
排泄のもう一本の道、胆汁中排泄です。腎排泄が「尿から出す」ルートなら、こちらは肝臓で胆汁に流し込み、腸管を通って糞便から出すルートになります。
見るのは2つ。①胆汁中への排泄機構と、②そこから派生する腸肝循環です。前半は肝臓の解剖と3つのトランスポーター、後半は胆汁に出したはずの薬が腸で復活して戻ってくるという現象を扱います。
この記事のゴールは、腎と肝の「捕まえ方の違い」を構造レベルで説明できるようになること、そして腸肝循環が起きる理由を、グルクロン酸抱合と腸内細菌の2つで言えるようになることです。この2つが入ると、国試の胆汁中排泄はほぼ落とせなくなります。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
腎では捨てられない薬がある
腎臓が使うのは糸球体というふるいでした。有窓型の毛細血管の隙間を、血漿タンパクと結合していないフリー体だけが通り抜ける。裏を返せば、大きい薬やタンパクに強く捕まっている薬は、腎臓からはほとんど出ていけません。
そこで働くのが肝臓です。講義では胆汁中排泄されやすい薬の特徴を「分子量500以上で極性基をもつもの」としています。ただしこの閾値は文献によって幅があり(ヒトでおよそ500前後、動物種によってはもっと小さい)、国試が問うのは数値そのものではなく「大きいほど胆汁へ」という向きです。実際、第105回・問173では「一般に、分子量が小さい薬物ほど、胆汁中に排泄されやすい」が誤りの選択肢として出ました。数字を丸暗記するより、この向きを固定してください。
極性基が必要なのは、肝臓の排出トランスポーターが水に溶ける形の分子を基質にするからです。つまり胆汁中排泄も、行き先が尿か胆汁かの違いはあっても、代謝で水に溶ける形にしてから捨てるという筋は腎排泄とまったく同じです。
肝臓は「結合形のまま」薬を捕まえられる

ここが腎臓との決定的な違いです。毛細血管には連続型・有窓型・不連続型の3タイプがあり、腎臓は有窓型、肝臓は不連続型でした(3タイプの整理は薬の移行性へ)。
不連続型は隙間が極端に大きい。 どのくらい大きいかというと、血漿タンパクと結合したままの薬物(結合形)でも血管の外に出られるほどです。図の右側で「結合型も出れる」と書いてあるのがそれです。
腎臓はフリー体しか捕まえられないのに、肝臓は結合形ごと捕まえられる。 タンパク結合率が高くて腎排泄に乗れない薬でも、肝臓なら処理できる——この構造上の差が、そのまま「腎で出す薬」と「肝で出す薬」の住み分けになっています。
血管の外に出た薬が肝細胞に入るルートは2つ。主役は単純拡散で、一部が能動輸送(OATP、OCT)です。入った薬は肝細胞の中で第1相反応・第2相反応を受け、脂っぽい薬から水っぽい代謝物に作り替えられます。
毛細胆管への排出 ― MRP2・P-糖タンパク質・BSEP
できた代謝物を毛細胆管へ送り出すのは、主に能動輸送です(一部は単純拡散)。ここで働く3つを覚えます。
| トランスポーター | 正式名 | 覚え方 |
|---|---|---|
| MRP2 | Multidrug Resistance-associated Protein 2 | MマルチにRレジストPプロテイン |
| P-糖タンパク質 | P-glycoprotein | ― |
| BSEP | Bile Salt Export Pump(胆汁酸塩排出ポンプ) | 名前のとおり胆汁酸塩を出すポンプ |
取り込み側が単純拡散中心なのに、排出側は能動輸送が主役——この非対称に意味があります。毛細胆管の中はすでに代謝物が濃い。 濃い側へさらに押し込むのですから、濃度勾配に逆らう仕事になり、エネルギーが要るのです。
しかもこの3つは、いずれもATPの加水分解エネルギーを直接使うABCトランスポーター(一次性能動輸送)です。担体介在輸送で整理した「一次性か二次性か」の分類が、そのまま第105回・問173の正解選択肢になりました。
担体と薬の組合せ
| 向き | トランスポーター | 薬 | 相互作用 |
|---|---|---|---|
