
薬側の要因と体側の要因で、経口投与がいかに邪魔されるかを見てきました。溶けない、膜を通れない、胃酸で壊れる、腸内細菌に戻される、小腸のCYP3A4に削られ、そのうえ肝臓が待ち構えている。なら、消化管を通らなければいい——それが非経口投与です。
経路は注射・経皮・直腸・鼻粘膜・肺・口腔粘膜の6つ。数は多く見えますが、国試が問うことはほぼ1つに集約されます。
その経路は、肝臓を最初に通るのか、通らないのか。
つまり肝初回通過効果を受けるかどうか。この記事のゴールは、6つの経路を「受けるグループ」と「回避できるグループ」に仕分けられるようになることです。例外が2つしかないと分かってしまえば、この単元は終わり。あわせてなぜその経路だと速く入るのかを解剖学的な理由で言えるようにしていきます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
全体を貫く1本の軸 ― 門脈を通るかどうか
肝初回通過効果を受けるかどうかは、難しい話ではなく、血管の配管の問題です。
消化管から吸収された血液は、いったん全部「門脈」に集められて肝臓へ運ばれます。 肝臓は栄養の処理工場であると同時に、外から入ってきた異物を最初に検問する関所でもある。だから門脈に入る経路=肝臓を最初に通る=初回通過効果を受ける、門脈に入らない経路=全身循環へ直行=回避できる。これだけです(消化管上皮のCYP3A4に削られる分も初回通過効果に含まれる点は薬側の要因を参照)。
そして本題。6経路のうち、初回通過効果を受けるのは2つだけです。腹腔内注射と直腸の上部。この2つの例外だけ覚えて、あとは「回避できる」でまとめて処理します。
注射 ― 投与部位で門脈を通るかが決まる
注射は「血管に直接入れるから速い」と思われがちですが、部位によって配管が違うのが国試の出どころです。
| 投与部位 | 行き先 | 肝初回通過効果 |
|---|---|---|
| 腹腔内注射 | 腸間膜の血管 → 門脈 → 肝臓 | 受ける |
| 皮下・筋肉内・皮内 | 局所の毛細血管 → 全身循環 | 受けない |
腹腔内注射だけが例外です。腹腔内は腸管や腸間膜が詰まっている場所で、そこの静脈血は門脈に集まる——だから消化管から吸収したのと同じ運命をたどります。国試では「例外として初回通過効果を受ける」という一点で問われます。
吸収の調節 ― わざと遅らせる
注射剤は基本的に吸収が速い。打てばすぐ効きます。だからこそ注射での工夫は逆方向——わざと吸収を遅らせて効果を持続させることです。インスリンの持続型製剤やリュープロレリンのデポ剤がその例で、ここは局所用・注射型・経皮型のDDS製剤が主戦場です。
経皮 ― 角質層をどう越えるか

皮膚から入るルートは3つあります。
- メインルート(経細胞・角質層透過ルート) … 角質層を真っすぐ透過する。主役はこれ
- 細胞間隙ルート … 角質細胞のあいだを縫って進む
- 経付属器官ルート … 毛包・皮脂腺・汗腺を通る。ただし付属器官は皮膚面積の1%程度しかなく寄与は小さい
そして最大の関門が角質層です。死んで核を失った角化細胞(ケラチンの詰まった板)が積み重なり、そのすき間をセラミドなどの細胞間脂質が埋めた構造——よく「レンガとモルタル」にたとえられます。水も通さず、大きな分子も通さない。 乾燥と異物から身を守るための壁なので当然です。
ここで1つ、国試がよく突いてくる点を潰しておきます。角質層は厚さ10〜20μmで、皮膚を構成する層の中ではいちばん薄い。 真皮は1〜2mmありますから桁が違います。「最も厚いから最大の障壁」という選択肢は誤りです。薄いのに、最強の壁。ここを取り違えないでください。
角質層を越える工夫
密封療法(ODT)が代表です。皮膚をラップなどで覆うと、汗や水分が逃げられず角質層が水和して軟化する。 レンガの壁がふやければバリア機能は落ち、透過性が上がるというわけです。
もう1つ、プロドラッグ化という手があります。皮膚の中にはエステラーゼがあるので、カルボキシ基(-COOH)をエステル化して脂溶性を上げておくと角質層を通り抜けやすくなり、通過後にエステラーゼで-COOHに戻されて水溶性が高まり、真皮側へ進みやすくなる。 関門の性質に合わせて薬の顔を2回変えるわけです(→プロドラッグ)。
経皮吸収は原則として単純拡散で、pH分配仮説に従います。肝初回通過効果は回避。代表薬はニトログリセリン、ツロブテロール、フェンタニルです。貼付剤の中の構造(リザーバー型・マトリックス型など)はコントロールドリリースの担当です。
直腸 ― 入れる深さで、肝臓を通るかが変わる

この単元でいちばん面白いところ。同じ坐剤でも、入れる深さで運命が変わります。
直腸の静脈は、奥から順に上・中・下の3本に分かれています。
| 静脈 | 行き先 | 肝初回通過効果 |
|---|---|---|
| 上直腸静脈 | 下腸間膜静脈 → 門脈 → 肝臓 | 受ける |
