
薬が効くためには、まず細胞の膜を通り抜けなければいけません。その通り抜け方が、実は3つに分かれています。この3つの区別がついていないまま個別の話に入ると、「これは能動輸送だっけ、促進拡散だっけ」と最後まで混乱し続けることになります。
逆に、ここで3つの入口を整理してしまえば、あとはそれぞれを深掘りするだけです。この記事では全体像だけを押さえます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
その前に:薬剤という科目の全体像
薬剤は、他の科目と少し性格が違います。計算のパートがはっきり存在する科目だからです。
大きく分けると、薬の体内動態(ADME)や薬物動態解析を扱う「薬剤分野」と、製剤の性質や製剤設計を扱う「製剤分野」の2つになります。このうち計算がまとまって出てくるのが薬物動態解析で、それ以外は暗記と理解が中心です。
覚えるところと計算するところでギアを切り替える必要がある、というのが薬剤という科目の特徴です。今回扱う生体膜透過は、その入口にあたる「体内動態の基礎」の部分になります。
薬が体に入ってから出ていくまでの全体像を先に押さえたい人は、薬物動態(ADME)まとめを先に読んでおくと、この記事の位置づけがはっきりします。
生体膜透過は3つに分かれる
生体膜を通るルートは、次の3つです。
- 単純拡散 — 濃度の高いところから低いところへ広がっていく
- 担体介在輸送 — 担体(トランスポーター)というタンパク質を使って運ぶ
- 膜動輸送 — 膜そのものを動かして取り込む
このうち、物質のメインの移動手段は単純拡散です。まずはここをしっかりやってから、担体介在輸送に進むのが効率のいい順番になります。
単純拡散
濃度が濃いところから薄いところへ、自然に広がっていくルートです。エネルギーも担体も使いません。
ただし、脂質二重膜を通り抜ける必要があるため、ある程度の脂溶性がないと通りにくいという制約があります。この「どういう薬が通りやすいのか」を式にしたのがFickの法則で、詳しくはFickの法則と膜透過の影響因子で扱います。
担体介在輸送
単純拡散では通れない物質を、担体を使って運ぶルートです。アミノ酸やグルコースのように脂溶性が低い物質は、単純拡散ではほとんど入っていけません。でも体にとっては必須の物質です。そこで担体の出番になります。
担体介在輸送はさらに2つに分かれます。
- 能動輸送 — ATPを使って、濃度が薄いところから濃いところへ無理やり運ぶ
- 促進拡散 — ATPは使わず、濃度勾配には従うが、担体を使って運ぶ
「ATPを使うかどうか」と「濃度勾配に逆らうかどうか」がセットで変わる、と覚えておくと整理しやすくなります。それぞれの詳しい分類は担体介在輸送(能動輸送・促進拡散)の違いと分類で扱います。
膜動輸送
膜そのものを動かし、エネルギーを消費して高分子を取り込むルートです。国試ではあまり出題されませんが、用語だけは押さえておきましょう。
膜動輸送の2種類
膜動輸送は、向きによって2つに分かれます。
エンドサイトーシスは、細胞の内側へ輸送するほうです。さらに取り込むものによって呼び名が変わります。
- 飲作用 — 小さな粒子や液体などを取り込む
- 食作用 — 顆粒状の物質を取り込む
食作用の代表例がマクロファージです。異物を検出して、それを丸ごと取り込んでいますね。
エキソサイトーシスは逆に、細胞の外側へ輸送する(排出する)ほうです。
ここは仕組みを深く理解するというより、言葉と向きが一致していれば十分な範囲です。「エンド=内へ」「エキソ=外へ」で押さえておきましょう。
勉強する順番
生体膜透過を学ぶときは、次の順番がおすすめです。
- 単純拡散 — Fickの法則で「どんな薬が通りやすいか」の基礎を作る
- pH分配仮説 — Fickの法則だけでは説明できない例外を理解する
- 担体介在輸送 — 単純拡散では入れない物質の運ばれ方を学ぶ
膜動輸送は用語だけなので、いつ読んでも構いません。
単純拡散を先にやる理由は、ここが物質移動の基本だからです。基本の考え方が入っていると、「担体を使うとなぜ飽和するのか」「なぜ競合阻害が起こるのか」が、単純拡散との対比で理解できるようになります。
まとめ
- 生体膜透過は単純拡散・担体介在輸送・膜動輸送の3つ
- メインの移動手段は単純拡散
- 担体介在輸送は能動輸送(ATPを使い濃度勾配に逆らう)と促進拡散(ATP不要で濃度勾配に従う)に分かれる
- 膜動輸送はエンドサイトーシス(内へ/飲作用・食作用)とエキソサイトーシス(外へ)。用語を覚えておけばOK
- 勉強は単純拡散から始めるのが効率的
次は、単純拡散の中身であるFickの法則に進みます。詳しくはFickの法則と膜透過の影響因子をご覧ください。
薬物動態(ADME)の全体像とのつながりを確認したい人は、薬物動態(ADME)まとめもあわせてご覧ください。
薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、薬剤という科目のほんの一区画です。実際には、吸収から分布・代謝・排泄、そして製剤設計までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
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