| 毛細血管 → 肝細胞 | OATP1B1 | プラバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン | シクロスポリンが阻害 → スタチンが肝に入れず血中濃度が上昇 |
| 肝細胞 → 毛細胆管 | P-糖タンパク質 | ジゴキシン | 腎の尿細管分泌でも同じジゴキシンを扱う |
| 肝細胞 → 毛細胆管 | MRP2 | プラバスタチン | ― |
プラバスタチンが2回出てくるのがポイントです。OATP1B1で肝細胞に入り、MRP2で毛細胆管へ抜けていく。入口と出口の両方に担体がいるわけです。
シクロスポリンの相互作用は、向きを間違えやすいので丁寧に。阻害されるのは「肝への取り込み」です。 肝に入れないということは、代謝も胆汁排泄も受けられないということ。行き場を失ったスタチンは血中に溜まります。 「排出が止まるから溜まる」のではなく「取り込まれないから溜まる」——ここを取り違えないでください。
腸肝循環 ― β-グルクロニダーゼが抱合を外す

胆汁に流された薬が腸管で再び吸収され、門脈を通って肝臓に戻ってくる現象を腸肝循環といいます。せっかく捨てたものが戻ってくるわけで、直感に反します。なぜそんなことが起きるのか。
犯人は腸内細菌です。順番に追います。
- 肝細胞で薬物がグルクロン酸抱合を受ける。大きく水に溶ける形になり、膜を通れなくなる
- その抱合体が胆汁に排泄され、総胆管を経て十二指腸へ出る
- ところが腸内細菌がもつβ-グルクロニダーゼが、抱合を外してしまう(脱抱合)
- 抱合が外れた裸の薬は、また脂溶性が戻っている。だから腸管から再吸収される
- 門脈を通って肝臓へ戻り、再びグルクロン酸抱合を受けて胆汁へ……と循環が続く
要するに、肝臓が「捨てられる形」にしたものを、腸内細菌が「吸収される形」に戻している。 抱合という鍵をかけた直後に、腸内細菌が鍵を開けてしまうわけです。
腸肝循環を受けやすい代表薬は、インドメタシン、モルヒネ、プラバスタチン。特にインドメタシンとモルヒネはグルクロン酸抱合を受けるタイプの代表です(モルヒネの抱合体には鎮痛作用があるという論点もセットで思い出してください)。
ここから2つの帰結が出ます。どちらも国試で問われました。
① 抗菌薬を内服すると腸肝循環が弱まる。 腸内細菌が減れば、β-グルクロニダーゼも減る。脱抱合されなければ再吸収も起こらず、そのまま糞便へ出ていく。つまりβ-グルクロニダーゼを阻害すると、AUCは減り、血中半減期は短くなります。 「阻害すると延びる」と書いてあったら誤りです。
② 血中濃度に二峰性のピークが出ることがある。 最初のピークは普通の吸収によるもの、2つ目は腸肝循環で戻ってきた分。経口投与後の血中濃度曲線でコブが2つあったら、腸肝循環を疑います。
同じβ-グルクロニダーゼによる脱抱合は、消化管吸収における薬側の要因でも登場します。あわせて読むと、この酵素が薬物動態のどこに顔を出すかが見渡せます。
国試ではこう問われる
第97〜111回の15年分では、腸肝循環が6回、胆汁中排泄が4回、β-グルクロニダーゼが4回、腸内細菌が10回。薬名ではモルヒネ15回、シクロスポリン13回、プラバスタチン11回、インドメタシン8回です。単元としては小さいのに、理論問題でも必須問題でも定期的に出るのが特徴です。
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第105回・問173 | 薬物の胆汁中排泄 | 正解は1と3。胆管側の排出トランスポーターの多くはATPの加水分解エネルギーを直接利用する/毛細胆管 → 総胆管 → 十二指腸。「分子量が小さいほど胆汁中に排泄されやすい」も「肝クリアランスに胆汁中への排泄クリアランスは考慮されない」も誤り |
| 第107回・問173 | 薬物の腸肝循環 | 正解は2と5。抗菌薬の内服による影響を受ける/経口投与後の血中濃度が二峰性を示すことがある |
| 第106回・問170 | トランスポーターを介した薬物輸送 | 正解は1と3。シクロスポリンがOATP1B1を阻害してプラバスタチンの肝移行を抑え、血中濃度を上げる |
