
コップ1杯の水で錠剤を1錠飲み込む。その薬が最後に便と尿になって出ていくまでに、体の中では決まった順番で4つのことが起こります。吸収(A)・分布(D)・代謝(M)・排泄(E)、頭文字を取ってADME(アドメ)です。
薬剤という科目は、まるごとこの順番でできています。ところが勉強のほうは、消化管吸収・分布容積・CYP・腎クリアランス……と単元ごとにバラバラに暗記してしまいがちです。そうすると、国試が本当に試している「いま目の前の選択肢は、ADMEのどの段階の話なのか」が見抜けません。国試の引っかけは、ほぼ全部が「段階のすり替え」です。結論は合っているのに機序の段階だけ差し替えてある、という作り方を毎年してきます。
そこでこの記事では、飲んだ薬を口から便・尿まで1本の線で追いかけます。 各段階で見るのは、「そこで何が律速になるのか」と「その段階はどの数字で表現されるのか」の2つだけ。これを固定したうえで、14本の個別記事へ送り出します。まず地図を持ってから細部に降りるのが、このページの役目です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
ADMEとは ― 口から入って、便と尿になるまで
| 過程 | やっていること | 主な舞台 | 表現する数字 | |
|---|---|---|---|---|
| A | 吸収(Absorption) | 消化管の中から血液へ入れる | 小腸・小腸上皮・肝臓 | F、Fa・Fg・Fh |
| D | 分布(Distribution) | 血液から組織へ配る | 血管と組織 | Vd、fp(非結合形分率) |
| M | 代謝(Metabolism) | 水に溶ける形へ作り替える | 肝臓(と小腸) | CLint(肝固有クリアランス) |
| E | 排泄(Excretion) | 尿と胆汁へ捨てる | 腎臓・肝臓 | CLr、fe(尿中未変化体排泄率) |
用語を1つ。MとEはまとめて「消失(elimination)」と呼びます。血中濃度の上では、代謝で消えたのか排泄で消えたのかが区別できないからです。ADMEは4つでも、血中濃度から見える顔は「入る(A)・広がる(D)・消える(M+E)」の3つです。
全体を貫く2つの数字
各論に入る前に、ADME全体をまたぐ数字を2つだけ置いておきます。
① F = Fa × Fg × Fh ― 入口で何割が生き残ったか
バイオアベイラビリティFは、飲んだ量のうち無傷で全身循環にたどり着いた割合です。国試では、これを3つの掛け算に分解した形で問われます(第104回・問41)。
F = Fa × Fg × Fh
- Fa … 消化管の中から上皮細胞に取り込まれる割合。溶けない・膜を通れない・壊される、で下がる
- Fg … 上皮細胞の中を代謝されずに通り抜ける割合。小腸のCYP3A4とエステラーゼが削る
- Fh … 肝臓を通り抜ける割合
掛け算である点が効きます。どれか1つが0.5なら他が完璧でもFは半分。「Fが低い」と言われたら、Fa・Fg・Fhのどれが犯人かを特定しにいく。
② t₁/₂ = 0.693 × Vd / CL ― 出口の速さは2つの数字で決まる
半減期は薬が生まれつき持つ性質ではなく、VdとCLから決まる従属的な数字です。
- Vd(D段階)が大きいほど半減期は長い。組織に隠れている薬は血中にいないので処理されようがない
- CL(M+E段階)が大きいほど半減期は短い
第100回・問47は、ここをまっすぐ突いてきました。「全身クリアランスと分布容積がともに2倍になると、消失半減期はどうなるか」。 答えは変化しない。
つまり半減期という1つの数字の中に、D と M と E が全部入っている。 だから「半減期が延びた」という情報だけでは、分布が変わったのか消失が変わったのかを特定できません。どの段階の話かを見抜く——この記事の主題が、そのまま計算問題の姿で出てきます。
A:吸収 ― 律速は「溶けるか、膜を通るか」
経口薬は溶ける → 膜を通る → 壊されずに上皮を抜ける → 肝臓を生き延びるという関門を順に越えます。どの関門がいちばん遅いか(律速段階)が、そのまま吸収の速さと量を決めます。
- 消化管吸収における薬側の要因まとめ … 溶解性・膜透過性・安定性。脂溶性薬は溶解が律速、水溶性薬は膜透過が律速という入れ替わりと、脂溶性薬にだけ立ちはだかる非攪拌水層が中心。FaとFgを削っているのは誰かという視点で読んでください
- 消化管吸収における体側の要因(生理学的要因)まとめ … GER(胃内容排出速度)・血流・胆汁酸・相互作用。同じ食後でも、単純拡散の薬(アセトアミノフェン)は遅くなり、能動輸送の薬(リボフラビン)は多く入るという逆転がハイライト
