
抱合反応の最後、グルタチオン抱合です。
3パターンのうちの「悪に惹かれるパターン」。ほかの抱合と違って、供与体も異物も活性化されません。そして、体にとっていちばん危険なもの──エポキシドとハロゲン化合物──を引き受ける、最後の砦のような反応です。
エポキシ化と酸化的脱硫で「エポキシドは反応性が高くてDNAに結合してしまう」と書きました。その危険物を、DNAより先に捕まえてくれるのがグルタチオンです。
あわせて、この記事では残りのメチル抱合とロダン合成、そして腸内細菌による脱抱合も扱って、第Ⅱ相反応を締めます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
グルタチオンとは|3つのアミノ酸でできたトリペプチド

グルタチオンは、3つのアミノ酸がつながったトリペプチドです。
グルタミン酸 ― システイン ― グリシン
真ん中がシステインで、その左手にグルタミン酸、右手にグリシン。この並びを絵で覚えてください。あとの反応が全部この図で説明できます。
反応の主役はシステインの SH基(チオール基)です。硫黄は電子を出しやすく、求核性が高い。だから、電子が足りなくて反応相手を探している「たちの悪い」化合物に、真っ先に飛びつけます。
なぜ「たちの悪いもの」にくっつくのか
グルタチオン抱合の基質は、こうです。
- エポキシド
- ハロゲン化合物
- ニトロ基
どれも電子密度が偏っている、つまり求電子的で反応性が高いものばかりです。講義の比喩でいえば「お金(官能基)を何も持っていないのに、やたらと反応してくる、たちの悪い男」。
ふつうの抱合は「OHやNH₂という持ち物を持っている相手」を選びますが、グルタチオン抱合だけは持ち物ではなく、反応性の高さで相手を選びます。だからこそ、ほかの抱合が手を出せない危険物を処理できるわけです。
反応を触媒する酵素はグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)。細胞質にあります。「S-」がついているのは、システインのS(硫黄)に転移させるという意味です。
メルカプツール酸になるまで「2つのグが取れる」
グルタチオン抱合体は、そのまま尿に出るわけではありません。3段階で加工されてから排泄されます。
① グルタチオン抱合 グルタチオンのSHが異物(R-X)を攻撃し、Xが外れてグルタチオン抱合体ができる(触媒:GST)。
② 加水分解 → システイン抱合体 ここで語呂です。
2つの「グ」が取れる
グルタミン酸とグリシンが加水分解で外れて、真ん中のシステイン抱合体だけが残る
③ N-アセチル化 → メルカプツール酸 残ったシステインのアミノ基に、N-アセチルトランスフェラーゼがアセチルCoAからアセチル基を転移する。これで完成。
メルカプツール酸 = N-アセチルシステイン抱合体
これが尿中に排泄されます。
ここの区切りに注意
国試的にいちばん狙われるのは、どこまでがグルタチオン抱合で、どこからがアセチル抱合かという区切りです。
- ①と②までが グルタチオン抱合
- ③のN-アセチル化は アセチル抱合
つまり、メルカプツール酸の生成にはアセチル抱合が関わっている。2つの抱合が連続して1つの排泄物を作る、珍しい例です。
その他の抱合|メチル抱合とロダン合成
講義では最後に、細かい2つを「その他」としてまとめています。
メチル抱合

- 供与体:S-アデノシルメチオニン(SAM)……ATPとメチオニンから作られるメチル基供与体
- 酵素:メチルトランスフェラーゼ
- 例:ノルアドレナリンなどにCH₃がつく
そしてメチル抱合も水溶性が下がります。第Ⅱ相(抱合)反応の全体像で触れた例外2つ、アセチル抱合とメチル抱合のうちのもう片方がこれです。
ロダン合成(シアンの解毒)

シアン化物イオン(CN⁻) →(ロダネーゼ)→ チオシアン酸イオン(SCN⁻)
シアン中毒の解毒経路です。ロダネーゼという酵素が、チオ硫酸などから硫黄を持ってきてCN⁻にくっつけ、毒性の低いチオシアンに変えます。
シアン中毒の治療でチオ硫酸ナトリウムを投与するのは、この反応の材料(硫黄)を足してやるためです。中毒と処置の単元で、亜硝酸ナトリウムとセットでもう一度出てきます。
抱合体は腸内細菌に切られる(腸肝循環)

