
大気環境が終わったので、ここからは室内環境に入ります。外の空気から、部屋の中の空気に視点を移すところです。
室内環境は、測定器の名前と「何が測れるか」が一対一で問われる単元です。しかも計算問題にもなります。逆にいえば、器具と指標の対応さえ地図にできていれば、かなり手堅く点が取れる場所でもあります。
この記事では、感覚温度に進む前の土台として、気温・気湿・カタ冷却力・気流の4つと、それぞれをどの器具で測るのかを整理します。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
室内環境を決めている2つの法律
細かい中身に入る前に、そもそも誰が室内環境の基準を決めているのかを押さえておきます。
| 法律 | 役割 |
|---|---|
| ビル管理法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律) | 室内環境の基準を定めている本体 |
| 健康増進法 | 受動喫煙の防止 |
ビル管理法で注意したいのは対象範囲です。
不特定多数が利用する建物を対象とした法律で、大規模マンション・病院・工場は対象外になります。「大きい建物ならなんでも対象」と思っていると引っかかります。マンションは住んでいる人が決まっている、病院や工場には別の法律がある——とイメージしておくと外しにくくなります。
基本となる4つの指標
室内の空気環境は、まず次の4つで捉えます。
- 気温
- 気湿(湿度)
- カタ冷却力
- 気流
このうち気温・気湿・気流の3つが主役で、カタ冷却力は気流を出すための途中経過にあたります。ここの位置づけを間違えると、あとで出てくる感覚温度の話が分からなくなるので、最初にはっきりさせておいてください。
気温:アスマン通風乾湿計

気温を測るのはアスマン通風乾湿計です。図を見ながら、構造の特徴を3つ押さえます。
- 温度計が2本入っている — 乾球(そのまま)と湿球(湿らせたガーゼで包む)
- 周りに銀メッキが施されている — 輻射熱を防ぐため
- 上部でファンが回っている — 下から空気を取り込み、上へ抜けていく(=通風)
つまりこの1台で、乾球温度と湿球温度の両方が測れます。名前に「乾湿」と入っているのはそのためです。
銀メッキは輻射熱を「防ぐ」ためのもの、という点は後で効いてきます。次の記事で出てくる黒球温度計は、逆に輻射熱をわざと吸収する器具だからです。正反対の設計になっている、と覚えておいてください。
気湿:相対湿度と絶対湿度
気湿もアスマン通風乾湿計で測ります。乾球温度と湿球温度の差から求められるからです。
通常測るのは相対湿度のほうです。
| 意味 | |
|---|---|
| 相対湿度 | その温度の飽和水蒸気量に対して、今どれくらい水蒸気が含まれているか(%) |
| 絶対湿度 | 飽和水蒸気量とは関係なく、空気1m³中に何gの水蒸気があるか |
相対湿度は「満タンに対して何割か」、絶対湿度は「実際の量そのもの」です。
ここで1つ、国試で問われたポイントを挙げておきます。乾球温度と湿球温度が同じ室内では、相対湿度は100%です。湿球は水が蒸発するときに熱を奪われて温度が下がるので、乾球より低くなります。ところが空気が水蒸気で満タンだと、もう蒸発できないので温度が下がらず、乾球と同じ値になる——という理屈です。
カタ冷却力:カタ温度計

カタ温度計は、少し変わった使い方をする器具です。温度そのものではなく、冷える速さを測ります。
測り方は単純で、アルコール柱が38℃から35℃まで下降するのにかかる時間(T秒)をストップウォッチで計るだけです。
そこからカタ冷却力Hを次の式で求めます。
H = f / T
- H:カタ冷却力
- f:カタ係数(温度計ごとに決まっている値)
- T:38℃→35℃に下降した時間(秒)
式の形を見れば分かるとおり、Tが分母にいます。つまり——
冷えるのにかかる時間が短いほど、カタ冷却力は大きい
当たり前といえば当たり前です。さっと冷えるということは、それだけ冷やす力が強い環境だということですから。ここは国試で何度も問われているので、式ごと覚えてしまってください。
乾カタと湿カタ

