薬物動態の解析

モーメント解析法とMRT(平均滞留時間)の覚え方|平均身長の出し方と同じ【薬剤師国家試験】

モーメント解析法のマインドマップ
モーメント解析法のマインドマップ

ここまでは「体を1つのビーカーと考える」「2つと考える」というように、モデルを立てて解析してきました。

モーメント解析法はモデルを立てません。薬を入れたら、どんなふうに出てきたか——それを確率論的・統計論的に眺めるだけです。だから「モデル非依存型」と呼ばれます。

手法としては複雑なので臨床ではあまり使われず、研究寄りの方法です。国試では用語と定義を押さえておけば足ります。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。

MRT(平均滞留時間)の定義

MRTの定義式
MRTの定義式

MRT(Mean Residence Time、平均滞留時間)は、薬の分子が体内に平均してどのくらい留まっていたかを表します。

定義式はこれです。

MRT = AUMC / AUC

  • AUC — 血中濃度-時間曲線の下の面積(おなじみですね)
  • AUMC — Area Under the first Moment Curve。血中濃度 × 時間を、時間で積分したもの

この式だけ見せられても、なぜ平均滞留時間になるのか分かりにくいと思います。ですが、やっていることは平均身長の出し方とまったく同じです。

平均身長の出し方と同じ

クラスの平均身長を出すときの手順を思い出してください。

  1. 160 cmの人が10人、165 cmの人が12人、170 cmの人が10人……
  2. 160 × 10 + 165 × 12 + 170 × 10 + …… を全部足す
  3. それを 10 + 12 + 10 + ……(合計人数)で割る

つまり、

平均身長 = Σ(身長 × 人数) / Σ(人数)

これをMRTの式と並べてみましょう。

平均身長 MRT
Σ(身長 × 人数) ∫(時間 × 濃度)dt = AUMC
Σ(人数) ∫(濃度)dt = AUC

人数にあたるのが濃度、身長にあたるのが時間です。シグマ(足し合わせ)がインテグラル(積分)に変わっただけで、構造は完全に同じですね。

「MRTって何だっけ」と忘れたら、平均身長をどう計算したかを思い出してください。式が作れます。覚えるのはAUMCという言葉だけで済みます。

用語を整理する

投与経路によって呼び分けます。

  • MRTiv — 静脈内投与したときの平均滞留時間
  • MRTpo — 経口投与したときの平均滞留時間
  • MAT — 平均吸収時間(Mean Absorption Time)

経口投与では、吸収に時間がかかる分だけ滞留時間が長くなります。その差が吸収にかかった時間です。

MAT = MRTpo − MRTiv

言葉の意味を追えばそのまま出てくる関係です。

1-コンパートメントモデルへの応用

1-コンパートメントモデルでのMRT
1-コンパートメントモデルでのMRT

モデル非依存型といっても、1-コンパートメントモデルに当てはめると、きれいな関係が出てきます。

MRTiv = 1 / ke

驚くほど単純ですね。ここだけは覚えてしまってください。

忘れたときの確認法:単位で考える

もし「1/keだったか、keだったか」と迷ったら、単位で確かめられます。

keの式は −dC/dt = ke・C でした。左辺の単位は(濃度/時間)、右辺のCは濃度ですから、keの単位は 1/時間です。

MRTは「時間」ですから、単位を合わせるには 1/ke でなければなりません。keでは単位が合わない。これで判断できます。

経口の場合

経口投与時のMRT
経口投与時のMRT

同じ考え方を吸収にも当てはめます。吸収速度定数kaの逆数が、平均吸収時間になります。

MAT = 1 / ka

そして MRTpo = MRTiv + MAT でしたから、

MRTpo = 1/ke + 1/ka

3つの式は互いに導き合えるので、MRTiv = 1/ke だけ覚えて、あとは関係式から出すのが効率的です。

まとめ

  • モーメント解析法はモデルを立てない解析法。国試では用語と定義がメイン
  • MRT = AUMC / AUC。AUMCは「血中濃度 × 時間」を積分したもの
  • 構造は平均身長の出し方と同じ(人数 ↔︎ 濃度、身長 ↔︎ 時間)
  • MAT = MRTpo − MRTiv(平均吸収時間)
  • 1-コンパートメントモデルでは MRTiv = 1/ke、MAT = 1/ka、MRTpo = 1/ke + 1/ka
  • 迷ったら単位で確認する(keの単位は1/時間なので、MRTは1/ke)

次は薬動力学、抗菌薬のPK/PD解析です。抗菌薬のPK/PD解析へ進んでください。

AUCの基本はAUCとクリアランスの関係、keは血中濃度の式の導出と半減期の求め方、kaは経口投与時のCTグラフの読み方と残差法で扱っています。

薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、薬剤という科目のほんの一区画です。実際には、吸収から分布・代謝・排泄、そして製剤設計までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全33本・約11時間。「なぜこの薬がここで出てくるのか」「さっき覚えたあの話が、どこにつながるのか」が、バラバラの知識ではなく流れとして入ってきます。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。

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