- 非経口薬(注射・経皮・直腸・鼻・肺・口腔粘膜)まとめ … そもそも消化管を通らない道。判定基準は門脈を通るかどうかの一言。初回通過効果を受ける例外は腹腔内注射と直腸上部の2つだけです
D:分布 ― 律速は「タンパクの手を離れられるか」
血液に入った薬は組織へ散っていきます。ここで効くのが血漿タンパクとの結合。血管の壁を越えられるのは非結合形だけなので、タンパクに捕まっている間、薬は血中に足止めされます。
- 分布容積とは?具体例と代表薬の覚え方 … 組織にどれだけ持っていかれたかを血漿側から見た数字がVd。Vd = Vp +(fp/ft)× Vt と分解すると、薬ごとに動くのはfp/ftだけ
- 薬物のタンパク結合の基礎 … そのfpを決めている側。アルブミン=酸性薬物、α₁-酸性糖タンパク質=塩基性薬物。結合率が高い薬ほど、わずかな変動で非結合形が何倍にも振れる
- 薬物のタンパク結合の解析(スキャッチャードプロット) … 席の奪い合いをグラフで扱う回。競合阻害はK↓・n不変、非競合阻害はn↓・K不変が結論
- 薬の移行性(脳内・胎児・母乳・リンパ)まとめ … 普通の毛細血管では説明がつかない4か所。BBBの実体は脳毛細血管内皮細胞、BCSFBは脈絡叢上皮細胞。入れ替えて出題されます
M:代謝 ― 律速は「酵素の本数と腕っぷし」
代謝の目的は解毒ではなく、腎臓から捨てられる形に作り替えることです。律速になるのは酵素の本数と1本あたりの処理能力。この2つを動かすものが、そのまま相互作用と個人差になります。
- 薬物代謝の基礎とCYPの分子種の覚え方 … 土台の回。CYPは小胞体にあるヘム鉄を持つモノオキシゲナーゼ。分子種と代表薬を語呂で固定し、代謝されて初めて効く活性代謝物まで扱います
- プロドラッグの覚え方・目的別まとめ … 代謝を邪魔者ではなく設計に使う側。吸収を上げる・副作用を減らす・標的で活性化すると、目的別に整理します
- 代謝阻害のメカニズムと相互作用まとめ … 本数は変わらず塞がれるだけなので併用したその日から効く。可逆的な配位結合と不可逆的な共有結合の区別が近年の本丸
- 代謝誘導とは?誘導物質の覚え方 … こちらは本数そのものが増える。転写・翻訳を経るので1〜2週間遅れて効き、やめても遅れて戻る
- 薬物代謝酵素の遺伝子多型(プアーメタボライザー) … 生まれつきで、やめても戻らない個人差。判断軸は「その酵素が薬を壊しているのか、作っているのか」の1行
E:排泄 ― 律速は「水に溶けているか、大きすぎないか」
出口は2つ。薬の大きさとタンパク結合率で行き先が分かれます。
- 腎排泄の仕組みと腎クリアランスの指標 … 糸球体ろ過・尿細管分泌・尿細管再吸収の3段階。ろ過を通れるのは非結合形だけなので、結合率が高い薬は腎から出ていけない。CLr =(GFR × fp + CLs)×(1 − R) は「入る総量 × 戻らずに残る割合」と読みます
- 胆汁中排泄と腸肝循環の仕組み … 腎で捨てられない薬の道。肝臓の毛細血管は不連続型で、結合形のまま血管の外に出られる——腎との決定的な差です
段階はつながっている ― 4つの「またぎ」
ADMEを1本の線として持つと、単元をまたぐ論点が見えてきます。国試が点差をつけるのは、ほぼここです。
① CYP3A4は「代謝」の話であり、同時に「吸収」の話でもある。 CYP3A4は小腸の上皮細胞にも多いので、経口薬は肝臓に着く前から削られます。これがFgの正体で、グレープフルーツジュースの相互作用が経口でしか起きないのも、成分が小腸までしか届かないからです。
② タンパク結合は「分布」だけの話ではない。 非結合形分率fpは分布(Vd)・糸球体ろ過・肝代謝の3か所を同時に動かします。だから低アルブミン血症のフェニトインでは、総濃度が下がっているのに非結合形濃度は保たれるという、計測値と実体のずれが起きます。
③ 胆汁排泄は、腸肝循環で「吸収」に戻ってくる。 肝臓がグルクロン酸抱合で鍵をかけて捨てた薬を、腸内細菌のβ-グルクロニダーゼが脱抱合して鍵を開ける。 脂溶性が戻った薬は再吸収され、門脈から肝臓へ帰ります。Eの出口がAの入口につながっている、ADMEが一方通行でない最大の例です。
④ 代謝は、排泄の下ごしらえである。 腎臓は原尿の99%を水ごと回収するので尿細管の中では薬が濃縮され、脂溶性が高ければ単純拡散で血液へ戻ってしまう(再吸収)。 脂溶性のままでは、何度ろ過しても捨てられない。 だから代謝で極性を上げる。MとEは別単元ではなく、同じ目的の前半と後半です。
国試ではこう問われる
第97〜111回の15年分では、クリアランスと半減期が15回すべて、分布容積14回、初回通過効果14回、バイオアベイラビリティ13回。骨格そのものが毎年問われています。ここでは1問の中で段階をまたぐタイプを集めました。
