
前の記事で、環境基準の項目が河川と閉鎖性水域で分かれることを見ました。その中でも一番よく出るのが、河川はBOD、湖沼・海域はCODという使い分けです。今回はその理由と、測定法を扱います。
DO・BOD・CODは名前が似ていて混ざりやすいのですが、水の中の酸素をめぐる1つのストーリーとして捉えると、全部つながります。まずはそのストーリーから入りましょう。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
溶存酸素消費曲線:自浄作用を1枚のグラフで

縦軸に酸素量、横軸に時間をとったグラフです。川に汚濁物質が流れ込んだあと、何が起きるかを表しています。
- 汚濁物質が流入する
- 微生物が好気的に分解を始める。酸素を使うので、水中のDO(溶存酸素量)が一気に減る
- 分解に必要な酸素の量、つまりBODはこの時点が最大
- あらかた分解し終わると、BODはどんどん減っていく
- 水面からの酸素供給や水中の植物による酸素供給で、DOは回復していく
DOとBODは、鏡のように逆向きに動く——これが自浄作用のイメージです。DOが落ち込んでいる幅が「O₂不足」の量にあたります。
このグラフが頭に入っていると、次のDO・BOD・CODの定義がすんなり入ってきます。
DO(溶存酸素量):ウィンクラー法
DOは水に溶けている酸素の量です。最大値が酸素飽和量にあたります。
押さえておきたい性質として、DOは水温で変わります。水が冷たいほど溶存酸素は多くなります。夏場に魚が水面で口をパクパクさせているのは、水温が上がって酸素が減っているためです。
ウィンクラー法は2段階

DOの測定はウィンクラー法で行います。2段階に分かれていることを押さえてください。
第1段階:酸素の固定
MnSO₄ + 2KOH → Mn(OH)₂ + K₂SO₄
Mn(OH)₂ + 1/2 O₂ → H₂MnO₃(亜マンガン酸、褐色沈殿)
溶存酸素はそのままにしておくと逃げていってしまうので、まず硫酸マンガンを使って固定します。酸素と反応して亜マンガン酸(褐色沈殿)ができるので、この量が分かれば酸素の量が分かる、という仕掛けです。
第2段階:ヨウ素滴定
H₂MnO₃ + 2KI + 2H₂SO₄ → MnSO₄ + K₂SO₄ + 3H₂O + I₂
I₂ + 2Na₂S₂O₃ → 2NaI + Na₂S₄O₆(デンプン指示薬)
亜マンガン酸は酸化剤なので、ヨウ化物イオンを酸化してI₂を生じます。このI₂をチオ硫酸ナトリウムで滴定すれば、もとの酸素量が求められます。
「硫酸マンガンで酸素固定(褐色沈殿)→ヨウ素を遊離させてチオ硫酸ナトリウムで滴定」という2段構えで覚えてください。
BOD(生物化学的酸素要求量)

BODは、微生物が有機物を分解するときに消費する酸素の量です。単位は溶存酸素のmg/L。
測定条件は必ず覚える
20℃・5日間・暗所で消費される溶存酸素量を測定します。
この3つの条件は必出です。暗所で行うのは、光合成による酸素の発生を防ぐためです。
測定の中身はシンプルで、最初のDO(D₁)と5日後のDO(D₂)の差をとるだけです。
BOD = D₁ − D₂(希釈した場合は、この値に希釈倍数を掛ける)
BODが河川にしか使えない理由
暗所に置いて微生物に汚れを分解させ、DOの差を求めているのがBODです。ということは、植物プランクトンが多い湖沼・海域では、DOの変化が
- プランクトンの呼吸によるものなのか
- 有機物の分解によるものなのか
区別がつかなくなり、誤差が出てしまいます。だからBODは河川にのみ適用されるのです。
フミン質はBODに反映されない
もうひとつの頻出ポイントです。フミン質は、落ち葉などが分解されたあとに残る、微生物がこれ以上分解できないカスでした(高度処理の記事参照)。
微生物が分解できない以上、酸素も消費されません。したがってフミン質はBODには反映されません。「有機物なのにBODに出ない」という形で問われます。
COD(化学的酸素要求量)
CODは、有機物が酸化剤で酸化されるときの酸素消費量をmg/Lで表したものです。有機物が多いほどCODは大きくなります。
BODが測れない湖沼・海域では、こちらを使います。性質として、
- BODより簡単に測定できる
- ただしBODとの比例関係はない
この2つは押さえておいてください。「簡単だから比例する」ではありません。
測定法3種と酸化力の順番
ここが出題の中心です。酸化力の順番と塩化物イオン(Cl⁻)の影響がセットで問われます。
CODの測定法は3つあり、酸化力が強い順に二クロム酸法、酸性高温過マンガン酸法、アルカリ性過マンガン酸法です。上の2つは塩化物イオンに邪魔されるので、銀の塩(二クロム酸法は硫酸銀、酸性高温法は硝酸銀)を加えてAgClとして沈めてから測ります。酸化力がいちばん弱いアルカリ性法だけは塩化物イオンに左右されないので、そのまま海水に使えます。工場排水のJIS法に採られているのは酸性高温過マンガン酸法です。
なぜCl⁻が問題になるのか
CODを測るのは湖沼・海域です。海水や汽水には塩化物イオンが大量に含まれていて、これが酸化剤と反応して測定を妨害してしまいます。
どうやって妨害を除くのか
大学受験の化学で、Ag⁺とハロゲン化物イオンが沈殿することを習ったと思います。あれと同じで、銀でCl⁻を沈殿させて(AgCl↓)取り除くわけです。二クロム酸法はAg₂SO₄、酸性高温過マンガン酸法はAgNO₃と、使う試薬が違うだけで発想は同じです。
JIS法が酸性高温過マンガン酸法という点も要チェックです。前の記事で見た水質汚濁防止法が工場排水に排水基準を定めていましたが、その試験はこの方法で行われます。
汚濁負荷量:濃度に量を掛ける

最後にもうひとつ。汚濁負荷量とは、汚濁を微生物が処理する際に使う酸素の総量のことです。
汚濁負荷量(mg)= BOD(mg/L) × 水量(L)
BODはあくまで濃度なので、それに「そこにどれだけの水があるのか」を掛けてやると、総量としての汚濁負荷量が出ます。濃度と総量の区別を問う形で出題されます。
まとめ
- 溶存酸素消費曲線では、汚濁物質の流入でDOが急減しBODが最大になり、分解が進むとBODが減ってDOが回復する(自浄作用)
- DOは水に溶けている酸素の量。水が冷たいほど多い。測定はウィンクラー法で、硫酸マンガンで酸素を固定(亜マンガン酸・褐色沈殿)→ヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定の2段階
- BODは20℃・5日間・暗所で消費される溶存酸素量。BOD = D₁ − D₂
- BODは河川のみ。植物プランクトンが多い閉鎖性水域では光合成で誤差が出る。フミン質はBODに反映されない
- CODは有機物が酸化剤で酸化されるときの酸素消費量。BODより簡単だが比例関係はない
- COD測定法の酸化力は二クロム酸法 > 酸性高温過マンガン酸法 > アルカリ性過マンガン酸法。前2者は銀でCl⁻を沈殿除去、アルカリ性過マンガン酸法はCl⁻の影響を受けないので海水に使う
- 酸性高温過マンガン酸法は工場排水試験方法のJIS法
- 汚濁負荷量 = BOD × 水量
次は富栄養化と水の華・赤潮の違い|ミクロシスチンとジェオスミンを読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
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