カタ温度計は、球部をそのままにするか、湿らせるかで2通りの測り方があります。
| 何を再現しているか | |
|---|---|
| 乾カタ冷却力 | 体表面が乾燥しているときのカタ冷却力 |
| 湿カタ冷却力 | 体表面が湿っているときのカタ冷却力 |
汗をかいているかどうかで体の冷え方が変わる、というのを器具の側で再現しているわけです。
気流:カタ冷却力と気温から計算する

気流は、直接測る器具ではなく計算で出します。使うのは、
- カタ冷却力(H) — カタ温度計から
- 気温(測定時の室温) — アスマン通風乾湿計から
の2つです。
式の中のθは、36.5℃(平熱) − 室温です。体温と室温の差、と読んでください。そのうえで、H/θの値によって式を使い分けます。
| 条件 | 式 |
|---|---|
| 気流が弱いとき(〜1m/秒、H/θ ≦ 0.6) | V = {(H/θ − 0.20) / 0.40}² |
| 気流が強いとき(1m/秒〜、H/θ ≧ 0.6) | V = {(H/θ − 0.13) / 0.47}² |
この式は覚えなくて大丈夫です。 実際、計算問題として出題されたときは問題文に式が与えられています。覚えるべきは「式が2つあって、H/θ = 0.6を境に使い分ける」という構造のほうです。
なお、気流は0.3〜0.5m/秒が最適とされています。また気流が大きいほど感覚温度は下がります(風があると涼しく感じる、ということです)。
器具と指標の対応表
ここまでを1枚にまとめます。国試で狙われるのは、ほぼこの対応関係です。
| 指標 | 必要な器具 |
|---|---|
| 気温 | アスマン通風乾湿計 |
| 気湿(相対湿度) | アスマン通風乾湿計 |
| カタ冷却力 | カタ温度計 |
| 気流 | アスマン通風乾湿計(気温) + カタ温度計(カタ冷却力) |
「アスマン通風乾湿計と乾カタ温度計だけで測れるのは何か」——これがそのまま必須問題になったことがあります(第102回)。答えは気流(気動)です。上の表をたどれば、気温もカタ冷却力も手元にあるので計算できる、と分かります。
一方で、熱輻射は測れません。輻射熱を測るには黒球温度計が要るからです。ここも次の記事につながります。
国試ではこう問われる
この単元は出題が集中している場所なので、実際の問われ方を挙げておきます。
- カタ温度計の時間と冷却力・感覚温度の関係(第98回・第104回) 「38℃から35℃に降下する時間が長い」→ 冷却力小 → その部屋は冷やす力が弱い → 感覚温度は高い。時間と冷却力が逆向きになる点を、毎回たどり直してください
- カタ係数の大小(第98回) H = f/T なので、時間が同じならカタ係数fが大きいほうが冷却力も大きい
- 気流の計算問題(第99回) カタ係数360、95秒といった数値と式が与えられ、気流を求めさせる形式。式は問題文にあるので、代入の手順だけ確認しておけば十分です
- アスマン+乾カタで測れる指標(第102回) → 気流(気動)
- 気流と乾カタ冷却力の関係(第104回) 気温と気湿が同じなら、気流が大きいほど乾カタ冷却力は大きい
まとめ
- 室内環境の基準はビル管理法、受動喫煙の防止は健康増進法。ビル管理法は不特定多数が利用する建物が対象で、大規模マンション・病院・工場は対象外
- 基本の指標は気温・気湿・気流の3つ。カタ冷却力は気流を出すための中間指標
- 気温と気湿はアスマン通風乾湿計。乾球・湿球の2本の温度計、輻射熱を防ぐ銀メッキ、ファンによる通風が特徴
- 乾球温度=湿球温度のとき、相対湿度は100%
- カタ温度計はアルコール柱が38℃→35℃に下降する時間を測る。H = f / T(f=カタ係数)
- 時間が短いほどカタ冷却力は大きい。球部をそのままにすれば乾カタ、湿らせれば湿カタ
- 気流はカタ冷却力と気温から計算する。式はH/θ = 0.6を境に2つあるが、式自体は覚えなくてよい(国試では与えられる)
- 気流は0.3〜0.5m/秒が最適。気流が大きいほど感覚温度は下がる
次は感覚温度と補正感覚温度の違い|黒球温度計を使う理由に進みます。ここで出てきた4つの指標を、実際に組み合わせて使う回です。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。