
Ames試験は遺伝子の変異(点突然変異)を見る試験でした。ところが、DNAの傷つきかたはそれだけではありません。染色体がまるごと切れることもあれば、DNA鎖が切断されることもある。だから試験も何種類か用意されています。
ここで覚えるのは物質名ではなく、「どの試験が、何を、どんな材料で見ているか」の対応です。国試はこの対応を総当たりで入れ替えて出してきます。細菌の試験を「哺乳類細胞を用いた」と書いたり、染色体異常を見る試験を「点突然変異を検出する」と書いたり。だから対応表を1枚作って、そこに戻るのがいちばん確実です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
小核試験|染色体異常誘発性を見る

いちばん大事なのは、小核試験=染色体異常誘発性の検出という1対1対応です。これさえ覚えていればほとんどの選択肢は切れます。ただ、丸暗記が苦手なら中身を見ておくと忘れません。
図のとおりです。
- 化学物質によって染色体が分断される
- 細胞分裂のとき、セントロメア(動原体)を持っている本体は紡錘糸に引かれて両極へ移動する
- ところが、ちぎれた断片には紡錘糸がつかないので、取り残される
- 分裂が終わると、その取り残された断片のまわりに核膜ができて、小さな核になる
これが小核(micronucleus)です。顕微鏡で小核を持つ細胞を数えれば、染色体が切れたかどうかがわかる——だから染色体異常誘発性の検出になります。
使う材料はげっ歯類の赤血球です。赤血球(正確には多染性赤血球)は成熟の過程で核を放出するので、核が抜けたあとに小核だけが残っていれば非常に見つけやすい。これが赤血球を使う理由です。
in vivo と in vitro の両方があります。げっ歯類に投与して骨髄や末梢血の赤血球を見るのが in vivo 小核試験、培養した哺乳類細胞を使うのが in vitro 小核試験。国試ではどちらの表現も出ます。どちらにせよ「細菌」ではありません。
recアッセイとpolアッセイ|DNA修復能を欠いた菌と比べる

この2つは考え方が同じなので、まとめて理解します。
recアッセイが使うのは枯草菌です。
- rec⁺株……野生型。DNA修復酵素を持っている
- rec⁻株……DNA修復酵素を欠損させた株
手順は、被検体を染み込ませたろ紙を寒天培地に置き、そこから2つの株を線状に塗って、どこまで生えるかを見るというものです。
- 被検体にDNAを傷つける作用があれば、修復できないrec⁻株のほうが、ろ紙から遠くまで死ぬ
- rec⁺株は修復できるので、ろ紙の近くまで生き残れる
図の「生存できない長さを比べる」というのがこれです。2本の生育阻止帯の長さに差が出れば、被検体にDNA損傷性があると判定します。
polアッセイは、大腸菌のDNAポリメラーゼ(polA)を欠損させた株を使う、同じ考え方の試験です。修復に必要な酵素を欠いた株と、持っている株を比べる——そこは共通です。
recアッセイは、過去15年(第97〜111回)の国試に1度も登場していません。マインドマップには載っていますが、優先順位は下げて構いません。時間がないときは「DNA修復酵素を欠損させた枯草菌を使う」の一行だけ拾って先に進んでください。polアッセイも同様です。
コメットアッセイ|DNA鎖の切断を電気泳動で見る
コメットアッセイは、細胞をアガロースゲルに埋めて電気泳動する試験です。
- DNAが切断されていなければ、分子が大きいのでほとんど動かない
- DNAが切断されていれば、断片が陽極側へ流れ出す
流れ出した断片が尾を引いて、彗星(comet)のように見えることからこの名前がついています。尾が長いほどDNA損傷が大きい、という読み方です。使うのは哺乳類細胞です。
「移動度が小さくなる」は誤り。 第110回にそのままの誤り選択肢が出ました。切断されたDNAほど速く動く(移動度が大きくなる)のが原理です。彗星の尾が伸びる絵を思い浮かべれば逆にはなりません。
不定期DNA合成(UDS)試験|修復が起きたかどうかを見る
不定期DNA合成試験(UDS: Unscheduled DNA Synthesis)は、少し発想が違います。
ふつう、DNA合成はS期という決まった時期にしか起こりません。ところがDNAが傷つくと、S期以外のタイミングでも修復のための合成が始まります。この「予定外(unscheduled)のDNA合成」を測れば、DNAが損傷して修復が働いたことがわかる、という試験です。
- 材料は哺乳類細胞
- 見ているのは突然変異そのものではなく、DNAの修復合成
「突然変異を評価する方法」と書かれていたら誤りです。第107回にその誤り選択肢が出ました。UDSが見ているのは修復です。
マウスリンフォーマTK試験|遺伝子突然変異を哺乳類細胞で見る
マインドマップには載っていませんが、直近の国試(第107回・第110回)に2回続けて出ているので、名前だけ押さえておきます。
マウスリンフォーマ細胞のTK(チミジンキナーゼ)遺伝子に突然変異が起きると、特定の薬剤の入った培地でも生き残れるようになる——それをコロニーができることで検出する試験です。哺乳類細胞を用いた遺伝子突然変異試験に分類されます。
