
ここまでは「室内の空気をどう測るか」という話でした。今回は視点を変えて、室内環境が実際に起こす健康被害を3つ扱います。
- シックハウス症候群
- レジオネラ
- ハウスダスト
3つとも「建物の気密性が上がったこと」が背景にあるという共通点があります。そこを軸にすると、バラバラの知識に見えて実は一本につながります。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
シックハウス症候群
どういう現象か
建物の高気密化が進むと、内装材や建材から出たVOC(揮発性有機化合物)が室内にこもります。これによって起こる症状がシックハウス症候群です。
主な症状は次のとおりです。
- 目・鼻・喉の粘膜刺激
- めまい、吐き気、頭痛
新築の家でとくに問題になります。合板やベニヤのような建材が新しいうちは、接着剤由来のVOCがどんどん出てくるからです。現在の住宅に24時間換気の設置が求められるようになったのは、この問題への対応です。
室内濃度指針値:ここが最大の引っかけ
VOCによる被害が問題になったことを受けて、室内濃度指針値が策定されました。
この指針値の性格を、はっきり押さえておいてください。
生涯にわたって曝露されても健康への有害な影響がないと判断される量
= 症状が出る閾値ではない
「この濃度を超えたらシックハウス症候群になる」というラインではありません。十分に余裕を見た、安全側の値です。
第107回では「化学物質の室内濃度指針値は、それぞれの化学物質がシックハウス症候群を引き起こす閾値に不確実係数を適用して定められている」という選択肢が出ました。誤りです。出発点が「症状が出る閾値」ではない、というところが違います。
あわせて、TVOC(総揮発性有機化合物)の暫定目標値についても同じ年に問われています。こちらは国内の室内空気中VOC実態調査の結果から求められた値であって、毒性を根拠に定めたものではありません。「指針値もTVOCも、毒性からストレートに導いたものではない」とまとめて覚えておくと、両方まとめて処理できます。
指針値が定められている主な物質

国試によく出るものだけを抜き出すと、次のようになります。
| 物質名 | 用途・含まれるもの |
|---|---|
| ホルムアルデヒド | 接着剤、防腐剤 |
| アセトアルデヒド | 喫煙、接着剤、防カビ剤など(二日酔いのときに生成されるものと同じ) |
| トルエン・キシレン | 塗料などの希釈液 |
| スチレン | 断熱材(スチレンボードなど)、樹脂塗料 |
| パラジクロロベンゼン | 衣類の防虫剤 |
| クロルピリホス | シロアリ駆除剤(有機リン系殺虫剤) |
| ダイアジノン、フェノブカルブ | 殺虫剤 |
| フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP) | 可塑剤(壁紙や床材を柔らかくする) |
物質名と用途をセットで問われるので、「ホルムアルデヒド=接着剤」「パラジクロロベンゼン=防虫剤」「クロルピリホス=シロアリ」のように、代表的なものから一対一で結びつけていってください。
なおホルムアルデヒドは大気の環境基準には入っていません(室内濃度指針値の話であって、大気汚染の環境基準とは別枠です)。大気汚染の環境基準の記事の「その子が不幸にベットで痔」にホルムアルデヒドが入っていないのは、そのためです。この区別も第98回で問われています。
レジオネラ
どこにいるのか
レジオネラ属菌は、もともと河川や土壌に常在している菌です。自然界にいること自体は問題になりません。
問題になるのは、人工の温かい水まわりで大量に増えたときです。
- 空調冷却塔の循環冷却水
- 公衆浴場の循環式給湯設備
どちらも「温かい水が、換えられずにぐるぐる回っている」場所です。ここが増殖の温床になります。
どうやって感染するか
増殖したレジオネラ属菌がエアロゾル(細かい水しぶき)になり、それを吸入することで感染します。飲んでうつるのではなく、吸い込んでうつるのがポイントです。
レジオネラ症(肺炎)
細胞内寄生細菌であるため、細胞性免疫が低下した場合に肺炎を発症しやすい
ここが国試で最もよく問われる一文です。細胞内に潜む菌 → 抗体では対処しにくい → 細胞性免疫が主役 → 細胞性免疫が落ちている人が危ない、という流れで理解しておくと、そのまま説明できます。
実際に発症しやすいのは高齢者や乳児で、日和見感染の形をとります。第107回でも「レジオネラ属菌が混入したエアロゾルを吸入すると、日和見感染症として肺炎を引き起こすことがある」という記述が正しいものとして出ています。
対策
換水や洗浄により、環境を清浄に保つことです。冷却水や給湯設備の水をきちんと入れ替える——シンプルですが、これが本筋の対策になります。
ハウスダスト
原因はダニ
ハウスダストの原因は、ダニの死骸やフンです。
ここでも効いてくるのが気密性です。冷暖房が効いて気密性の高い家は、人間にとって快適であると同時に、ダニにとっても快適です。その結果、季節を問わずダニが増殖し、アレルギー症状が通年で起こるようになります。
対策はこまめな掃除
ヒョウヒダニは人のフケを食べます。つまり、掃除をさぼるほどエサが増えるということです。だから対策はこまめな掃除——という筋道で覚えると、単なる生活指導ではなく理屈のある対策として頭に残ります。
まとめ
- 3つとも背景にあるのは建物の高気密化
- シックハウス症候群は、高気密化 → 内装・建材から VOC 発生が原因。症状は目・鼻・喉の粘膜刺激、めまい、吐き気、頭痛
- 室内濃度指針値は「生涯曝露しても影響がない量」であって、症状が出る閾値ではない(最頻出)
- TVOCの暫定目標値は実態調査の結果から求めた値で、毒性を根拠にしたものではない
- 主な指針値対象物質:ホルムアルデヒド(接着剤)・トルエン/キシレン(塗料の希釈液)・スチレン(断熱材)・パラジクロロベンゼン(防虫剤)・クロルピリホス(シロアリ駆除剤)・フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(可塑剤)
- レジオネラは河川・土壌に常在。空調冷却塔の循環冷却水と公衆浴場の循環式給湯設備で増殖し、エアロゾルの吸入で感染する
- レジオネラ症(肺炎)は、細胞内寄生細菌のため細胞性免疫が低下した高齢者・乳児が日和見感染を起こしやすい。対策は換水・洗浄
- ハウスダストの原因はダニの死骸・フン。気密性と冷暖房で季節を問わず増殖する。ヒョウヒダニはフケを食べるのでこまめな掃除が対策
次は必要換気量と換気回数の計算|CO2濃度5%・0.04%・0.1%の使い方です。室内環境の最後は計算問題の回になります。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
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