| 中・下直腸静脈 | 内腸骨静脈 → 下大静脈 | 受けない |
上直腸静脈だけが門脈系なのです。だから坐剤を奥まで入れすぎると、せっかくの非経口投与なのに肝臓を通ってしまう。 正しい使い方は、中〜下直腸のあたりに収まる深さで入れること。図の「坐薬ここまで」がその位置です。
服薬指導でそのまま使える知識でもあります。「奥まで押し込んだほうがよく効く」わけではない——むしろ逆になりうる、と説明できるようになってください。
吸収促進剤:カプリン酸ナトリウム
直腸粘膜からの吸収を高める添加物として、カプリン酸ナトリウムが重要です。
語呂:「お尻をカプッと」カプリン酸
作用は、粘膜の脂質二重膜の流動性を上げて、薬を通りやすくすること。使われている製剤は2つ覚えます。
- 小児用のアンピシリン坐剤
- セフチゾキシムナトリウムの坐剤
どちらも抗菌薬で、しかも吸収させにくい薬。だから促進剤の力を借りる、という筋が通っています(→DDSの吸収改善)。
鼻粘膜 ― 分子量が大きくても入る
鼻から入れる代表薬はデスモプレシンとナファレリン。どちらもペプチド性のホルモン誘導体です(デスモプレシンは抗利尿ホルモン(バソプレシン)の誘導体、ナファレリンはGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の誘導体)。
ペプチドですから分子量が大きい。経口では消化酵素に分解されて終わりです。ところが鼻粘膜からなら、分子量1,000以上でも経口よりよく吸収される。
なぜか。鼻粘膜の上皮は多列線毛上皮で、皮膚のような角質層を持たず、粘膜自体が薄い。 そのうえ血流が豊富なので入った薬はすぐ運び去られ、濃度差が保たれます。「バリアが薄くて、はけ口が太い」——これが高分子でも入る理由です。
- 利点:肝初回通過効果を回避できる。原則単純拡散でpH分配仮説に従う
- 欠点:鼻炎などがあると吸収が安定しない
肺 ― 粒子径で行き先が決まる

肺は吸入した粒子の大きさで、届く場所が変わるという物理の話になります。
| 粒子径 | どこまで届くか |
|---|---|
| 10μmより大きい | 上気道で捕捉される |
| 2〜10μm | 下気道(気管支)で捕捉される |
| 0.5〜1μm | 肺胞に到達して沈着・吸収され、全身へ |
| 0.5μm未満 | 肺胞に沈着せず、呼気とともに出ていく |
大きすぎても小さすぎてもダメ——ここが引っかかりどころです。
理由は空気の流れで説明できます。大きい粒子は重くて慣性が大きいので、気道が曲がったところで曲がりきれず壁にぶつかって落ちる(慣性衝突)。逆に小さすぎる粒子は軽すぎて沈降せず、空気の流れに乗ったまま吐く息と一緒に出ていく。ちょうど肺胞に落ち着くのが0.5〜1μmです。
肺胞まで届けば、そこから先は速い。肺胞上皮はきわめて薄く、表面積が大きく、毛細血管が張り巡らされている——ガス交換のための構造が、そのまま薬の吸収に有利に働きます。I型肺胞上皮細胞から単純拡散で全身へ移行し、肝初回通過効果はありません。
肺胞上皮細胞は2種類。I型がガス交換を担う主役で面積の大半を占め、II型は肺サーファクタントを分泌して表面張力を下げ、肺胞がつぶれないようにする役です。薬が通っていくのはI型——これがそのまま選択肢になります(剤形は口腔内適用製剤・坐剤・吸入剤へ)。
口腔粘膜 ― 舌下錠が速い理由
口腔粘膜は消化管の粘膜より薄いので、吸収が速い。原則は単純拡散、そして肝初回通過効果を回避できます。
剤形は舌下錠とバッカル錠。代表薬はニトログリセリンの舌下錠です。狭心症の発作時に取り出して舌の下に入れる——あの使い方は、「速く吸収される」という口腔粘膜の性質をそのまま治療戦略にしたもの。飲み込むと初回通過効果で大半が消えるので、舌下でなければ意味がありません。
口腔の中でも場所によって差があり、吸収速度がいちばん大きいのは舌下粘膜です。舌の裏側は角化していない薄い粘膜で、血流が豊富——鼻粘膜が高分子を通す理由と同じ構図です。
国試ではこう問われる
第97〜111回の15年分で、初回通過効果は14回。舌下錠8回、肺胞8回、ニトログリセリン10回、角質層5回、カプリン酸2回(第106・110回)、ナファレリン1回(第107回)。投与経路をまとめて比較させる問題が、数年おきに必ず1問出ます。
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第105回・問169 | 薬物の吸収について(2つ選べ) | 下で掘り下げます。経皮・鼻・口腔・直腸を1問に詰め込んだ典型問題 |
| 第104回・問163 | 経肺吸収について(2つ選べ) | 「肺胞内に沈着させるには粒子径を0.5nm以下に抑える必要がある」は誤り。 単位も向きも違う |
| 第100回・問166 | 薬物の吸収について | 「肺からの吸収はI型肺胞上皮細胞を介した単純拡散」「角質層の厚さの部位差で経皮吸収も部位により異なる」が正しい。 一方「坐剤は経口投与時と同程度に肝初回通過効果を受ける」は誤り |
