
TDM対象薬の一覧を見ると、覚えることが山ほどあるように見えます。
ですが安心してください。ここに出てくる薬の大半は、すでにどこかで登場しています。代謝誘導のところ、胆汁中排泄のところ、肝クリアランスのところ——「あ、この薬さっきも出てきた」という再会が続きます。TDMは総復習の単元だと思ってください。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
抗てんかん薬
フェニトイン

TDM対象薬の中でも特に重要な薬です。押さえるポイントは4つあります。
- 治療域 — 10〜20 μg/mL
- 遊離型分率(fu) — 約10%と低め
- 薬物動態 — 非線形。ミカエリス・メンテン式に近似できる
- 代謝 — CYP2C9が中心。自己誘導する
非線形である点が最重要です。治療域ですでに代謝が飽和し始めるため、投与量を少し増やしただけで血中濃度が跳ね上がります。詳しくは非線形コンパートメントモデルとミカエリス・メンテン式をご覧ください。
自己誘導とは、自分が代謝される酵素を自分自身で誘導してしまうことです。フェニトインは代謝誘導とは?誘導物質の覚え方で「2D6以外ほぼすべてを誘導する薬」の語呂の中にも登場していました。そこで覚えた薬が、ここで再登場するわけです。
そしてもう一つ、新しい注意点があります。
血清分離剤に吸着しやすいため、測定値が低く出てしまうことがある。
採血管の選択に関わる実務的な知識で、TDMの単元で初めて出てくる内容です。
フェノバルビタール
こちらも代謝誘導を起こす薬です。フェニトインと同じ語呂の中に入っていました。
バルプロ酸
グルクロン酸抱合で代謝されます。そして重要なのが、
カルバペネム系との併用禁忌。
理由も代謝阻害のメカニズムと相互作用まとめで扱った通りです。カルバペネム系がUDP-グルクロン酸転移酵素を活性化させ、バルプロ酸のグルクロン酸抱合が進んでしまう。結果としてバルプロ酸の血中濃度が下がり、てんかん発作のコントロールが効かなくなる——これが併用禁忌の根拠です。
ジゴキシン

- 治療域 — 0.5〜1.5 ng/mL
- 排泄 — 腎排泄
- モデル — 2-コンパートメントモデル(分布相と消失相がある)
- 採血のタイミング — 投与後6〜8時間以降、定常状態に達してから
治療域の単位に注目してください。ng/mLです。フェニトインがμg/mLだったのに対し、1000分の1のスケールで管理していることになります。「ほぼ毒物を、ごく狭い範囲で扱っている」という感覚を持っておくと、なぜTDMが必要なのかが腑に落ちます。
だからこそ体は、P-糖タンパク質でジゴキシンを排出しようとします。担体介在輸送(能動輸送・促進拡散)の違いと分類でP-糖タンパク質の基質として出てきた通りです。
採血のタイミングが遅いのは、半減期が長く、定常状態に達するまでに時間がかかるためです。定常状態は半減期の4〜5倍でしたから、それだけの時間を待つ必要があります。加えて2-コンパートメントモデルなので、分布相が終わるのを待つという意味もあります。
リドカイン
肝血流量依存性薬物の代表です。
肝血流量依存性薬物と肝固有クリアランス依存性薬物で導いた通り、Qh ≪ CLint・fu の条件では、
CLh ≈ Qh
つまりリドカインのクリアランスは、肝血流量そのもので決まります。心不全などで肝血流量が落ちれば、それだけで血中濃度が上がってしまう。TDMが必要な理由がここにあります。
同じグループにニトログリセリン、ニカルジピン、プロプラノロールがいましたね。
テオフィリン
リドカインとは逆のタイプ、肝固有クリアランス依存性薬物です。
- 代謝 — CYP1A2
- CLintの影響が大きい(fuが50%程度あるため、fuの変動より酵素活性の影響が効く)
CYP1A2という時点で、薬物代謝の基礎とCYPの分子種の覚え方の語呂を思い出してください。「あいつの小さい手を握り」でCYP1A2の基質としてテオフィリンが出てきていました。
CYP1A2が阻害されればCLintが下がり、血中濃度が跳ね上がる。だからTDMの対象になっています。
まとめ
| 薬 | 押さえるポイント |
|---|---|
| フェニトイン | 治療域10〜20 μg/mL、非線形、自己誘導、血清分離剤に吸着して測定値が低く出る |
| フェノバルビタール | 代謝誘導 |
| バルプロ酸 | グルクロン酸抱合、カルバペネム系と併用禁忌 |
| ジゴキシン | 治療域0.5〜1.5 ng/mL、腎排泄、2-コンパートメント、採血は投与後6〜8時間以降 |
| リドカイン | 肝血流量依存性(CLh ≈ Qh) |
| テオフィリン | 肝固有クリアランス依存性、CYP1A2、CLintの影響大 |
次は抗菌薬・免疫抑制薬などを扱います。TDM対象薬②へ進んでください。
薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、薬剤という科目のほんの一区画です。実際には、吸収から分布・代謝・排泄、そして製剤設計までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全33本・約11時間。「なぜこの薬がここで出てくるのか」「さっき覚えたあの話が、どこにつながるのか」が、バラバラの知識ではなく流れとして入ってきます。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
薬剤のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。