生体膜透過

Fickの法則と膜透過の影響因子|分子サイズ・水素結合能・脂溶性【薬剤師国家試験】

Fickの法則と影響因子のマインドマップ
Fickの法則と影響因子のマインドマップ

Fickの法則の式を初めて見たとき、アルファベットがたくさん並んでいて「うわ、面倒くさそう」と思った人は多いと思います。

でも安心してください。この式、当たり前のことを式にしただけです。言っている中身が分かれば、むしろ覚えることが減ります。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。

Fickの法則は「当たり前」を式にしただけ

Fickの法則の式
Fickの法則の式

式の中身に入る前に、まず日本語で考えてみましょう。膜を通り抜けるスピード(透過速度)は、どういうときに速くなるでしょうか。

  • 外が濃くて、中が薄いとき → 速くなりそう
  • 膜の面積が広いとき → 速くなりそう
  • 膜が厚いとき → 遅くなりそう

どれも言われてみれば当たり前ですよね。Fickの法則は、この当たり前を式の形に置き換えただけのものです。

記号の意味は次の通りです。

記号 意味
J 透過速度
D 拡散係数
S 膜面積
C 濃度(C外・C内)
L 膜厚
K 分配係数

つまりこの式は、「透過速度は、膜面積と濃度勾配に比例する」と言っています。濃度勾配というのは「外と中の濃度差を、膜の厚さで割ったもの」のことです。濃度差が同じでも、膜が厚ければ勾配はゆるやかになる、という話ですね。

あとは、つじつまを合わせるための係数(拡散係数Dと分配係数K)が掛かっているだけです。

国試ではどう使うか

試験で問われるのは、「面積と濃度勾配に比例する」という関係がわかっているかどうかです。

それさえ押さえていれば、あとは問題文の数字を当てはめていくだけで解けてしまいます。係数の一つひとつが何を表しているのかで悩む必要はありません。

膜透過の影響因子

では、どういう薬が膜を通りやすいのでしょうか。影響因子は3つあります。

分子サイズ

大きいと通りにくい。脂質二重膜のすき間を通っていくわけですから、分子が大きければ通りにくくなります。これも直感通りですね。

水素結合能

水素結合能の高い官能基があると通りにくい。水素結合をしやすい官能基がついていると、その分子は水になじみやすくなります。水っぽい分子は、油の膜である脂質二重膜を通りにくくなる、という理屈です。

脂溶性

ある程度高いほうが通りやすい。脂質二重膜は油の膜なので、油になじむ性質があったほうが入り込みやすくなります。

ここで注意したいのが「ある程度」という言葉です。脂溶性は高ければ高いほどいい、という単純な話ではありません。極端に脂溶性が高いと、今度は膜から出られなくなってしまうからです。

脂溶性はオクタノール/水分配係数で測る

オクタノール/水分配係数と透過率の関係
オクタノール/水分配係数と透過率の関係

「脂溶性が高い」と言われても、何を基準に高いと判断するのかが分からないと使えません。そこで使われるのがオクタノール/水分配係数です。

オクタノール(油)と水を混ぜた中に薬を入れ、どちらにどれだけ溶けたかの比を見ます。油側に多く溶ければ脂溶性が高い、というわけです。

横軸に分配係数、縦軸に透過率をとってプロットすると、油っぽいものほど透過率が高いという関係が実験的にも確かめられています。

水溶性の物質はどうやって入るのか

ここで一つ疑問が出てきます。アミノ酸やグルコースは水っぽい物質です。でも、体にとっては必須の栄養素ですよね。

単純拡散では、これらはほとんど入っていけません。ではどうやって取り込んでいるのか——答えが担体介在輸送です。担体(トランスポーター)というタンパク質を使って、わざわざ運び込んでいます。

詳しくは担体介在輸送(能動輸送・促進拡散)の違いと分類で扱います。

もう一つの例外:Fickの法則に従わない薬

分子サイズも脂溶性も条件を満たしているのに、Fickの法則の予想通りに膜を通らない薬があります。

理由は、脂質二重膜を通れるのが分子形だけだからです。同じ薬でも、周囲のpHによって分子形になったりイオン形になったりします。これを説明するのがpH分配仮説で、pH分配仮説とヘンダーソン・ハッセルバルヒ式で詳しく扱います。

まとめ

  • Fickの法則は「透過速度は膜面積と濃度勾配に比例する」と言っているだけ
  • 濃度勾配 = 外と中の濃度差 ÷ 膜の厚さ
  • 国試では比例関係さえ分かっていれば、数字を当てはめて解ける
  • 影響因子は分子サイズ(大きいと通りにくい)・水素結合能(高いと通りにくい)・脂溶性(ある程度高いと通りやすい)の3つ
  • 脂溶性はオクタノール/水分配係数で測る
  • アミノ酸・グルコースのような水溶性物質は担体介在輸送で運ばれる

生体膜透過の全体像を確認したい人は、生体膜透過の3つのルートもあわせてご覧ください。薬物動態(ADME)とのつながりは薬物動態(ADME)まとめで確認できます。

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