
前の記事では年齢や妊娠といった生理的な要因を見ました。今回は疾患によって薬物動態がどう変わるかです。
ここでのハイライトは肝硬変です。「肝機能が落ちたのだから肝クリアランスも落ちる」——そう単純にはいかない、という話をします。生理学的モデルで学んだ分類が、ここで効いてきます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
腎機能低下時
ネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群では、血漿タンパクが尿中に漏出します。
本来、血漿タンパクは糸球体で濾過されません。糸球体の毛細血管は有窓性ですが、分子量の大きいタンパクは通れないからです。ところがネフローゼではその選択性が壊れ、タンパクが漏れ出てしまいます。
血漿タンパク↓ → 遊離型分率(fu)↑
腎機能低下時に注意する薬
腎排泄型の薬は、腎機能が落ちると体に溜まります。押さえておきたいのは次の4つです。
- 炭酸リチウム
- ジゴキシン
- アミノグリコシド系
- バンコマイシン
いずれもTDMの対象薬でもあります。「腎排泄型で治療域が狭い薬」という共通点で覚えておくと、TDMの単元とつながります。
肝機能低下時:肝硬変が単純でない理由
肝硬変では、次の2つが同時に起こります。
- 肝血流量(Qh)が下がる
- 肝固有クリアランス(CLint)も下がる
素直に考えれば「肝クリアランスは下がる」となりそうです。ところが、そうとは限りません。
fuの上昇が効いてくる
肝硬変では肝臓が働かないので、アルブミンの産生が落ちます。するとfuが上がります。
ここで肝血流量依存性薬物と肝固有クリアランス依存性薬物の分類を思い出してください。
肝固有クリアランス依存性薬物では CLh ≈ CLint × fu でした。
つまり、CLintが下がってもfuが上がった分でクリアランスが上がる可能性があるわけです。どちらの変化が勝つかは条件次第で、一概には言えません。
「肝硬変 = 肝クリアランス低下」と機械的に判断しない——これがこの単元で一番問われやすいポイントです。
その他の疾患
心不全
心臓の動きが弱くなり、拍出量が減ります。すると連鎖的に次のことが起こります。
拍出量↓ → 肝臓・腎臓への血流量↓ → 肝クリアランス・腎クリアランス↓
さらに、アルブミン量も減ります。理由は2つあり、①肝臓への血流が減ること、②肝臓がうっ血することです。結果としてfuが上がります。
肝血流量依存性薬物(リドカインなど)は、心不全で特に注意が必要になります。
甲状腺機能亢進症
体の代謝が全体的に亢進する状態です。
腎血漿流量↑、肝血流量↑ → 肝血流量依存性薬物のクリアランス↑
心不全とは逆方向の変化になります。
糖尿病
糖尿病ではインスリンの作用不足により、細胞へのグルコースの取り込みが減ります。
グルクロン酸抱合に使われるUDP-グルクロン酸は、もとをたどればグルコースから作られています。グルコースの取り込みが減る → 供与体が減る → グルクロン酸抱合が全体的に低下する、という流れです。
炎症性疾患
ここで登場するのがα1-酸性糖タンパク質です。
分布の単元で出てきた通り、アルブミンは酸性薬物と結合しやすく、α1-酸性糖タンパク質は塩基性薬物と結合しやすいという性質がありました。α1-酸性糖タンパク質は血漿タンパクのうち0.2%程度しか存在しませんが、炎症時に増加します。
炎症性疾患 → α1-酸性糖タンパク質↑ → 塩基性薬物が結合される → 塩基性薬物のfu↓
他の疾患では軒並みfuが上がるなか、ここだけfuが下がる方向です。引っかけとして出題されやすいので注意してください。
表で整理する
| 疾患 | 主な変化 | fuへの影響 |
|---|---|---|
| ネフローゼ症候群 | 血漿タンパクが尿中に漏出 | ↑ |
| 肝硬変 | Qh↓、CLint↓、アルブミン↓ | ↑(CLhは一概に下がるとは限らない) |
| 心不全 | 拍出量↓ → 肝・腎血流量↓、アルブミン↓ | ↑ |
| 甲状腺機能亢進症 | 腎血漿流量↑、肝血流量↑ | — |
| 糖尿病 | グルクロン酸抱合↓ | — |
| 炎症性疾患 | α1-酸性糖タンパク質↑ | 塩基性薬物は↓ |
まとめ
- ネフローゼ症候群 — 血漿タンパクが漏出しfu↑。腎機能低下時の注意薬は炭酸リチウム・ジゴキシン・アミノグリコシド系・バンコマイシン
- 肝硬変 — Qh↓・CLint↓だが、fu↑の影響で肝固有クリアランス依存性薬物ではCLhが上がることもある。機械的に「低下」と判断しない
- 心不全 — 拍出量↓で肝・腎血流量↓、アルブミン↓でfu↑
- 甲状腺機能亢進症 — 血流量↑で肝血流量依存性薬物のクリアランス↑
- 糖尿病 — グルクロン酸抱合の供与体が減り、抱合能が低下
- 炎症性疾患 — α1-酸性糖タンパク質↑で塩基性薬物のfuが下がる。他とは逆方向
これで影響因子は終わりです。次はTDMに進みます。
肝クリアランスの分類は肝血流量依存性薬物と肝固有クリアランス依存性薬物、生理的要因は薬物動態に影響する生理的要因、タンパク結合は薬物のタンパク結合の基礎で扱っています。
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