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第104回・問41(必須) | 経口投与された薬物のバイオアベイラビリティを表す式 | F = Fa・Fg・Fh。 足し算の選択肢が並ぶので掛け算だと分かれば即決 |
| 第100回・問46(必須) | 経口投与時のバイオアベイラビリティを増加させるのはどれか | 正解は「肝臓における薬物代謝酵素の阻害」。誤答の4つが溶解性↓・膜透過性↓・小腸の酵素誘導・胆汁中排泄の促進と、別々の段階から集められている |
| 第107回・問171 | プラバスタチンの体内動態(2つ選べ) | 下で掘り下げます。1剤でADMEを一周させる問題 |
| 第111回・問172 | 薬物・併用薬・相互作用の機序の組合せ | 酵素の対応まで合っていても「阻害か誘導か」でひっくり返される。 M段階の定番 |
| 第110回・問195 | 薬物動態の変化に関連する記述(2つ選べ) | 正解は心不全での腎排泄速度の低下と小児で水溶性薬物の体重当たりVdが大きいこと。病態がDとEのどちらを動かしたかを仕分ける |
掘り下げるなら第107回・問171。プラバスタチン1剤でADMEを一周できます。
- 選択肢1「シトクロムP450による代謝を受けやすい」 → 誤り。CYPでの代謝をほとんど受けないので、他のスタチンで問題になるCYP3A4の相互作用が起きにくい
- 選択肢2「胆管側膜に存在するMRP2により胆汁中に分泌される」 → 正しい(→胆汁中排泄)
- 選択肢3「キニジンとの併用により中枢移行量が増える」 → 誤り。中枢移行はBBBのP-糖タンパク質の話。プラバスタチンは親水性が高く脳へ入りません
- 選択肢4「シクロスポリンとの併用により血中濃度が上昇する」 → 正しい。シクロスポリンが肝取り込み輸送体OATP1B1を阻害するため
- 選択肢5「OCT1を介して肝細胞内に取り込まれる」 → 誤り。有機アニオンであるプラバスタチンを運ぶのはOATP1B1。カチオン用の輸送体ではありません
答えは2と4。5つの選択肢が「代謝」「排泄」「分布」「相互作用」「取り込み」と、毎回ちがう段階から飛んでくるのが分かるでしょうか。入口はOATP1B1、出口はMRP2、代謝はほとんど受けない——1剤の動きをADMEの順に並べ直せるかが、そのまま得点になっています。
選択肢4の急所は、シクロスポリンが止めるのが排出ではなく取り込みだという点。肝臓に入れないから溜まるのであって、「捨てられないから溜まる」のではありません。どの段階で止まったのかを毎回確認する——ADMEを1本の線として持つ意味は、ここにあります。
まとめ
- ADMEは吸収→分布→代謝→排泄の4段階。 ただしMとEはまとめて「消失」で、血中濃度の上では区別がつかない
- A段階の数字は F = Fa × Fg × Fh。 掛け算なのでどれか1つが犯人でもFは落ちる。Fgの正体は小腸上皮のCYP3A4とエステラーゼで、初回通過効果は肝臓だけの話ではない
- D段階の数字はVdとfp。 組織へ行けるのは非結合形だけ
- M段階の律速は酵素の本数と処理能力。 阻害は本数を変えずに塞ぐ(即日)、誘導は本数を増やす(1〜2週間)、多型は生まれつきで戻らない
- E段階は、腎はフリー体しか捨てられず、肝は結合形ごと捕まえられる。 この構造差が住み分けを生む
- t₁/₂ = 0.693 × Vd / CL。 半減期の中にDとM+Eが両方入っているので、半減期の変化だけでは原因を特定できない
- またぎは4つ。①CYP3A4は吸収でもある ②タンパク結合は分布・ろ過・肝代謝の3か所を動かす ③胆汁排泄は腸肝循環で吸収に戻る ④代謝は排泄の下ごしらえ
- 国試の引っかけはほぼ全部が「段階のすり替え」。結論だけでなく、どの段階のどの機序かまで揃える
次は消化管吸収における薬側の要因まとめを読んでみてください。地図を持ったところで、1つ目の関門——飲んだ薬が小腸で何に邪魔されるのか、から降りていきます。
薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、薬剤という科目のほんの一区画です。実際には、吸収から分布・代謝・排泄、そして製剤設計までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全33本・約11時間。「なぜこの薬がここで出てくるのか」「さっき覚えたあの話が、どこにつながるのか」が、バラバラの知識ではなく流れとして入ってきます。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
薬剤のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。