
患者さんから何度も採血するわけにはいきません。それでも、その人の血中濃度がこれからどう動くかを知りたい。
たった1点の採血から、その患者さんの血中濃度-時間曲線を描いてしまう——魔法のようですが、実際に臨床で使われている手法です。仕組みを見ていきましょう。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
なぜこの手法が必要なのか

患者さん一人ひとりで、薬の効き方は違います。
- 体重が違う
- 腎機能が違う
- 年齢が違う
- 併用薬が違う
- 遺伝的な要因が違う
条件が違えば、血中濃度-時間曲線も一人ひとり違うはずです。では、その人専用の曲線をどうやって描くのか。
何度も採血して点をつなげばいいのですが、患者さんの負担が大きすぎます。少ない採血で、その人の曲線を描きたい——この要求に応えるのが、母集団薬物速度論とベイジアン解析法の組み合わせです。
ステップ1:母集団薬物速度論で事前情報を集める
まず、多数の患者から採血データを集めて解析します。ここで明らかにするのは3つです。
① 母集団平均値
VdやCLといったパラメータが、平均するとどのくらいか。
② 個体間変動
患者と患者の間で、どのくらいばらつくか。
たとえば「あるクリアランスは平均5 L/hだが、腎機能によって30%程度ばらつく」といった情報です。
③ 個体内変動
同じ患者の中で、どのくらいばらつくか。測定誤差や日内変動がこれにあたります。
たとえば「測定誤差は10%程度」といった情報です。
この3つが分かると、「この薬のパラメータは、だいたいこのあたりの分布に収まる」という地図が手に入ります。これが事前情報です。
ステップ2:患者から採血する(最低1点)
次に、実際の患者さんに薬を投与して採血します。
必要なのは「いつ採血したか」と「そのときの濃度」の2つだけです。たとえば「投与2時間後に15 μg/mL」といった情報ですね。
最低1点あれば足ります。ここが重要なポイントです。
ステップ3:ベイジアン解析法で当てはめる
ステップ1で得た「この薬のパラメータはこのあたり」という分布に、ステップ2の実測1点を当てはめて最適化する——これがベイジアン解析法です。
イメージとしては、大まかな地図を持った状態で、現在地を1つ確認するようなものです。地図がなければ1点だけでは何も分かりませんが、地図があれば1点で自分の位置が特定できます。
こうして、その患者さん専用の血中濃度-時間曲線が得られます。
何ができるようになるか
その患者専用の曲線が手に入ると、次のことが判断できるようになります。
- 次回の投与量をどうするか
- 投与間隔をどう設定するか
- 目標濃度にいつ到達するか
TDMの目的は「測ること」ではなく「測った結果をもとに投与設計を変えること」です。この手法は、その目的に直結しています。
まとめ
- 患者ごとに体重・腎機能・年齢・併用薬・遺伝的要因が違うため、血中濃度曲線も一人ひとり違う
- 母集団薬物速度論 — 多数の患者データから、母集団平均値・個体間変動・個体内変動を求める(事前情報)
- ベイジアン解析法 — その事前情報に、患者の実測1点を当てはめて最適化する
- 結果として、採血1点からその患者専用の血中濃度-時間曲線が得られる
- そこから次回の投与量・投与間隔・目標濃度到達時期を判断できる
これで薬物動態解析の範囲は終わりです。お疲れさまでした。
TDM対象薬はTDM対象薬①・TDM対象薬②、この単元全体の地図は薬物動態解析の全体像と勉強の順番で確認できます。
薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、薬剤という科目のほんの一区画です。実際には、吸収から分布・代謝・排泄、そして製剤設計までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全33本・約11時間。「なぜこの薬がここで出てくるのか」「さっき覚えたあの話が、どこにつながるのか」が、バラバラの知識ではなく流れとして入ってきます。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
薬剤のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。