- 「生殖細胞の遺伝毒性を評価する」は誤り(第107回)。体細胞株です
- 「突然変異によりコロニーが形成されなくなることを利用する」も誤り(第110回)。逆で、変異した細胞がコロニーを作るのを数えます
対応表でまとめる
ここまでを1枚にします。これを覚えるのがこの記事の目的です。
| 試験 | 材料 | 何を見ているか |
|---|---|---|
| Ames試験(復帰突然変異試験) | 細菌(ネズミチフス菌TA株) | 遺伝子突然変異(塩基対置換型・フレームシフト型) |
| recアッセイ | 細菌(枯草菌 rec⁺/rec⁻) | DNA損傷性(修復能の差) |
| polアッセイ | 細菌(大腸菌 polA欠損株) | DNA損傷性(同上) |
| 小核試験 | げっ歯類の赤血球/哺乳類細胞 | 染色体異常誘発性 |
| コメットアッセイ | 哺乳類細胞 | DNA鎖の切断 |
| 不定期DNA合成(UDS)試験 | 哺乳類細胞 | DNAの修復合成 |
| マウスリンフォーマTK試験 | 哺乳類細胞 | 遺伝子突然変異 |
縦に読むと、細菌を使うのは上の3つだけです。これがいちばん出題される切り口で、「コメットアッセイは細菌を用いて」「小核試験は細菌を用いて」という誤り選択肢が繰り返し作られています。
そしてもうひとつ。遺伝毒性は1つの試験では判定しません。Ames試験(細菌・遺伝子突然変異)に加えて、哺乳類細胞や動物を使う試験を組み合わせて評価するのが原則です。見ている傷の種類が違うから——という、この対応表そのものが理由になっています。
国試ではこう問われる
小核試験4回・コメットアッセイ3回・不定期DNA合成試験3回(過去15年)。直近5年でもそれぞれ2回ずつ出ており、Ames試験以外の試験のほうが、いまは出題が活発です。
- 第102回 問132「化学物質の遺伝毒性試験に関する記述のうち、正しいのはどれか」。「化学物質による染色体切断後の修復の度合いを観察する試験として、特定の細菌を用いたコメットアッセイがある」(誤り。コメットアッセイは哺乳類細胞、しかも見ているのは修復ではなく切断)、「ほ乳動物細胞を用いた in vitro 小核試験では、細胞分裂が阻害されて生じる小核を検出する」、「遺伝毒性の有無は、Ames試験に加え、げっ歯類又はほ乳動物細胞を用いた試験を組み合せて評価される」。
- 第107回 問137「In vitro 遺伝毒性試験に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ」。不定期DNA合成試験を「突然変異を評価する方法」とする誤り、マウスリンフォーマTK試験を「生殖細胞遺伝毒性」とする誤り、小核試験を「細菌を用いて」とする誤りが並び、正しいのはAmes試験(細菌・復帰突然変異)とコメットアッセイ(哺乳類細胞・DNA鎖の切断)の2つでした。対応表の3か所が同時に狙われた形です。
- 第110回 問134「化学物質の in vitro 遺伝毒性試験に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ」。小核試験を「塩基対置換型の点突然変異を検出する」とする誤り、コメットアッセイを「移動度が小さくなる」とする誤り、マウスリンフォーマTK試験を「コロニーが形成されなくなる」とする誤り。正しいのは復帰突然変異試験(アミノ酸非要求性への復帰)と不定期DNA合成試験(損傷したDNAの修復合成を測定する)です。
- 第106回 問133「毒性試験に関する記述のうち、誤っているのはどれか」の選択肢に「遺伝毒性試験のうち、小核試験では染色体異常を検出する」が正しい記述として入っています。小核試験=染色体異常は、この形でも出ます。
第107回と第110回は、設問の作りがほぼ同じです。「in vitro 遺伝毒性試験」で5つの試験名を並べ、材料か目的のどちらかを入れ替えて誤りを作る。対応表の2列(材料・何を見るか)を両方言えるようにしておけば、両方とも解けます。
まとめ
- 小核試験=染色体異常誘発性。分断された染色体が紡錘糸につかまれず取り残され、核膜ができて小核になる。材料はげっ歯類の赤血球(in vitro 版は哺乳類細胞)
- recアッセイ=DNA修復酵素を欠損させた枯草菌(rec⁻)と野生型(rec⁺)で、生育阻止帯の長さの差を見る。polアッセイは大腸菌のDNAポリメラーゼ欠損株を使う同型の試験
- コメットアッセイ=哺乳類細胞をアガロースゲルに埋めて電気泳動。切断されたDNAほど移動度が大きく、彗星の尾のように見える
- 不定期DNA合成(UDS)試験=S期以外で起こる修復合成を測る。突然変異を見る試験ではない
- マウスリンフォーマTK試験=哺乳類細胞の遺伝子突然変異を見る。マインドマップ未収録だが直近2回出題
- 細菌を使うのはAmes・rec・polの3つだけ。残りは哺乳類細胞(または動物)
- 遺伝毒性は1つの試験で判定しない。見ている傷の種類が違うので組み合わせて評価する
これで「化学物質と発がん」の単元は終わりです。次は、発がん以外の毒性——標的臓器ごとの毒性と重金属に進みます。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。