| 第103回・問42(必須) | 親水性薬物の経皮吸収における最大の障壁はどれか | 角質層。皮脂腺・真皮層・毛嚢・毛細血管が誤答 |
| 第110回・問54(必須) | 直腸からの吸収改善に用いられる吸収促進剤はどれか | カプリン酸ナトリウム |
| 第107回・問52(必須) | 全身作用を目的としたナファレリン酢酸塩水和物製剤の適用部位はどれか | 鼻。眼・肺・皮膚・耳が誤答 |
| 第106回・問184 | 我が国で実用化されているDDS(2つ選べ) | 「ニトログリセリンのテープ剤は肝初回通過効果を回避する経皮吸収型製剤」と「セフチゾキシムナトリウムの吸収を高めるためカプリン酸ナトリウムを添加した坐剤」が正しい |
掘り下げるなら第105回・問169です。この記事の内容だけで5つの選択肢すべてを切れる、教科書のような1問です。
- 選択肢1「抗コリン薬は、胃内容排出速度を増大させ…」 → 誤り。抗コリン薬はGERを低下させます(体側の要因)
- 選択肢2「鼻粘膜は重層扁平上皮細胞からなり、細胞間は密着結合により強固に結合しているため、バリアー機能は高く、高分子薬物の吸収部位としては不適である」 → 誤り。鼻粘膜は多列線毛上皮で、分子量1,000以上のペプチドでも経口よりよく吸収される。だからデスモプレシンやナファレリンが点鼻で使われている
- 選択肢3「皮膚の角質層は皮膚を構成する層の中で最も厚いため、薬物の経皮吸収における最大の障壁となる」 → 誤り。最大の障壁であることは正しいが、最も厚いのではなく最も薄い。 正しい記述と誤った理由をくっつけた、いやらしい作りです
- 選択肢4「口腔粘膜からの薬物吸収は、一般に受動拡散によって起こるが、その吸収速度は部位により異なり、舌下粘膜で大きい」 → 正しい
- 選択肢5「直腸下部からの薬物吸収は、門脈や肝臓を通過せずに全身循環に移行するため、肝初回通過効果を回避できる」 → 正しい
答えは4と5。選択肢3の作り方は、この記事でわざわざ「薄いのに最強の壁」と強調した理由そのものです。「角質層が最大の障壁」という結論だけ覚えていると、理由の部分が差し替えられていることに気づけません。 国試はこういう置き換えを常習的にやってきます。結論だけでなく、理由ごと覚える。 それがこのクラスター全体を通じての姿勢です。
まとめ
- 非経口投与の目的は肝初回通過効果の回避と、消化管の酸・消化酵素・腸内細菌を避けること
- 判定基準は門脈を通るかどうかのひと言。門脈に入る=肝臓が最初の関所
- 初回通過効果を受ける例外は2つだけ。腹腔内注射と、直腸上部(上直腸静脈)
- 注射は皮下・筋肉内・皮内なら回避。注射での工夫はわざと吸収を遅らせて持続させる方向(インスリン持続型・リュープロレリンのデポ剤)
- 経皮のメインルートは角質層を透過するルート。付属器官は面積の1%程度で寄与は小さい
- 角質層は皮膚の中で最も薄いのに、最大の障壁。 「最も厚いから」は誤り
- 角質層の突破法は密封療法(水和・軟化させてバリア機能を下げる)とエステル化によるプロドラッグ化。代表薬はニトログリセリン・ツロブテロール・フェンタニル
- 坐剤は奥まで入れすぎない。 上直腸静脈は門脈へ、中・下直腸静脈は下大静脈へ。吸収促進剤はカプリン酸ナトリウム(「お尻をカプッと」)で、小児用アンピシリン坐剤・セフチゾキシム坐剤に使われる
- 鼻粘膜は薄い多列線毛上皮+豊富な血流なので、分子量1,000以上でも経口よりよく吸収される(デスモプレシン・ナファレリン)。鼻炎があると不安定
- 肺は0.5〜1μmが肺胞に到達。大きすぎると気道で捕捉され、0.5μm未満は吐き出される。I型肺胞上皮細胞から単純拡散
- 口腔粘膜は薄くて吸収が速く、舌下粘膜がいちばん速い。ニトログリセリン舌下錠が代表で、剤形は舌下錠・バッカル錠
次は分布容積とは?具体例と代表薬の覚え方を読んでみてください。吸収はここで終わり、ここからは「体に入った薬がどこへ行くのか」という分布の話に移ります。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。
薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、薬剤という科目のほんの一区画です。実際には、吸収から分布・代謝・排泄、そして製剤設計までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全33本・約11時間。「なぜこの薬がここで出てくるのか」「さっき覚えたあの話が、どこにつながるのか」が、バラバラの知識ではなく流れとして入ってきます。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
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