があります。
微小粒子状物質(PM2.5)
定義:ここが最重要

粒子径2.5μmで50%の捕集効率をもつ分粒装置を透過する微粒子
SPMの「10μm以下」と比べると、ずいぶん回りくどい書き方です。なぜこうなっているのか、装置の側から考えると腑に落ちます。
空気を装置に通すと、大きい粒子は捕まり、小さい粒子は通り抜けます。ただし「2.5μmを境にきっぱり分かれる」わけではなく、実際には境目がなだらかです。

グラフのとおり、捕集効率は粒子径が小さくなるにつれて100%から徐々に下がっていきます。ちょうど2.5μmのところで50%になるように作られた装置——それがPM2.5の測定器です。そしてその装置を透過してきたものをPM2.5と呼ぶ、という定義になっています。
つまり、PM2.5は「大きさで決めた定義」ではなく「装置で決めた定義」なのです。ここがSPMとの決定的な違いで、国試でもこの差が狙われます。
| SPM | PM2.5 | |
|---|---|---|
| 定義 | 粒径10μm以下 | 粒子径2.5μmで50%の捕集効率をもつ分粒装置を透過する微粒子 |
| 決め方 | 大きさそのもの | 装置の性能 |
健康影響
粒子が小さいぶん肺の奥まで届いて沈着しやすいのが特徴です。
気管支喘息、アレルギー性鼻炎、肺がん、不整脈、心臓発作
呼吸器だけでなく心臓にも影響が及ぶのがPM2.5の怖いところで、これが「新たに設定された」理由でもあります。
測定法
SPMと同じで、基本は重量法です。
アスベスト(石綿)
この節は、元動画の解説が途中で終わっているため、マインドマップの内容を中心にまとめています。
特定粉じん
アスベストは特定粉じんとして、大気汚染の環境基準で定められている物質です。上の分類①でいえば「燃焼以外で発生する粉じん」のうち、とくに指定されたものにあたります。
種類
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| クリソタイル | これが9割を占める |
| アモサイト、クロシドライト | 吹付けに使われた |
なぜ体に悪いのか

写真のとおり、アスベストは非常に細い針のような繊維が束になった鉱物です。この形が、そのまま害の理由になっています。細いので吸い込むと肺の奥まで届き、そこに刺さって抜けません。害の出方は2段階で説明されます。
- 石綿繊維により長期間にわたって炎症が起こる → 肺の組織が傷つけられ続け、線維化が生じる
- 活性酸素が発生する → DNAが損傷 → 遺伝子異常が起こり、細胞ががん化する
「刺さって炎症」と「活性酸素でDNA損傷」の2本立てで覚えると、下の3つの疾患がどちらから来ているかも見えてきます。
疾患
悪性中皮腫、アスベスト肺症(石綿肺)、肺がん
とくに悪性中皮腫はアスベストとの結びつきが強く、頻出です。
発生源
強く、軽く、断熱性があるという優れた性質をもっていたため、昔は家や車のブレーキなど、ありとあらゆるものに使われていました。
そのため問題になるのは使用中よりも解体するときです。古い建物を壊す際に繊維が飛散し、曝露につながります。過去に大量に使われたものが、今になって健康被害として現れてくる——という構図を押さえておいてください。
まとめ
- 粒子状物質は発生方法(ばいじん=燃焼/粉じん=燃焼以外。粉じんのうち特定粉じん=アスベスト)と大きさ(SPM/PM2.5)の2通りで分類する
- SPMは粒径10μm以下。主な発生源はディーゼル車の排気粒子で、自動車NOx・PM法の「PM」にあたる
- SPMの健康影響は発がん性・呼吸器疾患・気管支喘息・じん肺症。年次推移は穏やかに改善
- SPMには一次粒子(ばい煙・粉じん・土壌粒子・花粉)と二次粒子(VOC・SOx・NOxが大気中で粒子化)がある
- 測定法は重量法が中心。ロー(ハイ)ボリュームエアサンプラーでろ紙に捕集し、重量増加から求める
- PM2.5は粒子径2.5μmで50%の捕集効率をもつ分粒装置を透過する微粒子。大きさではなく装置で定義されている点がSPMとの最大の違い
- PM2.5は肺に沈着しやすく、気管支喘息・アレルギー性鼻炎・肺がん・不整脈・心臓発作を起こす
- アスベストは特定粉じん。クリソタイルが9割、吹付けにはアモサイト・クロシドライト
- 機序は炎症→線維化と活性酸素→DNA損傷→がん化の2本立て。疾患は悪性中皮腫・アスベスト肺症・肺がん
ここまでで大気環境は終わりです。次は同じ「生活環境と健康」の中の室内空気の指標と測定|アスマン通風乾湿計とカタ温度計に進みます。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
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