
水環境の最後は水質汚濁です。上水・下水が「人が使う水」の話だったのに対し、ここは自然の水そのものをどう守るかという話になります。
この単元は法律が中心で、覚えることは多いのですが、出題のツボは実はかなり限られています。とくに「人の健康の保護」には地下水が入るが、「生活環境の保全」には入らないという一点は、繰り返し問われる最頻出ポイントです。ここを軸に整理していきましょう。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
中心にあるのは環境基本法
水質汚濁に関わる法律はいくつかありますが、メインは環境基本法です。この中に「水質汚濁に係る環境基準」が定められています。
ここで先に、重要な性格づけをひとつ。
環境基準は、人と環境に対する改善目標であって、規制基準ではありません。
「基準」という名前がついているので取り締まりのためのものだと思いがちですが、そうではなく目標です。実際に排出を取り締まるのは、後述する水質汚濁防止法などの下位の法律の役割になります。この区別は他の分野(大気・土壌・騒音)でも共通して問われるので、ここで身につけておいてください。
そして、水質汚濁に係る環境基準は次の2つに大きく分かれます。
- 人の健康の保護に関する環境基準
- 生活環境の保全に関する環境基準
最頻出:対象水域に地下水が入るか入らないか
| 対象となる水域 | |
|---|---|
| 人の健康の保護に関する環境基準 | 河川、湖沼、海域、地下水 |
| 生活環境の保全に関する環境基準 | 河川、湖沼、海域(地下水は入らない) |
人の健康の保護には地下水が含まれ、生活環境の保全には含まれない。
理由を考えると納得できます。地下水は汲み上げれば飲み水になるので、人の健康には直接関わってきます。一方、生活環境の保全というのは川や湖や海といった、目に見える環境を守る話なので、地下水は対象になりません。
ここは本当によく出るので、表ごと覚えてしまってください。
人の健康の保護に関する環境基準の項目
項目は2種類に分かれます。
検出されないこと
- 全シアン
- アルキル水銀
- PCB
この3つは「検出されないこと」が基準です。アルキル水銀は水俣病、PCBはカネミ油症を思い出せば、なぜゼロでなければならないかは説明不要でしょう。
基準値があるもの
トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素、ジクロロメタン
水質基準の記事にも出てきた、ハロゲン化炭化水素の4点セットです。肝臓に悪いグループとして、衛生では何度も顔を出します。ここでもまた出てきた、と思えれば十分です。
生活環境の保全に関する環境基準の項目
ここは河川・湖沼・海域で項目に○×がつく表が問われます。丸暗記ではなく、河川と閉鎖性水域(湖沼・海域)で分けるという一本の切れ目を入れてから考えると整理できます。
河川は流れているので、汚れも栄養も溜まりにくい。一方、湖沼と海域は流れが緩やかな閉鎖性水域で、溜まりやすいという性質があります。
| 項目 | 河川 | 湖沼 | 海域 |
|---|---|---|---|
| pH、DO、大腸菌群数、亜鉛 | ○ | ○ | ○ |
| SS(浮遊物質) | ○ | ○ | × |
| n-ヘキサン抽出物質 | × | × | ○ |
| BOD | ○ | × | × |
| COD | × | ○ | ○ |
| 全窒素・全リン | × | ○ | ○ |
それぞれの理由を押さえておけば、表は再現できます。
SS(浮遊物質)が海域では×の理由
浮遊物質が増えて川や湖の透明性が下がると、光合成が減って悪臭につながります。一方、海はもともと深く、光が届かない場所も多いので、わざわざSSを規制する意味が薄い、と考えると納得しやすいと思います。
n-ヘキサン抽出物質が海域だけ○の理由
n-ヘキサン抽出物質とは油汚れのことです。タンカーからの重油流出で、海鳥が油まみれになっている写真を見たことがあると思います。海洋汚染の指標なので、海域に設定されています。
BODが河川、CODが湖沼・海域の理由
ここは次の記事(BODとCODの違い)の主題になりますが、先に結論だけ。BODは20℃・5日間・暗所で測定するので、植物プランクトンが多い閉鎖性水域だと、酸素の消費がプランクトンの呼吸由来なのか有機物の分解由来なのかが分からなくなります。だから閉鎖性水域ではBODは測れず、代わりにCODを使うのです。
全窒素・全リンが湖沼・海域だけの理由
これは富栄養化の指標です。閉鎖性水域は栄養素が溜まりやすいので、ここを見張る必要があります。逆に河川は流れているので溜まりにくく、測定は不要とされています。
関連する法律を3つ押さえる
環境基本法の環境基準が「目標」だとすれば、実際に規制をかけるのは別の法律です。
| 法律 | 規制の対象 | ポイント |
|---|---|---|
| 水質汚濁防止法 | 工場 | 公共用水域に排出される工場排水に排水基準がある。健康に係る有害物質(アルキル水銀化合物は検出されないこと)と、生活環境に係る汚染状態(pHなど)の2種類 |
| 下水道法 | 下水処理場 | 下水処理場から公共水域へ放流する水に放流基準がある |
| ダイオキシン類対策特別措置法 | — | 水質の汚濁に係る環境基準を設定している |
水質汚濁防止法は工場に対して、下水道法は下水処理場に対して。 この対応関係だけでも押さえておくと、選択肢を切れる場面が増えます。
まとめ
- 水質汚濁のメインは環境基本法の「水質汚濁に係る環境基準」。これは改善目標であって規制基準ではない
- 人の健康の保護の対象は河川・湖沼・海域・地下水、生活環境の保全の対象は河川・湖沼・海域で地下水は入らない(最頻出)
- 人の健康の保護で検出されないことは全シアン・アルキル水銀・PCBの3つ
- 生活環境の保全は河川と閉鎖性水域(湖沼・海域)で分けて考える。SSは海域だけ×、n-ヘキサン抽出物質(油汚れ)は海域だけ○、BODは河川のみ、CODと全窒素・全リンは湖沼・海域
- 実際の規制は、水質汚濁防止法(工場の排水基準)と下水道法(下水処理場の放流基準)が担う
次はBODとCODの違い|DO・ウィンクラー法と測定法3種の使い分けを読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。