
ガス状物質の最後、光化学オキシダントです。ここは大気環境の中でいちばん反応の流れが複雑ですが、裏を返せば流れさえ追えれば確実に得点できる場所でもあります。
この単元の核は、「NOxだけならオゾンは溜まらない。VOCが入ると溜まる」という一点です。なぜそうなるのかを、三角形のサイクルで追いかけていきましょう。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
まず押さえる3つの事実
環境基準達成率はほぼ0%
これは驚かれるかもしれませんが、光化学オキシダントの環境基準達成率は、ほぼ0%です。
大気汚染の環境基準の対象物質(語呂「その子が不幸にベットで痔」の「幸」)でありながら、ほとんど達成できていません。他の物質が軒並み改善しているなかで、ここだけが取り残されている——という対比で覚えると印象に残ります。
発生条件
日差しが強く、気温が高く、風が弱い日に発生します。
名前に「光化学」とあるとおり、反応の引き金は紫外線です。だから日差しが必要。そして風が弱いと拡散せずに溜まります。夏の暑い日に光化学スモッグ注意報が出るのは、この条件がそろうからです。
健康影響
目の刺激、呼吸困難などが起こります。
非メタン炭化水素(VOC)という脇役
本題に入る前に、もう一人の登場人物を紹介しておきます。非メタン炭化水素です。
- VOC(揮発性有機化合物)対策としても規制されている
- 光化学オキシダントの原因になる
これ自体が単独で大きく問われることは少ないのですが、光化学オキシダントの話に必ず出てくるので、セットで覚えてください。この記事では以降VOCと呼びます。
生成機構:まず「三角形のサイクル」を理解する

車から出るサーマルNOxによって、大気中にNO₂があるところから始めます。
ステップ1:NO₂が光で分解する
NO₂ –(紫外線)–> NO + O
NO₂が紫外線を受けて、一酸化窒素と酸素原子に分かれます。
ステップ2:酸素原子がオゾンを作る
O + O₂ → O₃
できた酸素原子が、空気中の酸素分子とくっついてオゾンになります。
ステップ3:オゾンがNOと反応して元に戻る
O₃ + NO → NO₂ + O₂
ここが重要です。できたオゾンは、ステップ1で一緒にできたNOと反応して、NO₂に戻ってしまうのです。
結論:このままではオゾンは溜まらない
ステップ1→2→3で、NO₂ → NO → NO₂ と一周して元に戻ります。三角形のサイクルですね。オゾンはできては消え、できては消えを繰り返すので、濃度は大きく上がりません。
オゾン自体に刺激性はありますが、このサイクルが回っているかぎり深刻な事態にはならない——ここまでが前半です。
VOCが入ると、サイクルが壊れる
ここからが本題です。この三角形にVOCが加わると、話がまったく変わります。
ステップ4:VOCがラジカルになる
VOCからアルキルペルオキシラジカル(ROO・)が生成します。
ステップ5:ラジカルがNOを横取りする
ROO・ + NO → (NO₂を生成)
ここが崩壊の瞬間です。ROO・が、オゾンより先にNOを酸化してNO₂に変えてしまうのです。
何が起きるか、順を追って考えてみてください。
- NOがROO・に横取りされるので、ステップ3(O₃ + NO → NO₂)が進まなくなる
- オゾンを消費する相手がいなくなり、オゾンが消えずに溜まっていく
- 同時にNO₂は増え続けるので、ステップ1・2がさらに進み、オゾンがどんどん作られる
作られる一方で消されない。だからオゾンが異常に蓄積するわけです。「VOCがNOを横取りして、三角形のサイクルを壊す」——この一文がこの単元の核心です。
光化学オキシダントの正体は3つ
VOCから始まる反応は、オゾンを溜めるだけでは終わりません。
ステップ6:アルデヒドができる
ROO・が分解してRO・となり、さらにアルデヒドが生じます。
ステップ7:PANができる
アルデヒドに酸素やヒドロキシラジカル(・OH)が加わると、アシルペルオキシラジカル(RCOO・)になります。これは酸素を多く持つ反応性の高い分子で、NO₂と結合して
RCOOONO₂ = ペルオキシアセチルナイトレート(PAN)
ができます。
まとめると、光化学オキシダントと呼ばれるのは次の3つです。
| 物質 | どこでできたか |
|---|---|
| オゾン(O₃) | 三角形のサイクルが壊れて蓄積 |
| アルデヒド | ROO・ → RO・ から生成 |
| PAN(ペルオキシアセチルナイトレート) | アシルペルオキシラジカル + NO₂ |
「光化学オキシダント=オゾン」とだけ覚えていると取りこぼします。オゾン・アルデヒド・PANの3つで押さえてください。
大気汚染物質と測定法の語呂
ここまでで主なガス状物質が出そろったので、測定法をまとめて覚えてしまいましょう。

「野ザル ピカチュウ 戸せき そうどう」
| 語呂 | 物質 | 測定法 |
|---|---|---|
| 野ザル | NOx | ザルツマン法 |
| ピカチュウ | 光化学オキシダント(ピカ=光化学) | 中性ヨウ化カリウム法(チュウ=中性) |
| 戸せき | CO(戸=CO) | 赤外線吸光法(せき=赤外線) |
| そうどう | SOx(そう=SOx) | 溶液導電率法(どう=導電率) |
物質名と測定法が交互に入っている、よくできた語呂です。測定法は単独で問われることが多いので、ここだけは声に出して覚えてしまってください。
まとめ
- 光化学オキシダントの環境基準達成率はほぼ0%。発生条件は日差しが強く、気温が高く、風が弱い日。影響は目の刺激、呼吸困難
- 非メタン炭化水素(VOC)はVOC対策として規制され、光化学オキシダントの原因になる
- 三角形のサイクル:NO₂ –光–> NO + O、O + O₂ → O₃、O₃ + NO → NO₂。これだけならオゾンは溜まらない
- VOCから生じたROO・がNOを横取りしてNO₂に変えるため、オゾンを消費する相手がいなくなりオゾンが蓄積する
- 光化学オキシダント = オゾン + アルデヒド + PAN(ペルオキシアセチルナイトレート)
- 測定法の語呂は「野ザル ピカチュウ 戸せき そうどう」=NOxザルツマン法、光化学オキシダント中性ヨウ化カリウム法、CO赤外線吸光法、SOx溶液導電率法
次は粒子状物質|SPMとPM2.5の違いとアスベストを読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
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