
アミノ酸やグルコースは水になじみやすい物質です。単純拡散ではほとんど膜を通れません。それでも体は、これらを確実に取り込む必要があります。
そのために用意されているのが担体(トランスポーター)を使ったルートです。ここは覚えることが多く見えますが、「共通点」と「分かれ目」を分けて整理すると一気に見通しがよくなります。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
まず共通点:担体を使うと何が起きるか
能動輸送でも促進拡散でも、担体を使う以上は共通して起きることがあります。ここを先に押さえてしまいましょう。
飽和現象がある
担体の数には限りがあります。薬の濃度をどんどん上げていっても、担体が全部埋まってしまえばそれ以上速くはなりません。輸送速度に頭打ちがある、これが飽和現象です。
単純拡散には飽和がありません。濃度差が大きくなればなるほど速くなり続けます。飽和するかどうかが、単純拡散と担体介在輸送を見分ける決定的な違いになります。
競合阻害がある
担体の基質認識性はそれほど高くありません。そのため、構造が似た物質が同時に存在すると、担体の取り合いが起こります。これが競合阻害です。
速度式はミカエリス・メンテン式
飽和する挙動を式にすると、酵素反応でおなじみのミカエリス・メンテン式になります。
濃度が低いうちは濃度に比例して速くなり(直線)、濃度が高くなると担体が飽和して一定値(Vmax)に近づいていく、という挙動です。生物や化学で学んだ酵素の話と、やっていることは同じです。
なお、ミカエリス・メンテン式そのものの扱い(ラインウィーバー・バークプロットや競合阻害・非競合阻害のグラフ変化)は、薬物動態解析の非線形コンパートメントモデルで改めて詳しく扱います。ここでは「担体を使うから飽和する」という理解までで十分です。
能動輸送と促進拡散の違い
共通点を押さえたら、次は分かれ目です。判断基準は濃度勾配に逆らうかどうかの一点です。
| 能動輸送 | 促進拡散 | |
|---|---|---|
| 濃度勾配 | 逆らう | 従う |
| ATP | 使う | 使わない |
| 担体 | 使う | 使う |
| 飽和・競合阻害 | あり | あり |
濃度勾配に逆らって運ぶには、自然の流れに逆らうためのエネルギーが要ります。だから能動輸送はATPを使う。促進拡散は流れに沿って運ぶだけなので、担体は必要でもエネルギーは要らない。そう理解すれば、表を丸暗記する必要はありません。
促進拡散の例としては、グルコーストランスポーター(GLUT)があります。
- GLUT2 — 小腸や肝臓などから細胞内へのグルコース取り込み
- GLUT4 — インスリン依存的に骨格筋などへ取り込み
- GLUT5 — 小腸上皮細胞でのフルクトース吸収
能動輸送の2種類:一次性と二次性

能動輸送はさらに2つに分かれます。分かれ目はATPを直接使うか、間接的に使うかです。
一次性能動輸送(ATPを直接利用)
担体そのものがATPを分解し、そのエネルギーで物質を運びます。
P-糖タンパク質が代表例です。異物排出機構、つまり細胞内から薬を外に汲み出すポンプとして働きます。押さえておきたい特徴は3つです。
- 基質の認識性が非常に低く、いろいろなものを排出する
- 脂溶性が高い薬ほど輸送されやすい
- CYP3A4で代謝される多くの薬と基質が共通している
3つ目は特に重要で、薬物相互作用を考えるときに何度も出てきます。排出されるものの例としてはジゴキシンが挙げられます。
もう一つがNa⁺/K⁺-ATPaseです。血管側(側底膜側)に存在し、ATPを使ってNa⁺を細胞外へ汲み出すことで、細胞内のNa⁺濃度を低く保っています。これが次の二次性能動輸送の土台になります。
二次性能動輸送(イオンの濃度勾配を利用)
こちらは担体自身がATPを分解するわけではありません。一次性能動輸送が作ったイオンの濃度勾配を借りて、物質を運びます。ATPの間接利用、という言い方をします。
上の図で、Na⁺/K⁺-ATPaseが細胞内のNa⁺を減らしている様子を追ってみてください。細胞内のNa⁺が少なければ、管腔側から細胞内へNa⁺が流れ込もうとする力が生まれます。その流れに相乗りして、一緒に別の物質を運び込むわけです。
共輸送系(同じ向きに運ぶ)
- Na⁺/アミノ酸共輸送体(アミノ酸トランスポーター)
- H⁺/ペプチド共輸送体(ペプチドトランスポーター、PEPT1) — ジペプチドやトリペプチドを、H⁺の勾配を使ってH⁺と一緒に運ぶ
- Na⁺/グルコース共輸送体(SGLT1)
逆輸送系(逆向きに交換する)
- Na⁺/H⁺逆輸送体 — 細胞内へNa⁺を取り込む代わりにH⁺を管腔側へ出す。小腸内のpHが低く保たれているのは、これの働きによるものです
なお、H⁺/ペプチド共輸送体が使うH⁺の勾配は、このNa⁺/H⁺逆輸送体が作り出したものです。Na⁺/K⁺-ATPase → Na⁺/H⁺逆輸送体 → PEPT1 という順にエネルギーが受け渡されている、という流れで理解しておくと忘れにくくなります。
グルコースの吸収で全部つながる
図の下のほうにあるグルコースの経路が、ここまでの話の総まとめになっています。
- 管腔側ではSGLT1(Na⁺/グルコース共輸送体)が、Na⁺の勾配を使ってグルコースを細胞内へ取り込む → 二次性能動輸送
- 細胞内はグルコース濃度が高くなる
- 血管側ではGLUT2が、濃度勾配に従ってグルコースを血管へ送り出す → 促進拡散
同じグルコースでも、入口と出口で輸送形式が違うわけです。「なぜ入口は能動輸送で、出口は促進拡散なのか」を、濃度勾配の向きから説明できるようにしておくと、この単元は安定します。
まとめ
- 担体介在輸送に共通するのは飽和現象・競合阻害・ミカエリス・メンテン式。飽和の有無が単純拡散との決定的な違い
- 能動輸送は濃度勾配に逆らい、ATPを使う。促進拡散は濃度勾配に従い、ATPは使わない
- 一次性能動輸送はATPを直接使う。P-糖タンパク質(異物排出、CYP3A4と基質が共通)、Na⁺/K⁺-ATPase
- 二次性能動輸送はイオンの濃度勾配を借りる。Na⁺/アミノ酸共輸送体、PEPT1、SGLT1、Na⁺/H⁺逆輸送体
- グルコースはSGLT1(二次性能動輸送)で取り込み、GLUT2(促進拡散)で送り出す
生体膜透過の全体像は生体膜透過の3つのルート、単純拡散側の話はFickの法則と膜透過の影響因子をご覧ください。薬物動態(ADME)とのつながりは薬物動態(ADME)まとめで確認できます。
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