| 第106回・問45 | 腸肝循環するのはどれか | 正解はモルヒネ |
掘り下げるなら第107回・問173です。腸肝循環の「なぜ」を分かっているかだけを、5つの角度から試してきます。
選択肢4「腸内細菌のβ-グルクロニダーゼが阻害されると血中半減期が延長する」は誤りでした。ここが本丸です。β-グルクロニダーゼが止まれば脱抱合が起こらない。脱抱合されなければ再吸収されない。再吸収されなければ戻ってこない——半減期は延びるどころか短くなります。 第105回・問173でも、同じ論点が「AUCが増加する」という形で出て、やはり誤りとされました。同じ内容を、半減期とAUCという別の言葉で2回問われている。 覚えるなら「脱抱合を止める=循環を切る=早く消える」の一本で足ります。
選択肢1「胆管閉塞で血中半減期が短縮する」も誤りです。胆管が詰まれば胆汁中排泄そのものができず、薬は体内に残る。半減期は延長します。選択肢4と並べると、「循環を止める」と「排泄を止める」がまったく逆向きの結果になることが分かります。腸肝循環という言葉に引っぱられて混同しやすいので、どこで止まったのかを毎回確認してください。
選択肢3「静脈内投与された薬物では起こらない」も誤り。 腸肝循環は「体循環 → 肝 → 胆汁 → 腸 → 再吸収」の輪ですから、輪のどこから入っても回ります。 経口かどうかは関係ありません。
ついでに、第105回・問173の選択肢5「肝クリアランスは代謝クリアランスで表され、胆汁中への排泄クリアランスは考慮されない」も誤りでした。肝クリアランス = 代謝クリアランス + 胆汁中排泄クリアランスです。胆汁中排泄は肝クリアランスの一部であって、別勘定ではありません。
まとめ
- 排泄には腎排泄と胆汁中排泄の2本があり、後者は肝臓 → 胆汁 → 腸管 → 糞便のルート
- 胆汁中排泄されやすいのは分子量が大きく極性基をもつ薬。講義の目安は500以上だが、国試が問うのは「大きいほど胆汁へ」という向き
- 肝臓の毛細血管は不連続型で隙間が大きく、血漿タンパクと結合したままの薬(結合形)でも血管外に出られる。 フリー体しか通さない腎臓との決定的な差
- 肝細胞への取り込みは単純拡散が主役、一部がOATP・OCTによる能動輸送
- 毛細胆管への排出はMRP2・P-糖タンパク質・BSEP。いずれもATPを直接使う一次性能動輸送
- OATP1B1(取り込み)= スタチン系、シクロスポリンが阻害。止まるのは肝への取り込みで、入れないから血中に溜まる
- プラバスタチンは入口(OATP1B1)と出口(MRP2)の両方に担体をもつ
- 腸肝循環は、グルクロン酸抱合体が腸内細菌のβ-グルクロニダーゼで脱抱合され、裸の薬に戻って再吸収される現象。代表薬はインドメタシン・モルヒネ・プラバスタチン
- β-グルクロニダーゼを阻害すると、AUCは減り半減期は短くなる(延びるではない)。一方胆管閉塞では半減期は延長する
- 腸肝循環は血中濃度の二峰性ピークとして現れ、抗菌薬の内服で弱まる。投与経路は問わない
次は生体膜透過の3つのルート|単純拡散・担体介在輸送・膜動輸送の違いを読んでみてください。ADMEを一巡したところで、そのすべての土台にある「薬が膜をどう越えるか」に戻ります。
薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、薬剤という科目のほんの一区画です。実際には、吸収から分布・代謝・排泄、そして製剤設計までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全33本・約11時間。「なぜこの薬がここで出てくるのか」「さっき覚えたあの話が、どこにつながるのか」が、バラバラの知識ではなく流れとして入ってきます。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
薬剤のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。