第Ⅱ相反応の締めくくりとして、せっかく作った抱合体が腸で元に戻ってしまう話をしておきます。
- 肝臓でグルクロン酸抱合体(R-O-GA)ができる。水溶性が高い
- 胆汁中に排泄され、腸管に出る
- 腸内細菌が出すβ-グルクロニダーゼ(加水分解酵素)が抱合体を切る=脱抱合
- 元の R-OH に戻ると脂溶性なので、再吸収される
- 門脈を通って肝臓に戻り、また抱合される……以下くりかえし
これが腸肝循環です。薬が体内にとどまる時間が延びる原因になります。腸管内が嫌気的で、腸内細菌が還元と加水分解を得意とする──第Ⅰ相の還元反応で出てきた話が、ここでも効いています。
腸肝循環を受けやすい薬や、抗菌薬を併用したときに腸内細菌が減って腸肝循環が止まる話は、薬剤の胆汁中排泄と腸肝循環の仕組みで詳しく扱っています。
国試ではこう問われる
- 第97回 問20「異物代謝において、メルカプツール酸生成に関与する酵素はどれか」。正答は2「グルタチオンS-トランスフェラーゼ」。選択肢にはカテコールO-メチルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、ロダネーゼが並びます。この記事で出てきた酵素がほぼ全部、選択肢として入っているのがわかります。
- 第101回 問22「ヒトにおける抱合反応に利用されないのはどれか」。正答は3「メルカプツール酸」。メルカプツール酸は供与体ではなく最終生成物、という区別が問われました。
- 第102回 問130は「グルタチオン抱合に関する記述のうち、正しいのはどれか」で、まるごと1問がグルタチオン抱合です。選択肢には「基質の求核性部位にグルタチオンが結合する」「この反応を触媒する酵素はグルタチオンペルオキシダーゼである」「メルカプツール酸の生成にはアセチル抱合が関与する」「アセトアミノフェンの代謝的活性化に関与する」「1,2-ジブロモエタンの代謝的活性化に関与する」が並びました。
第102回 問130の選択肢は、そのままこの単元のチェックリストとして使えます。①結合するのはグルタチオンが求核剤として求電子的な部位へ(選択肢の「求核性部位」は逆向きの表現です)、②触媒はグルタチオンS-トランスフェラーゼであってペルオキシダーゼではない(ペルオキシダーゼは活性酸素の処理側)、③メルカプツール酸の生成にアセチル抱合が関わるのはこの記事で見たとおり──と、1つずつ判定できるようにしておきましょう。
- 第103回 問131の選択肢にも、腸内細菌のβ-グルクロニダーゼによる脱抱合と再吸収が出ています。「小腸上皮細胞のβ-グルクロニダーゼ」ではなく「腸内細菌の」、というのが引っかけどころです。
まとめ
- グルタチオンはグルタミン酸-システイン-グリシンのトリペプチド。働くのはシステインのSH
- 基質はエポキシド・ハロゲン化合物など、電子密度が偏った反応性の高いもの。供与体も異物も活性化されない
- 酵素はグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、細胞質
- 2つの「グ」(グルタミン酸・グリシン)が取れてシステイン抱合体になり、N-アセチル化されてメルカプツール酸(N-アセチルシステイン抱合体)として尿中排泄
- N-アセチル化の部分はアセチル抱合。2つの抱合が連続している
- メチル抱合(供与体:S-アデノシルメチオニン)も水溶性が下がる。ロダン合成はCN⁻→SCN⁻(酵素:ロダネーゼ)
- 抱合体は腸内細菌のβ-グルクロニダーゼで脱抱合され、再吸収される=腸肝循環
これで第Ⅰ相反応・第Ⅱ相反応がひととおり終わりました。次は、ここで学んだ代謝的活性化が実際に何を作り出すのか──化学物質と発がんの単元に進みます。
次は化学発がんの仕組み|イニシエーション・プロモーションと一次/二次発がん物質を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
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